僕と最強幼女と狂った世界

土佐 牛乳

決着とケチャップ 13


 歯を食いしばるような、そんな歯さえも僕には無かった。本格的にウジ虫になってしまった僕は、それでもと、激情に任せて大声をあげた。

「ああああぁああああああああああ!!」

 上手く言葉が発することができない自分。そんなことさえも、僕にはどうでもよかった。もう負けたくはない。逃げたくもない。失いたくもない。言い訳もしたくない。
  今度こそ。
  転がるように彼へと移動した。

「もうそこまでにしておけ」

 彼は僕を蔑むように、まるで動物を見ているかのように、僕を下に見る目線で見ていた。
  こんなもの覆しようもないことは僕にはわかっている。知っているんだ。だから……

「ららっておぉおッ!!」

 大きな音の鳴る楽器を突然と鳴らしたように、僕は大声を張り上げていた。それは、言葉ではなくなっている。でも血を吐き出しながらも、僕は張り上げた。
  出した後には、右の肺が潰れてしまったのか、凄まじい吐き出すような激痛が襲った。
「……」
 地にいる僕をただじっと見ている彼。その言葉表情は僕には認識ができない。
 死ぬほど痛かった。死ぬほど怖かった。死ぬほど苦しかった。死ぬほど情けなかった。死ぬほど嫌だった。死ぬほどやめたかった。死ぬほど消えたかった。
  でも投げ出すのはもっと嫌だ。


「……感服だ。貴様のスタフェリアへの忠誠は計り知れないものとわかった、だがそのままでは貴様が壊れるぞ」


 僕は彼の言っていることが理解ができなかった。
  何を言ってるんだ。僕はとっくのとっくの間に壊れている。誰かが僕を壊したのではなく、環境が僕を壊したのではなく、ましてや壊れているものに憧れいているわけでもなく。
 僕は自分自身で、僕を、いやあらかじめ壊しておいた。
  それは誰でもなく、自分自身のためであった。なんでこんなことをしているのか、なんでこんな人間になってしまったのか、なんで自分自身でも本音がわからない人間になってしまったのか、なんでこんなにも生きていることが苦しいのか。
  そんなものいまはどうだっていい。
  僕は、スタフェリアといる。

 ――ただそれだけでいいんだ。


「何か呪いがあるのかわからんが、鬼さえも”使えない”お前に、このワシに勝算があると思うのか?」

 だから……

「あかあ、おうしあっえいうんあッ!!」

 激情。
  僕は胃からひっくり返る量の胃酸と血を吐いていた。
 ついに、体内の水分が底を尽きかけているのか、視界が本格的に真っ暗になっていた。声を張り上げたことに後悔はなかった。張り裂けるような痛みはあった。
 突然、大きな振動と揺れと共に体中に電量のようなものが走った。僕は彼に頭を踏みつけられていた。まるでサッカーボールのように。
「これで最後だ。何かこの世に言い残したことはあるか?」
 ついに僕は首の神経が、壊れてしまったのか体を動かすことができなくなった。まるで人形のような有様に彼はただ言葉を投げかける。
  僕は言葉を返すことさえできなくなっていた。もちろん意識も眠気のようなものが襲ってきた。痛みはいつの間にか、限界に達しているのか何も感じることはない。
  あれほど寒い空気だったのに、あれほど冷たい地面だったのに。

「夜久よ…… まだ諦めるような時間じゃないことはわかっておるか?」

 幻聴のような声が、確かに僕の耳から聞こえていた。まるでそれは僕の、大好きな人の声であった。まあ人かなんて僕にはわからないけど、でもそんな声に、若い人女の子の声に、聴きなれた声に、僕は少しだけ安心した。
  そしてゆっくりと、僕に暗闇が襲ってきた。まるで早送りでやってきた夜のようでもあった。


「動けるようになったのか祖龍。いいやスタフェリア・アブソリュータ・ウロボロウス」

 彼は完全に機動が停止している男の足を踏みつけながら、そんなことを呟いた。まるでもとから殺さないように、その足をどかして、目の前、目と鼻の先10メートル先に立っていたスタフェリアをしっかりと見ていた。

「よくも、この余の眷属をイジメよって」

 夜久を一目見て、一安心したかとおもうと軽い口調で彼女は彼に投げかけた。

「何を言っている、こいつがこれを望んだのだ。それもお前のためにだぞ」

 まるで信じられんと言わんばかりの彼の言葉であった。

「どうやら、この世界のこやつは、この絶対的に君主である、この余を気に入っているらしいのじゃ」

「ありえん、こいつは空っぽであるぞ。まるで空気と話しているようであった。まるで変わらん。それがなぜお前の味方についているのか、宿敵の運命であるにも関わらず」

 虚構と、前が対峙をする世界のように、彼もまた彼女と対抗する運命だったのだ。

  しかしそれは……

「それは、前の世界の話じゃろうて。この世界にはこの世界のことしか起こらんのじゃよ」

「なるほど、新勢力があちこちで顔を見せていると思っていたがこうにまで、森羅万象に影響があるとは。戦いの仲裁人すらいなかったのに、あいつがこの世界を仕切るのも調節しているのもわかる。あいつは何が狙いなのかお前は知っているのか?」

 彼は、こちらをじっと見ていた。相座時之氏守刄を見ていた。守刄ははうっとあくびをすると、スタフェリアたちを見て手を振っていた。

「んなもんは、わからんわい。ただ逆らうことも許さん真性の悪党をしている、神のようなものじゃ。まるでこの世界のルールのようでもある。ほれそこのボロボロの男をこれと交換せぬか?」

 スタフェリアは、首からぶら下げるように引きずっていた華憐を軽々しく投げた。華憐は寝ているのか、気絶しているのか体は眠ったようにぐったりしている。

「いいだろう」

 男もまた、答えるようにして、血だらけの夜久の体を蹴り上げた。どさっと音が鳴り、スタフェリアの目の前にうつ伏せになって死んだように寝ている。

「育児放棄もほどほどにするのじゃぞ、この猪め」

 スタフェリアは、毒づくように言った。華憐がどのような人生を送っていたのかある程度察することができたからだ。

「狂信者のようにこの男を誘惑している貴様もだ」

 鼻で笑うかのように、彼は答えていた。

 数秒、沈黙が流れて。

「では始めるか糞豚め」

「かかってこい、翼の生えた下種のトカゲめ」








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