僕と最強幼女と狂った世界
もう一つの始まり
一つ大きな戦闘の山場を越えた辺りでスタフェリアと、大柄な男が向かい合っていた。辺りは砂とチリと化して、まさに人がたどり着けないような者たちの勝負となっていた。しかしこの勝負は、お互いにまだ本気を出してはいなかった。彼女はいまだ、必勝法を思い浮かんではいなかったのだ。それは彼がどこまでもどこまでもメタにメタをする男であるからである。そのイノシシの顔をして、大柄な、いかにも頭が良くないと思わせる容姿であるが、しかしその中身は、冷静沈着な男であった。
  それと彼は、混沌派生の究極の属性を持ち合わせていたため、スタフェリアの全治の力、『輪廻する世界』の能力、『翼祖竜の眼光』を使っていても、彼には全くと効くことが無かった。それはどうしようもない相性の問題であり、それは覆しようのない一つのルールであった。だからとして彼女はここで諦めるわけにはいかなかった。それは彼女の眷属である、夜久の存在があるからだ。それは彼女のどうしようもなく気に入ってしまった人物であり、彼と運命的に出会ったのを少しばかり気に入っていたからであった。もちろん彼の人なりも好きであったからだ。恋のようなものでもなくただそこにいて安心できる存在が、夜久であったのだ。高貴なる自分をまるで一人の人に扱ってくれる人はこれまであったことがなかったため、物珍しいというものもあった。いや彼の性格がスタフェリアに合っていた。
  ただそれだけであり、それが真実であり、それが答えであり、それが回答であり、それが、彼女の生きる理由であり、それが彼女そのものであった。
  だからこの勝負には勝たなければならない。それはどうしても彼女自身のスタフェリアのためでもあり、夜久のためでもあった。
  これからこのような戦いが続くとなると、彼女はどうしようもなく彼に申し訳なくなるも、それでもいいとも考えていた。彼と一緒にいれたらそれでいいのだと。
  その先がどうなるのか、彼女にはわからない。しかし夜久のような一般人にはつらいことかもしれない、まああいつは少しばかり心がイカれている人間ではあるが、たまには人間らしい表情を見せることがある。初めに合った時とは、すこしは人間味が増したのではないかと彼女は推測する。まるで自分が人間のようだと言っているかのようで心の中で愉快な気分になった。彼といるだけで色あせていた永遠の時間に、色が付いているかのような感覚におぼれていた。このままおぼれ続けているだけでも戦えるような気がしていた。
  ――まあ、こんなのも悪くはないのう。
「そういえば貴様の名前を一度も言わなかったのは何故じゃったと思う?」
スタフェリアは、彼にそう投げかけていた。
「――それはしらない」
少し風が目の前を通り過ぎるかのような沈黙の後、男はそう答えた。
「貴様が嫌いで嫌いで仕方のなかったからじゃよ」
「そうか……。 憎い感情のようなものか? それとも嫌悪感のようなものか?」
「どちらかと言えば、二度と顔を見たくない者の顔を見てしまったかのような感情じゃ」
「だれかに失恋でもしたのか?」
「……。今は違うがの」そう言って口の中で歯ぎしり様な音が聞こえ「……まあよい、貴様は一生あのようなゴキブリ女に腰を擦り続ければいいんじゃよ」
「ワシの愛人になんてことを言うんだ貴様は」
「お前に言っておるのじゃよ」彼女は呆れた顔でそう言った。彼がここまで肝心なところで頓珍漢な性格をしてるのは、頭の中の昔の彼の情報と全くと変わらなった。
考えてみればこいつは夜久と似ていることにスタフェリアは気づいたあたりで、
「だがなスタフェリア、ワシはお前を倒さなければならない」
彼はそう言ってのけた。それは彼の本心からしっかりと出ていた声であった。
ここまで無神経な彼に、まあ昔の彼女はよく感情を抱いていたなと思った。
「それは、そうか…… ならばこの余も貴様をそろそろやななければならないかのう」
彼女はそう言って、その足を彼の方へと進みだした。
「次こそ、貴様の本気を見せてみろ」
「望むところじゃよ、貴様とはもう決別しなければならないからのう」そう言って彼女は、後ろから歩いてくる一人の男性の足音を耳から感じ取った。「ほら、この余の眷属が戦闘を終えて来たようじゃ」彼女は後ろをゆっくりと振り向いた。
一人の男が、血まみれの男が、ゆっくりと歩いてきたからであった。体中は、血を浴びており、そこまでの苦戦は無かったもののの、その目からは、決意がこもったような、何か吹っ切れたような、何かの感情のねじを緩めたような、そんな目となっていた。
そして彼女の横に来ると彼は一言こういった。
「スタフェリア待たせたな、どうやら僕は雑魚に足を掴まれていたけれど、圧倒的暴力で勝って、それを解いたのちに、再起不能にまで追い込んでやったよ」ほらと彼は、敗者の残骸を親指で指を向ける。
その頭を無理矢理なぶり取ったような人形の有様である残骸を、彼女は一目見て、彼がどこまでセリフと合わせて狂言鬼であるのか、しかりと見た。顔を夜久に戻すと。
「夜久よ、貴様は人間で言う善意が欠落してきておる、悪魔の王になれるくらいの素質があるわい」
「君もザコ共の頭を吹っ飛ばしていたりしていただろう…… それに比べると僕は虫を嬲り潰した、無邪気な残虐非道子供さ…… まあいいさ」彼は彼女を一目見て呆れたような目になりさらに「僕が魔王なら、君は覇王といったところだろうね」
「覇王か…… なかなかいいのう」
表情を切り替えたのちに彼は来いった。「よしじゃあ、せっかくまた二人で戦えるようになったのだから、どちらが先にあの豚を倒せるか勝負をしないか? 勝負の後はイノシシパーティーでもしよう」
「それはいいのう、実にいい考えじゃ」悪党のような顔で返答した。
「しかしよスタフェリア、貴様の本気というものはなんなのだ?」
 大男はそう聞いていた。
「この鬼畜野郎と、共通の相手を倒すことじゃよ猪頭め」
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