僕と最強幼女と狂った世界

土佐 牛乳

初実戦弐夜




 暗闇に包み壊れた公園にて、二人の男女、六人のスーツを着た黒尽くめの男達が、対峙していた。それはその構図は、世界のありようでもあり、有と無と並ぶ新たなる概念の誕生を表していた。

「弐極する存在、陰陽太極図の擬人、善と悪の概念。絶有『旧旧世界の祖龍そりゅう』、絶無『旧世界の狂言鬼きょうげんき』の子孫達よ。我らが絶対服従を誓った存在、この世界の創設者ジェネレイターズの”定石ツール”として馳せ参じた」

「ほう偽神祖よ。貴様ら、喋ることができたのじゃのう」気高く、彼女は顔をあげるように、見下すように、全てを見ているかのように、彼ら六人衆を見ていた。そしてこう続ける。「一つ、この世界の創設者、ジェネレイターズとはなんじゃ?」

「フハハ、無知のお前に教えてやろう。我々を、この空気を、この風を、この光を、この闇を、この水を、この音を、このにおいを、この色を、この味を、あの花を、あの木を、物質全てを、この世界を、作り上げた存在だ。この世界で跋扈している無数の人間達もだ。無論お前たちもだがな」

 皮肉るように言う六星の先頭に立つ男。そして一方この物語の主人公、天野路夜久は、理解が及ばないのか、気が抜けるような吐息を吐いていた。この男の頭では理解ができなかった。それを感じ取っていたスタフェリアは、夜久のつま先へとへとかかとを潰すように強打して、夜久は痛みで眠気が襲っていた意識が鮮明になり、少しだけ涙目になった。

 頭に血が登りそうになったスタフェリアだが、意識を黒尽くめの奴らに変える。

「ほうそうか、では二つ目、いままでの三〇日間、一言もしゃべらずに余と戦い続けたのはなんだったんじゃ?」

「気づいているだろう、横にいる鬼をこちらの”怪”の世界まで連れてくるためだ。都合よくも引っかかりおって。最果ての運命からは誰も逃れられんよ狂言鬼。格言うお前もだ、スタフェリア・アブソリュータ・ウロボロウス」

 そう言い、厳格であった顔は、ゲスのはらわたのように動く。

「余は、何者からも逃げんよ、どこからでも来るがよい有象無象ども」

「翼の生えたトカゲよ。我ら定石ツールがその時代錯誤の…… いや世界錯誤の両翼をもぎ取ってやろう」



「スタフェリア」

 彼、天野路夜久の声は、スイッチが切り替わったように隣にいる彼女の名前を言う。第六感で彼らが直に動き出すだろうと、感じ取っていたのだ。

「ああ、わかっておるわい」

 彼女もまた、それを察知してていた。しかし彼女の中では、いくら天野路夜久に知識と経験と力を与えたとはいえ、彼が本当に戦えるのだろうかという、彼女らしからぬ疑問が喉のあたりまで蠢いていた。その疑問は、後の戦闘で晴れることとなるが、彼女は今はまだ、天野路夜久をただの一般人だという見当違いを変えることはできない。

「神祖、六天偽核…… 散開ッ!!」

 凍てつくような怒涛の末に、黒尽くめの男たちは、まるで機械のような効率の良い動きで、二人を覆い囲むようにして、動き出した。まさにそれは綺麗なプログラミングソースのようでもあり、最適解を見ているような気分になってしまう。
 彼女へ天野路は叫んだ。

「一人三匹ずつ、もしくは競争だスタフェリア!」

 拡散している黒尽くめ達を凝視して、小さな鉄級の振り子のように、彼ら彼女らはその場から反応、駄弁りながら移動。

「小生意気な畜生め…… いいじゃろう!! その勝負、余は乗るぞ」

 夜久の、安い挑発に乗ってしまったスタフェリア。夜久がここにきて、このような余裕を見せているということに、彼女は驚いていた。さすがは世の中を変える性質を持っている存在だと、彼女はそう思いつつ口から笑みがこぼれ始めた。
  そして、双方は一人のターゲットを定めて初撃を開始。 
  今宵、戦闘が開始される。


  視界の情報から、状況を確認して、ターゲットを決めた天野路夜久は、初動一瞬にして幻想のように、敵との距離を詰め、一撃の鋭く重いパンチを与えていた。敵の顔はトマトをつぶされたようにぐちゃぐちゃとした肉塊を飛翔させ、奇怪な音を立てて生命活動を継続できないようなダメージが与えられ、シャットダウンされたPCのように頭から力が抜けるようにして倒れた。いままでのような鍛えていないヒョロヒョロの体力ではなく、人力では到達できないような体の力に夜久は震えながらも、この自身の置かれた状況を楽しんでいた。幼少期に今は亡き父親から極真空手、父親独自のアレンジである古武術の類をスパルタ教育で伝授されていたいたからか、対人戦には、ある程度、武道を極めている者たちよりも強いという自信があり、さらには人力を越える力を得たのでまさに現代に生きる”鬼”である。
 まだ小さかった小学生の頃、理不尽な思いに逆上して、何度か人を半殺しにまで追い詰めたことがあり、それから彼は独りになった。大いなる力の前には、多大なる責任が伴うということを、幼少期に嫌というほど体験した。彼の心が壊れてしまったのも、ひとりになっているのにもこのような経験があったからである。


  一人、二人と、なぎ倒すスピードに、スタフェリアは驚愕しながらも彼女も二人目を倒し終えていた。いくら一人の力が強くても大人数には、それだけの時間がかかる。


 そして、最強にして、最恐にして、最凶にして、最狂の存在、スタフェリア・アブソリュータ・ウロボロウス。
  彼女の力の一端、それは純粋な万能的な強さではない。特殊能力、輪廻する世界ワールドラウンダーの使い手であり、その力は、全てを創世の果てへと帰化させる能力。幼少期、無限の果てを見た彼女は、一人の孤高の存在として旧旧世界の二次元論の悪として地上を取るがごとく歩ていた。すべては、定めの終焉にて、悲鳴を聞くために、そのためだけに。
 




「僕と最強幼女と狂った世界」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く