僕と最強幼女と狂った世界

土佐 牛乳

決着とケチャップ 7


 時を戻して、二人が戦闘を始めた時。
 二人は、鏡合わせのようにして見合っていた。その片方はごく普通の体格をしている少年、そしてもう片方は、イノシシの頭をしているが、体は人間のままの男。
  両者は、まるで一つ隙を見せたらどちらかが、食われてしまいそうなそんな緊張が、空気さえ刃が生えわたっているような、そんな一場面が、そこに広がっていた。

「先輩のことも遠慮せずして、あなたを倒します」

 夜久は臆することなく、ただ彼らしく、ただ彼のように、ただ誰かのためでもなく、ただ自分のために、ただ一瞬の曇りもなく、ただ全てを無に帰そうともあり続けようと一つの芯で、ただそれはいままでのような彼らしくもなく、ただそれはいままでのような彼のようでもあり、ただそれは、雨が上空から降ってくるように、ただそれはあたりまえのことがあたりまえのように、ただそれは全てが間違えているとも言えるように、ただそれは、一滴の水滴もなく、ただそれは、一つの傷もなく、ただそれは一つの曇りさえも許さない。
  そんな声音であり、言葉であり、彼の、つまりは夜久の答えであった。
  スタフェリアと共にいたい、ただそれだけであり、ただそれだけでもあった。

  世の中というもは当たり前にして不平等である。誰かが裕福であり続け、その他はただの有象無象である。しかしながらそれは一つの主観的観測からの感想である。客観的に世の中というものを見れば、誰だって苦労はあり、幸福があり、絶望があり、その他のものがある。みんながみんな同じようなものを手に入れられないように、世の中は甘ったるくはできてはいない。一個人の欲の大きさで、他人と同じようなものであっても、あるものにとっては満ち足りないものであるからだ。それは一つの世界の有り様として、人間にもプログラミングされているようでもある。だから絶対的なんて、そんな曖昧なものはこの世界にはないのである。まるで人間に寿命があるように。絶対的というものは、つまるところ、それは幻想である。虚実である。空っぽである。ないものなのだ。つまりはこの世界は矛盾しているのである。狂った世界なのだ。まるでこの題名のように。
  そしてスタフェリアもまた僕の、天野路夜久の感想から言えば僕と同じような有り様だ。だって僕らは惹かれあってしまったのだ。まるで同じようなものが引っ付くこの世界のように、僕とスタフェリアは同じようなものであったのだ。口を酸っぱくして言おう。絶対的なものがないように、またスタフェリアも空っぽであるからだ。だから僕と彼女はとなりあっている。こうして一緒になっている。

 相違なものは、同質である。
  
  僕にとっては彼女はもちろん大切なものである。それは僕の考えではあるけれど、たまにだけれど彼女にも同じような感情を感じられる。それは何故なのか僕にはわからない。だけれど僕はこれらが、つまりは今こうしているのが僕にとっては好きなことなんだろうと僕は感じている。スタフェリアは強い。だから僕の助けなんていらずに僕を助け出してしまうのかもしれない。だから僕はスタフェリアと一緒にいたい。
  たとえ僕の方が先に死んでしまっても、彼女の方が先に死んでしまっても。僕は絶対的に排泄的に虚無的に彼女を愛するだろう。それが僕なのだ。

 僕はこうやって何度も答えを独白してしまうのは、僕にとってはそれらが気に入っているからなのだろう。まるでアニソンのサビを何度も何度も何度も口ずさむように、お気に入りの格言を見つけてしまったら、大学ノートの裏に書いてしまうように、鮮明なほどの描写を見つけてしまったら、そこのページに貼り付けメモを付けてしまうように、好きな人ができたら何度も顔を見てしまうように。

 だから僕には躊躇なく彼が倒せる。

 僕は彼のその体格の大きさにわざわざ引いてしまうような軟な人間ではないと自分自身の心を客観的に見て、そう感じた。それは僕が、どこまで彼についていくことができるのかという自身でもあり、つまりはそれは確かな力の表明でもあった。
  だからといって、ここで相手を過小評価するのにはやっぱり駄目であると僕はわかっているため、その男のハンマーつまりは、彼が言っていた神具というものの形状を見ていた。
  まああそれは、ハンマーである。一つの牙の生えた物体から、中を通すようにして棒が、つまりはそれを持ってその大きな物を振り上げる物である。その材質形状は、鉄、いや僕にはこれの詳細という者はまったくと、思い浮かばないほど未知の色をしていた。まるで地球上のどの物質でも当てはまらないようなカラーリングであったのだ。そのカラーとは、紫である。まるで禍々しくあるも、時折神聖なる光の反射を見せている材質。ブラックボックスの中身はなんだろうかと聞かれてしまったら、このカラーリングを見た後では、この色だと答えるくらいである。なにか不思議な色であったことは、この僕の目を疑ってはだめだ。そして、ハンマーのような形状でありながらも、装飾、つまりはその武器には牙のような、イノシシの牙のようなものがその武器から生えているように、付いていた。とって付けたような牙ではなく、まるでそこにあったかのような牙であるのだ。それほどまでに、彼の持っていた武器という物は、形状は知っていても、品格というもの、材質、何がどうなっているのか、それらすべてのものがわからなかった。とにかく僕にはわからないものであると、まるで銃も知らないような縄文人が銃を見たような感覚になるだろうなと僕はそんな比喩を思い付きながら、彼の持っていた武器を見ていた。

「数歩、数歩だ。お互いにあるいてそれからだ」

















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