偽善な僕の明るい世界救済計画
2話 開戦
ウォールオブホープに陣取っている連合軍は、恐れていた光景を見ることになる。
魔王軍の足止めに先行していた部隊が、敗走してきたのである。
「開門!! 残存兵力は我らのみ、敵勢力は目と鼻の先まで迫っている!!」
死刑宣告にも近い報告が砦の内部にもたらされる。
人的な補充の限界はすぐに来るために、出来る限り人的な被害を出さないように慎重に転戦を続けていたが、それでも2割ほどの損害が出てしまっている。
機械化生物たちが作る『からくり』と呼ばれる武器による遠距離攻撃、さらに魔法による攻撃、エルフたちの指導の元、弓による射撃。
基本的に魔王軍に対する攻撃は遠くからの攻撃で足止めを図っている。
何度かの近接戦闘は、悲惨な人的被害を産んだ。
同じ轍を踏まないように全軍に徹底されている。
しかし、それでも、どんな犠牲を払ってもこの砦を死守せねばならない理由があった。
この砦を突破されると、表層世界へのルートを確保されてしまう。
現在地下世界と表層世界を結ぶ道はすでにドラガイアントにある、巨大な入り口を残すのみになっている。
他のルートはすでに各地での敗戦により崩落させ、多大なる犠牲の上で封鎖を行っている。
各国からの地上へのルートを失い、そして国土も放棄しての封鎖だ。
しかし、ここは封鎖することが出来ない。
巨大すぎるルートを完全に封鎖する方法が無いのである。
つまり、ここを抜かれると、地上に無尽蔵に魔王軍が広がってしまい、それに組織的に抵抗できる戦力は残存している国々には存在しない。
この砦の死守は全グランニーズの民の本当に最後の希望なのだ。
作戦はこの場を最終防衛ラインとして、10年間奮戦を続けていた。
砦もすべての国の総力を上げて巨大化し、敵を撃滅できずとも防ぐ。
それを目標に拡張し続けてきた。
しかし、とうとうその最終防衛ラインに敵の侵入を許してしまったのだ。
「この10年で築き上げてきた希望の壁は、我らグランニーズに生きる者にとって、最後の壁である!!」
急遽全軍招集され、来るべき最終決戦に向けた演説が開始される。
グランニーズ軍、通称グラン軍を10年間維持できていたのは、この演説の主である総大将バハムリッド候の力であることを疑う者はグラン軍には存在しない。
竜族の大将軍、英雄バハムリッド。
自らも積極的に前線に立ち、数多くの魔王軍を討ち果たし、友軍を救い続けてきた。
連戦に次ぐ連戦により傷だらけの顔、白髪がまじり始めた黄金のたてがみ、何度も折れてすでに見る影もない角。
その全てが彼を誇り高い戦士であることを示す名誉ある姿。
見るもの全てに、敬意と戦いに向けての意欲を沸き立たせる。
竜族の戦闘衣装である甲冑に身を包み、全員に激を飛ばす。
彼の眼前には様々な種族から集められた歴戦の勇者たちが並ぶ。
すべての種族が手を携え、共に戦ってきた。
仲の悪かったエルフとドワーフ、機械化生物と精霊など、今はもう関係ない。
この10年を共に戦ってきた戦友だ。
力強い英雄の言葉を聞いても、彼らには拭えぬ予感があった。
ここまで、ここまで遅滞を続けてきたが、この場が限界であり、すでに目的は、この場でどれだけの時間を稼げるか……
それは確信にも似ている。
英雄バハムリッド自身でさえ、そう考えていた。
「敵部隊視認されました!!」
先発隊の帰還から3時間、ついに砦から魔王軍が確認された。
全兵は第一級臨戦態勢が取られ、文官達は必死に戦士たちのシフトを割り出し続けている。
巨大防壁から見える魔王軍は、洞窟内を照らすヒカリゴケの光を写してヌラヌラと動く波のようだった。
後にバハムリッドは自書でそう記していた。
防壁から見える全ての地上に、魔王軍はうごめいていた。
自身が取り込んだ情報からぐちゃぐちゃに作られた魔物たちは、禍々しい異形の姿をしている。
その禍々しい身体には必ず美しい宝石のようなものが存在する。
魔石と呼ばれる石だ。
魔物達が食らった物は魔石へと力として貯められ、魔王はその魔石を取り込む。
そしてまた魔石を持つ魔物を産み出すのだ。
同時に弱点でもあるので、グラン軍は兎にも角にも魔石を攻撃する。
明確な弱点があることで、なんとか遅滞戦術が成立してくる。
接近されてしまえば、圧倒的な力によって蹂躙され、捕食され骨の一欠片も残らない。
魔石を砕いた魔物でさえ、魔王の元へ霧のようになって戻って他の魔物の身体に利用されてしまう。
それでも魔石を砕けば敵の数を減らせられる上に次の出産までは魔物を減らしていることが出来る。
「総員構えー!!」
防壁上の『からくり』部隊に号令がかかる。
巨大な円盤を回してその間に石を入れればすごい勢いで飛んでいく。
単純な作りの『からくり』が隊員の手押し車によって回転を早めていく。
ぶーーーんと羽音のような音が沢山の『からくり』から響き出す。
「なあに、目の前全てが的だから気負う必要はない!
