僕と最強幼女と狂った世界

土佐 牛乳

それぞれの思い1



 爆風の中スタフェリアは、自身の力全てを使って、見る者からは体から乗り込むような渾身の一撃、右手から繰り出されるパンチをしていた。『輪廻する世界ワールドラウンダー』の能力の一つ、『翼祖竜の眼光イアーウロボロウス』を使って、相手の意識境界を把握するも、比無き精神力を持っている相手、つまりスタフェリアの目の前に立っている男には通じることが無かった。
  その彼女の力を同時に使った、ありったけの体を込めたパンチは男の体へは入ることなく、頭一個分横の残像へと当たり、そしてその時を狙っていた彼の、避けと同時の唸るようなカウンターがスタフェリアの腹へと衝突、爆散するがごとく、音と衝撃があった。
  その大男と張り合っていた華奢な体は、人形を嬲るようにくの字へと曲がり、口に含んでいた水分を噴き出るようにして吐きながら、いともたやすく、それはえげつなくも、体はその体格と似あうようにして後方へと綺麗な直線を描いて飛んでいった。
  その先はコンクリートでできた塀であった。それを背中一つで木端微塵に壊し、まるでそれは人間が発泡スチロールに大きな力を加えたようでもある。
  彼女の体は一時止まるが、しかし十秒も経たずして、意識を吹き替えると、彼女は目の前にいる男を一目見て、口に出ていた血を手の甲で拭きとった。拭いた血は直線を描く。

「まさかアレが使えぬとはのう」

 苦笑交じりに奴へと言葉を吐き捨てた。

「それもそのはず、あそこでの経験が私に耐性をくれいていた」

 それは殺気がありながらも彼はスタフェリアへとゆっくり歩を進めていた。

「まあそこらあたりの俗物とはお前は異質じゃから当たり前じゃったか」

「無論、ワシは中ボスだからな」

 その言葉に彼が、どれほどまでに現代に染まっているのか知ったスタフェリア。旧世界の経験を持っていた彼に驚いていた。彼女だけは旧世界の記憶は持っていても経験は、映画を見るように把握することしかできなかったからだ。いくらこの世界千年の経験をもってしても、彼女の何倍もある相手、あの男にはどうすることもできなかった。
 プライドが高い彼女は夜久に助けを求める算段は思い付いても、どうするか迷っていた。合性がそぐわない相手には、相手をしないといった考えで生きてきた。しかし夜久と出会い、人格的強度は少しづつと下がっていた。高貴であった自分と対等に接してきた一般人、それが物珍しいというものもあり、彼女は彼を気に入った。だから彼を守るためにと、あえて自身の敵、竜登大司との決闘をした。途中夜久が来るも、それらは運がよく神祖の連中によって大惨事は免れた。――あの時のようにはいかない。
  そんな彼女の中にある感情が芽生えた。夜久にまた助けてほしいという感情が。
  一歩一歩と歩を進める男に、彼女は考えを振り切り、高貴であろうとする自分をさらに奮い立たせた。いまだ衝撃の影響なのか視界が揺れながらも足を立たせる。
  それでもここで死ぬわけにはいかないと、彼女は口を噛みしめた。


 場所同じくして、二人の青年が向かい合っていた。一人は夜久という人物、もう一人の黒尽くめはタスクと名乗る人物。
  夜久は、いままでの厳格な青年であった男の豹変した言動、そして自信に満ちた表情にどのような経緯があって、ああなっているのかわからずじまいではあるが、やるしかないと自分に言い聞かせて、未知の標的を倒すべく、先手必勝という合言葉を頭に浮かべながら、その体をタスクという黒尽くめの男へと走っていった。
  その距離、体感にして八メートル。
 十二歩ほど進むと、タスクもまた動き出した。両者逸走の果てに、互いはあいさつ代わりと夜久は右の体重移動を乗せたキック、タスクは飛びつくようなパンチを繰り出した。
  ガツッ! と肉体がぶつかり合った音が鳴り、夜久は顔面に飛んでくるパンチを腕の筋肉で防ぎ、タスクは水か体から抜けて通るようにその攻撃を上体を反らして躱していた。

「前に戦ったときは、大人数でとんでもなく小賢しい攻撃をしてきたぞ」

「んな感想知るかよ! 未来の俺はとんでもなく小物で捻くれてしまったんだろうな」

 一瞬の隙で彼らは会話をして、次の攻撃へと駒を進める。
  タスクは、右の肩を下げたかと思うと、すぐさま左手のパンチを繰り出してきた。変則パンチを胸に食らった夜久は、負けじと全力のカウンターをタスクの肩へと当てる。
  それを見越してタスクは避けていたが、思っていたほど鋭く早いパンチに肩の筋肉は数センチだけ掠った。掠っている攻撃だが、夜久の筋力のおかげでそれなりのダメージを負った。タスクは、これほどまでに相手の場違いなほどの筋力があるとわかり、距離を取り銃撃への戦法へと切り替えた。元立っていた場所に、砂の山があると思い出したタスクは、その思考と同時に体を動かした。距離を取るため目くらましにと、体の片手で大胆に使ったバック宙返りで砂煙の山を鷲掴み、体を唸らせるようにして、夜久へと砂を投げた。
 その体感にして一秒もかからない目くらましに夜久は腕を前にして砂攻撃を防いだ。

「お前もあの時のように小賢しい真似をするんだな!」

「お褒めにあずかり、そりゃどーも!」

 双方、言葉の押収のあと、夜久は目の前に距離を取っていたタスクと言う男が、銃を構えているのを確認して、すぐさま体を横へと避けるように地面にジャンプしながら飛びついた。滑り込むようにして地面に転がってから、軽い身のこなしで受け身を取って、次の銃撃、次の銃撃と、寸分狂わずそれは、熟練の弾幕ゲーマーのように避けていった。
  段々と距離が近くなったところで、銃を蹴り上げて、タスクの手から離れさせることに成功した。

「最初から銃を使っておけば良かったのに」

「うるせえよ! 最初は殴り合いだって相場があるだろう!」

 すぐさまミッドレンジの殴り合いが始まった。
   肉弾戦は、タスクの反応速度が良く、なかなか攻撃が当たらなくとも、ちびちびと攻撃は掠っていて勝機があると確信している夜久であった。それに対して。
 タスクは、このジリ貧状態をどうにかしようと考えるが、先ほどの蹴り上げられた銃が、遠くへと行ってしまい、一瞬の隙を作って取るころには、夜久はまた接近してくると思い、四方八方をふさがれた状態である。









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