僕と最強幼女と狂った世界

土佐 牛乳

ぱいせんにちじょう3



 そして僕らは、男子と女子の指定席で離れ離れとなり、バスで揺られて一五分ほどで僕らの住宅街に付いた。バスを降りたころには随分と空が暗くなっており、アスファルト性の地面は、黒一色で淡い夕日を照らし、これから漆黒の世界へと向かうように時は進んでいた。そこらの民家や街灯、自動販売機はバスから降りた二人を照らすかのようにようにキャスティングしているようである。
 バスは彼女が住んでいる富田商店で止まった。部活帰りの生徒が乗っているバスは、ガラガラと席が空いているため、朝のような出勤ラッシュに似た光景からは考えられないほどにすいすいと出入り口へと移動することができた。

「よっと」

 前席にいた彼女が初めにおり、僕は後から降りた。シューっとバスの扉を閉める音が頭の後ろから聞こえて、バスが排気ガスの排出音と共に発進した。ギアの切り替え音がしたあたりで、彼女が話しかけてきた。

「少しだけだけど、春になったのかお日様が落ちてくるのが遅くなったね」

 彼女は周りの景色を一望して、そんなことを呟いた。それと同時に春風が僕たちを襲う。
  向かい合うようにして話していたため、彼女の制汗剤の匂いと汗と、柔軟剤の合わさった甘い匂いが、この辺り一面に漂い、その匂いに少しばかり僕はどきっとした。

「はい、春ですからね」

 ありきたりのような返しを彼女にして、僕は空を見た。満天の星が僕らを見ているように、それは春の冷たい空気になっているにも関わらず、温かいようないい気持ちとなった。
  それにつられたのか、彼女も爽快な星々を眺めている。このような青春の一ページというものはあまり経験がなかったため、むず痒くも済々とした気分になった。最近出くわしに出くわした非日常のおかしい現実を洗い流してくれるような綺麗さに僕は心を洗われた。

「星綺麗だね」

 彼女は、ポツリとそんなことを呟いた。
  後を追うようにして僕も、

「はい」

 と、言って少しだけ時間が経った頃、彼女から話しかけてきた。

「家の近くでやっくんと星を見るなんて、なんだか新鮮でいいね」

 その言葉に反応するようにして彼女の方を見た。その横顔は、無邪気な子供が、目新しい何かを見つけたように、キラキラしておりながらも、遠く及ばない何かを遠くから眺めているようなそんな表情をしていた。そして、もう一度見て、

「僕も久々に星を見ました、こうして見るのも何かいいですね」

 そして、スリッパでアスファルトを叩く音、誰かが近づいてきているような音が後ろの商店から聞こえてきたので、僕はちらっと見ると彼女のおばあちゃんが僕らを見ていた。

「先輩、おばあちゃんが」

 その声に彼女は、おばあちゃんを認識したのか、店側を見る。

「華憐、おかえりぃ」

 この地域に住んでいる年配の方々特有の訛りで声が聞こえてきた、彼女の帰宅を見ていたと僕は少しだけその声から感じられた。

「おばあちゃんただいま、やっくんいこ!」

 彼女のなすままに、富田商店の小さな民家へと歩みを進めて、おばあちゃんが二人の顔をしっかりと分かったところで、こう質問してきた。

「お、華憐のボーイフレインドさんですか?」

 何か愉快なものを見つけた声音でおばあちゃんはきいてきた。

「おばあちゃんちがうよ! 私の後輩です」

「えっと、まだ知り合って十日目ぐらいですが、仲良くさせてもらっています。天野路夜久といいます」にこやかと自分は思っているが、そんな笑顔をおばあちゃんに見せた。

「へえへえ、やく君ね。どうか華憐をよろしくお願いしますね」と僕に頭を下げた。

「あはは」と頭を掻いて、反応に困ってしまった僕はなあなあに笑った。

「もうおばあちゃんったら……」

 彼女は、おばあちゃんの冗談に少しだけ口をとがらせていた。
 先輩の機嫌を直すためにも、僕は要件のことを言ってみた。

「先輩、ところてんでしたっけ?」

「そうだった!」彼女は、なるほどと言わんばかりに拳を手のひらに当て「おばあちゃん、在庫にいっぱいあるところてんを、やっくんに上げたいんだけれど?」

「あ、はいはい、華憐がミスったやつだね」おばあちゃんは、あっさり答えて、「やく君、あんたは何でも持って帰っていいからね。おばあちゃんが、譲ってあげるから」

「いやいやそういうわけにはいきませんよ」手を振って意思表示をした。

「あ、そうだ。やっくんご飯食べていってよ」すかさず彼女は提案してきた。

「そぉうだね、食べていこうか」おばあちゃんも、彼女の提案を乗り気で答えた。

 出来る限りに僕は、「いえいえそういうわけには」と言って、遠慮をしたものの、二人に引っ張られて店でもあり、民家でもある富田商店の中へと、連れていかれた。
 二人とも決めたことに突っ走る性格が似ていたため、血は争えないと僕はそんな感想が生まれたのであった。









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