訓練どおり、防衛ラインを越えたら、あとはもう打ち続けるだけだ!」
「倒れるまで回し続けるぞー!」
「おいおい、倒れる前に交替してくれよ、一回止まると大変なだぜー」
「ちげぇねぇ!」
力自慢のオーガ達が回し車を押しながら軽口を叩く。
皆最後の戦いであることも、恐らく帰ることがない片道切符であることも理解しているが、不思議と悲壮感はなかった。
10年という時間、すべての種族が肩を並べ、共通の敵と戦えたことは、彼らにとって誇りとなっていた。
最後の祭りを、盛大に、そして出来る限り地上で待つ家族達の時間を稼ぐために踏ん張る事。
それが、今、この場にいる戦士たちの共通の魂の燃やし方だったのだろう。
「さーて、おしゃべりはここまでだ!!
お客さんがいらっしゃったぞ! 盛大にお迎えしようじゃないか!!
誇り高きグランニーズに栄光あれ!!
撃てーーーーーーーーーー!!!!!」
ボッ。 という石を撃ち出す音。
ビュオオオオと石が風を切り裂く音が一斉に鳴り響く。
時を置かずに遠くでズガンという炸裂音が耳の良い獣人達に届いてくる。
『からくり』の一つである遠見鏡を覗くと、魔王軍の兵士は身体に穴を開けて倒れ、そこに周囲の魔物が群がっている。
見事に魔石を撃ち抜かれた者は光を放ち消えていく。
「どんどん撃てー、お客さんはまだまだ空腹みたいだ!!」
だんだんと射出されていく石、用意された弾には限りはあるものの、準備を重ねてきた備蓄から一生懸命補充されている。
圧倒的遠距離からの『カラクリ』による砲撃。
初戦は、グラン軍の勝利に見える。
いつも通り……
魔王軍の足止めに先行していた部隊が、敗走してきたのである。
「開門!! 残存兵力は我らのみ、敵勢力は目と鼻の先まで迫っている!!」
死刑宣告にも近い報告が砦の内部にもたらされる。
人的な補充の限界はすぐに来るために、出来る限り人的な被害を出さないように慎重に転戦を続けていたが、それでも2割ほどの損害が出てしまっている。
機械化生物たちが作る『からくり』と呼ばれる武器による遠距離攻撃、さらに魔法による攻撃、エルフたちの指導の元、弓による射撃。
基本的に魔王軍に対する攻撃は遠くからの攻撃で足止めを図っている。
何度かの近接戦闘は、悲惨な人的被害を産んだ。
同じ轍を踏まないように全軍に徹底されている。
しかし、それでも、どんな犠牲を払ってもこの砦を死守せねばならない理由があった。
この砦を突破されると、表層世界へのルートを確保されてしまう。
現在地下世界と表層世界を結ぶ道はすでにドラガイアントにある、巨大な入り口を残すのみになっている。
他のルートはすでに各地での敗戦により崩落させ、多大なる犠牲の上で封鎖を行っている。
各国からの地上へのルートを失い、そして国土も放棄しての封鎖だ。
しかし、ここは封鎖することが出来ない。
巨大すぎるルートを完全に封鎖する方法が無いのである。
つまり、ここを抜かれると、地上に無尽蔵に魔王軍が広がってしまい、それに組織的に抵抗できる戦力は残存している国々には存在しない。
この砦の死守は全グランニーズの民の本当に最後の希望なのだ。
作戦はこの場を最終防衛ラインとして、10年間奮戦を続けていた。
砦もすべての国の総力を上げて巨大化し、敵を撃滅できずとも防ぐ。
それを目標に拡張し続けてきた。
しかし、とうとうその最終防衛ラインに敵の侵入を許してしまったのだ。
「この10年で築き上げてきた希望の壁は、我らグランニーズに生きる者にとって、最後の壁である!!」
急遽全軍招集され、来るべき最終決戦に向けた演説が開始される。
グランニーズ軍、通称グラン軍を10年間維持できていたのは、この演説の主である総大将バハムリッド候の力であることを疑う者はグラン軍には存在しない。
竜族の大将軍、英雄バハムリッド。
自らも積極的に前線に立ち、数多くの魔王軍を討ち果たし、友軍を救い続けてきた。
連戦に次ぐ連戦により傷だらけの顔、白髪がまじり始めた黄金のたてがみ、何度も折れてすでに見る影もない角。
