僕と最強幼女と狂った世界

土佐 牛乳

決着とケチャップ 12




  彼は、痛みで腹を右手で抑えながら、悶えていた腹に更なる足踏みを僕へと踏みつける。
  口にまで這い上がった胃酸が血と反吐を吐くようなハーモニーを編み出した。視界は滲み、まるで悪い夢を見ているかのようでもあった。

「では、死ね」

 僕の頭を潰そうと、手に持っていたハンマーを大きく振りかぶった。
  
  刹那。

 現状を変えるすべも無く、彼に挑んだ。もちろんそれは、この状態になるのはわかっていることであった。それが、僕の決めたことであるということでもあり、やらなければならないこともでもあった。スタフェリアが、多分だけれど、今は勝負には勝ったんだろうけど、動けない状態にあるのは、彼女とリンクをしているためか、意識的にわかっていた。
  だから彼女が回復に専念、または動けるようになるまでには、僕がやらなければならない。彼の肘が、大きく僕のあまたを潰そうと、動きを見せていた。
  まるで、昔に経験した、理不尽をそのまま具現化したような彼の強さ。僕はそんな理不尽にわかって飛び込んで、立ち向かった。それが正解だとはもちろん思っていない。だからあの後逃げた。だけれど、僕はどうしても許せなかった。自分が間違いだとしても、それでも行ける僕であった。昔は首を突っ込まずにはいられない、あんな僕であった。だけれど、今はどうなんだろうか。僕はこのままで、精神が死んだように生きるのだろうか。もちろんそれはダメだと分かっている。昔の自分だったら、何が何でも向かうのかもしれない。だけれど、もう僕は死んだようなものであった。そんな僕が誰かのためになるんだろうか。いいや、自分のために生きられるんだろうか。

  空っぽだ。今も昔も。

  信念すらあるのか無いのか僕には自分のことがわからない。
  だけれど、昔の僕と、居間の僕が唯一同じである点は、誰かのために動いているということであった。そのあとどんな不徳を積んでも、多分それだけであった。
  ということは、僕は昔とは変わっていないということなんだろうか。まあ僕は馬鹿のまま、何もせずにちゃらんぽらんに今も昔も生きている。変わらない、それが僕だ。
  ならあまり難しく考えずに、自分の成すことをすべきであると、そう思う。
  昔の反省点を洗いなおすなら、謙虚にこの物語の、僕の物語の主人公をすることだ。
  やれるだろう、まるで死んだように、ふてくされた魚のように。


 なあ?

  
 僕は彼の攻撃を避けるべく、体を素早く回転させていた。
  ここで諦めたら、あの時から今までのように、一生後悔することになる。それだけは謙虚でいることよりも、どうも嫌であった。この世界で僕が主人公でないことも分かっている。だけれど僕の物語こころでは僕が主人公だ。誰のためでもなく、自分のためにここはあきらめずにいるべきである。だって僕はこの物語《人生》を書いている、作者の分身であるのだから。
  攻撃は体を半回転させて、無くなった丁度左肩の近くに当たった。地面に当たったと、思いきや凄まじい自身のような振動が、地面で転がっていた僕の内臓全体に響いた。
  まるで自然災害のような攻撃に、僕は怯むわけでもなく、彼へと次の攻撃を仕掛ける。こんな状況だからこそ、それこそ物語の主人公のようにいるべきである。

「がああああ、だああああああああッ!!」

 叫びのようでもない、激情を張り上げて、僕は体を捻じれるようにして、立ち上がると同時に、アッパーのような全力のパンチを彼の腹へとぶち当てた。
  ボンッ!!
  確かに攻撃は彼の人体的な急所、つまりは気を失うような腹上へと当てたのであるが、まるでそれだけでは現状は変わらないと言っているような、そんな彼の立ち姿に、僕は何度も何度も何度も、諦めずに片手でパンチを当て続けた。
  しかし、気付けば僕は空中に飛ばされていた。まるであの反撃が幻想だったかのように、僕はいつの間にやら、空へと浮かんでいたのである。一つ言えること、それは口の中の、固形物が一つ残らず無くなっているということであった。そして舌は、大量の口内炎ができたように鋭利な痛みがある傷だらけであり、そして全体的にしょっぱい鉄のような味があり、僕はどれだけ殴られたのだろうかという、そんな感想、そして今は空中と言いながら、何処にいるんだろうかと、風船のようにぱんぱんに膨れ上がった小さな視界で、辺りを一望した。
  夜で暗闇、そして肌寒かった。まるで冬の寒さのようでもある。
  その肌寒さを肌で感じたあたりで、僕は背中から、大きな石をぶつけられたかのような衝撃が、体全体に生き通った。その衝撃は、頭の中をぐちゃぐちゃに滅茶苦茶に、フルシェイクされたジュースのように、トロトロな脳みそになっていたと思う。
  そして、目覚めたように、痛みが僕の中で生きているかのように暴れまわった。
  僕はそんな鈍い痛みに、ついに意識が途切れかかっていた。まるで麻酔を物理的に使われてしまったような、なにか人間の強度を計る実験でもしてるのだろうかと、僕はそんなことを、とんでもなくのんきなことを考える。
  この前にアリの巣にしょんべんをしてしまった罰なのだろうか。はたまた僕という人間が×そのものなんだろうか。それか僕故に、鳥が飛ぶように、僕には傷だらけの未来があったんだろうか。ああそうだった、スタフェリアのためであった。そんな自分のためでもあった。

 それのどこが悪いのか。
  
 僕は右腕が無くなっていることに気が付いた。それでも、動かない足ではいずり周るかのように、彼へと反撃しようと、動いた。まるでウジ虫のようでもある。
  体全体を、うねらせる様にして立っている彼へと、少しずつ移動していた。まるで、手足が無くなった虫のように、僕は地面を移動しているのであった。
  そして、せめてもの反撃で、彼の足を噛みついた。噛む力が無くなっているのか歯が無くなってしまったのか、初めに噛んでいた位置から、ずるりと下へと滑る。元から噛んでいた位置から、壁にペンキをべちゃりと塗ったように、血が付いた。
  すると、顔を蹴られた。僕はテーブルに伏せられたカードが縦にひっくり返ったように、背中から、めくるようにして倒れた。一つ気づいたことがあった。僕の足が無くなっていた。文字通りに僕はウジ虫となっていた。










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