僕と最強幼女と狂った世界
一寸先は光
彼女の手だけが夜久の後を追うようにして、この空中に浮かんでいたのだった。
  それは、文字通りであり、夜久にただ手を伸ばしているようにしか見えていない。まるで手だけを残してどこかへ飛んで行ってしまったようでもある。
  確認してその光景が、頭で認識しているにも関わらす、夜久は彼女がいると、絶対に生きている、そこに存在しているという自己を塗り返すような確信をしながら、落下して次の攻撃の思考を始める。近い方から叩くべきだとそう考えた。
  空気から離れたようにして地面に着地すると、後ろにいるであろうその着地音は聞こえない。スタフェリア・アブソリュータ・ウロボロウスに夜久はこう叫んだ。
「大丈夫かよスタフェリア?」
答えはない。
  ほどなくして、ボトッという質量を持った物体が地面に付いた耳裏から音が聞こえた。
「これから俺との倒した数の勝負覚えてないって言わせないぜ」
声はない。
それは説明する手間もなく、点三つで構成された文字の返事であった。
「行くぜッ!!」
彼は、ありったけの脚力で近い方へと攻撃を開始した。貯めていた筋力で、瞬間移動のように彼の目の前に近づくと、ナックルで顔面を粉砕させる。この前のように反応は鈍い男たちに『何が神祖だよ』と思いながら、次へ次へと、奴らの頭を叩いていた。
「作戦は終了した。我々の呪詛によりスタフェリアは完全にこの世界からの消滅を確認。発動と同時に認識阻害の効果があるとはなんとも酔狂な効果」自身の手を眺めながら奴はそう呟く。「しかしながら、あの男には我々の正体が認識されているとは、相当の手練れよの」
一人、黒尽くめの男はいまだ鳥居の上にいる相座時之氏守刄を見てそう呟くと、一人、いまだ目の前で大胆に暴れている男に視界をずらした。
「あやつは、何を」
そこには、百花繚乱のように一人で暴れている人間の行動。
彼は度々誰もいない空間に話しかけると、パンチを繰り出しては、まるで幻想、別世界にいる者と戦っているように見える。それは彼ら、6人衆の前では、滑稽の極みとなっていたのだった。そして天野路夜久を細めた目で捉えた後に、右の口元が一寸ほど上がり、「ふふッ、終わらぬ夢を見つ続けるといい、狂言鬼よ。自身すらだまし続け、貴様の物語はここで終わりだ」
彼は、目の前の男を見て噴笑を顔に滲ませると、地面に落ちていた一つの華奢な右手を拾った。それはスタフェリアの右腕である。彼女は、右手だけを残してこの世から完全に消えたのだった。まるでこの世をパズルとして、一つ抜き取られたピースのようでもある。
目の前の男はいまだ踊り続ける。現実からも、目を背け、見えない連中と戦い続けている。それは、丸い容器に入ったメダカが容器をくるくると回すと、水流によって上流と錯覚して泳いでいるかのようでもある。
  夜久は、彼女が死んだということが、気づいていない自分というものを演じているのだった。それは、現実逃避の果て、いや自身すらも演じることで生きてきた男の本来あるべき姿がここに写っていたのである。彼は、いまだ六体を倒したにも関わらず、戦闘が周流すると、終わるだろうとわかるにも関わらず、戦闘をしていたのだった。彼の頭の中で新たなホログラムの敵を、自身の演技にそって作り出していたのである。もとから狂っていた男は、それすらも演じているのだった。もうそれは、生きた芸術品に近い存在である。全ては彼女がまだ生きていると、死んではいないとその永遠の舞台を自ら作っていたのだ。
「見よ、これが何もやり遂げることのできぬ者の末路よ。心は虚構、ありようも虚無。まさに、この世界の有り様そのものだ」彼は、後ろの同じ格好をした男たちにそう叫ぶと、大胆に笑いだした。それは狂気にそまった笑い声でもあった。そして、「我らは、創設者ジェネレイターズの”定石”。統合世界変革の要、死海書による計画通りの遂行。二回の新芽が過ぎた季節。『裏大蛇召喚の儀』のためにも、この腕は貰っていくぞ虚無の化身、いや狂言鬼よ」彼は、地面に無造作に置かれていたスタフェリアの腕を拾う。
「スタフェリアッ!!」
ついに許容限界となった虚勢は、崩壊したダムのように一つのモノの名前を叫んだ。
「スタフェリア!! 返事をしろッ!!」
続けて三度名前を呼ぶ、それに返事はない。
「……お前は、お前はッ、不滅の存在じゃねえのかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
夜久は、その手を。妄想の敵と戦闘をしているそのパンチを止めて、力の限り叫んだ。
眩い閃光が、神祖六人衆の先頭の男が荒く持っている、彼女の小さな腕から放たれた。
「何ッ!! これはッ!!」
  それはまさに、この地球に存分に、存在を知らしめているような太陽の光のようだ。サングラスをかけていたが、それすらも貫通するような光に、神祖達は、元を厳戒するための肉体の処理ができなくなっており、その目は使い物にならないようになっていた。
「な、なんだ!! どうなってんだ!?」
運よく夜久は、光ると同時に後ろを向いていたため、その損害はなかったが、周りが眩いばかりの光になったため、ふと気づいてその光っていた場所を見ると、消えかかりながら地面50センチあたりのところで、宙に浮いているその腕は、スタフェリアのものであった。しっかりと夜久の目で腰が抜けるように驚きながら気づき、その目でしっかりと捉えていたのだ。
「おちおち寝てられんわい」
どこからともなく聞こえるその声、語尾と共に、彼女は腕を持っていた人間の顎に強烈なアッパーパンチを神祖を自称する男に浴びせていた。頭の内部組織は、水中花火のように、地上を軸としてきれいにそれは扇状に飛んでいく。
「へえっ!!」
夜久は驚いた。その腕から、その華奢な、その体が勢いよく飛び出してきたからだ。血が噴き出ているその光景に驚き、赤い噴水を体中に浴びて一人の幼女が立っていた。
「スタフェリア!!」
夜久は、全ての幻想を振り払って、目の前の現実を捉えた。
「ちょっくら、本気のこの余の力を見せなければならんとはのう……」
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