その全てが彼を誇り高い戦士であることを示す名誉ある姿。
見るもの全てに、敬意と戦いに向けての意欲を沸き立たせる。
竜族の戦闘衣装である甲冑に身を包み、全員に激を飛ばす。
彼の眼前には様々な種族から集められた歴戦の勇者たちが並ぶ。
すべての種族が手を携え、共に戦ってきた。
仲の悪かったエルフとドワーフ、機械化生物と精霊など、今はもう関係ない。
この10年を共に戦ってきた戦友だ。
力強い英雄の言葉を聞いても、彼らには拭えぬ予感があった。
ここまで、ここまで遅滞を続けてきたが、この場が限界であり、すでに目的は、この場でどれだけの時間を稼げるか……
それは確信にも似ている。
英雄バハムリッド自身でさえ、そう考えていた。
「敵部隊視認されました!!」
先発隊の帰還から3時間、ついに砦から魔王軍が確認された。
全兵は第一級臨戦態勢が取られ、文官達は必死に戦士たちのシフトを割り出し続けている。
巨大防壁から見える魔王軍は、洞窟内を照らすヒカリゴケの光を写してヌラヌラと動く波のようだった。
後にバハムリッドは自書でそう記していた。
防壁から見える全ての地上に、魔王軍はうごめいていた。
自身が取り込んだ情報からぐちゃぐちゃに作られた魔物たちは、禍々しい異形の姿をしている。
その禍々しい身体には必ず美しい宝石のようなものが存在する。
魔石と呼ばれる石だ。
魔物達が食らった物は魔石へと力として貯められ、魔王はその魔石を取り込む。
そしてまた魔石を持つ魔物を産み出すのだ。
同時に弱点でもあるので、グラン軍は兎にも角にも魔石を攻撃する。
明確な弱点があることで、なんとか遅滞戦術が成立してくる。
接近されてしまえば、圧倒的な力によって蹂躙され、捕食され骨の一欠片も残らない。
魔石を砕いた魔物でさえ、魔王の元へ霧のようになって戻って他の魔物の身体に利用されてしまう。
それでも魔石を砕けば敵の数を減らせられる上に次の出産までは魔物を減らしていることが出来る。
「総員構えー!!」
防壁上の『からくり』部隊に号令がかかる。
巨大な円盤を回してその間に石を入れればすごい勢いで飛んでいく。
単純な作りの『からくり』が隊員の手押し車によって回転を早めていく。
ぶーーーんと羽音のような音が沢山の『からくり』から響き出す。
「なあに、目の前全てが的だから気負う必要はない!
訓練どおり、防衛ラインを越えたら、あとはもう打ち続けるだけだ!」
「倒れるまで回し続けるぞー!」
「おいおい、倒れる前に交替してくれよ、一回止まると大変なだぜー」
「ちげぇねぇ!」
力自慢のオーガ達が回し車を押しながら軽口を叩く。
皆最後の戦いであることも、恐らく帰ることがない片道切符であることも理解しているが、不思議と悲壮感はなかった。
10年という時間、すべての種族が肩を並べ、共通の敵と戦えたことは、彼らにとって誇りとなっていた。
最後の祭りを、盛大に、そして出来る限り地上で待つ家族達の時間を稼ぐために踏ん張る事。
それが、今、この場にいる戦士たちの共通の魂の燃やし方だったのだろう。
「さーて、おしゃべりはここまでだ!!
お客さんがいらっしゃったぞ! 盛大にお迎えしようじゃないか!!
誇り高きグランニーズに栄光あれ!!
撃てーーーーーーーーーー!!!!!」
ボッ。 という石を撃ち出す音。
ビュオオオオと石が風を切り裂く音が一斉に鳴り響く。
時を置かずに遠くでズガンという炸裂音が耳の良い獣人達に届いてくる。
『からくり』の一つである遠見鏡を覗くと、魔王軍の兵士は身体に穴を開けて倒れ、そこに周囲の魔物が群がっている。
見事に魔石を撃ち抜かれた者は光を放ち消えていく。
「どんどん撃てー、お客さんはまだまだ空腹みたいだ!!」
だんだんと射出されていく石、用意された弾には限りはあるものの、準備を重ねてきた備蓄から一生懸命補充されている。
圧倒的遠距離からの『カラクリ』による砲撃。
初戦は、グラン軍の勝利に見える。
いつも通り……
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