そして僕は君を探す旅に出た~無力な僕の異世界放浪記~
そして僕は小さな出会いを繰り返す
旅を始めてから何日も歩いた。小さな集落や村を越え、そこに住む人は僕を歓迎し迎えてくれる。そして、短い出会いと別れを繰り返す。
「君はどこから来たんだい?」
「ヴォーダ村からです」
今もこうしてとある集落の老夫婦の家でお世話になっていた。集落に立ち寄った時間が夕方頃だったのもあり、一人の老人に話し掛け、旅をしている事と休める場所が無いか聞いた所、家に泊まって行けばいいとの好意を受けたのだ。
「ヴォーダ村かい。懐かしい名前の村を聞いたね」
「知っているんですか?」
「知っているとも。昔ヴォーダ村から来たと言う若者がいてね。確かデニスと言ったかな?」
村長が冒険者として旅に出たと言う話は聞いていたけど、まさか村長の事を知っている人物と知り合えるなんて思ってもみなかった。
「その人は今は村で村長をしていますよ」
「そうなのかね。あの若者がねぇ」
遠い昔の話を思い出すように老人は語る。森で魔物に襲われていた時に助けられたらしく、今ここにいるのは村長のおかげだと感謝をしていた。
「そう言えばこの近くに大きな街なんてあるんですか?」
「一番近くにミエストの街があるの。ただ街道を行っても馬車で数日掛かるから歩いて行くなら森を抜けた方が早いかもしれんの」
「森ですか?」
「そうじゃな。比較的安全な道も出来ておるからそこを行くと良いじゃろ」
様々な話に花を咲かせ、寝床に入る。ベッドなどきちんとした物は無いけど、屋根があり、寝具も準備して貰ったのだから文句など出る訳もない。野宿なんかするよりも疲れも取れると言う物だ。
翌日、老夫婦から見送られ、僕は森の中へと足を踏み入れた。整備がされている訳では無いが、人の足で踏み固められ続けた道のようで、獣道よりも歩きやすい。
老人が言うには一晩は森の中で過ごす事にはなるが、広い場所で一晩過ごせるキャンプのような場所があるとも言っていた。まずはそこを目指すべきだろう。
時折、人とすれ違ったりする辺り、よく使われる道なのだろうと思う。鬱蒼と生い茂る木々のトンネルをひたすらに歩く。
昼間なのに薄暗いのは不思議な気分にさせてくれる。あまり変わらない景色、見えない太陽の位置は僕の時間の感覚を狂わせるけど、それほど心配にもならない。
小鳥のさえずる声や時折吹く風が心地よくも思える。どのくらい歩いたのかは分からないけど、ただでさえ薄暗かった森の道が闇に包まれそうになった頃、僕は目的の場所へと到着する。そこには一つのパーティがおり、野宿をする準備をしていた。
「こんばんは。一人かい?」
「はい。ミエストの街に向かっています」
旅人風の男に話し掛けられる。髪の毛は剃り落とされ、いかつい風貌で、顔の皺に生きた証を刻んでいた。
「そんなに見てどうしたんだ? この頭か? これは薄くなってしまってな。思い切って剃ってみたんだ」
何も聞いていないのに頭の話をしだす男を見て笑いが込み上げてきた。笑っていると男の仲間らしき人物が数人集まって来て、頭をネタに笑い合っている。
「せっかく知り合ったんだ。一緒に食事をしよう」
パーティの男の一人がそう提案をすると全員がそうしようと盛り上がり部外者だった僕も混ざっての食事が始まった。僕は残っていたパンをパーティのメンバーに分け与える。
このパーティは四人パーティで年齢も様々だった。元々は単独で動いていたらしかったが、旅の途中で知り合い意気投合してパーティを組み行動を共にするようになったらしい。
最初に僕に話し掛けた男は一度旅を諦めたが昔、一緒に旅をした仲間を探す為に旅を再開したらしい。
「この辺りは比較的安全な場所だと聞いているが、魔物がいない訳ではないからな。交代で見張りをしよう」
食事も終わり、談笑をしているとパーティのリーダーをしている人物が言う。みんな了承し、僕もその見張りに参加をすると言ったが、大丈夫だと断られてしまう。
それでも気が引けて、自分なりに警戒を怠らないようにしていた。そして、夜も遅くなり、適当な場所に陣取って目を閉じる。
「おい! 魔物がいる」
見張りをしていた男が声を潜めて仲間を起こしている声が聞こえた。僕は起こされた訳では無いが浅い眠りから目を覚ました。
「お、起きたな。若いのに大したもんだ」
「僕に旅を教えてくれた人が野宿をする時は警戒を怠らない事って教えてくれましたから」
かつてバルおじさんが教えてくれた事を思い出しながら話す。そして、魔物がいると言う事で始めての実戦になるかもしれないと言う事に緊張感が増して行く。
「あそこだ。いたぞ」
「厄介だな。ツノトカゲだ」
リーダーが魔物を見つける。ツノトカゲと呼ばれた魔物は大型犬ほどの大きさのトカゲで頭にツノを生やしていた。
「あの角には気を付けろよ。刺されると毒を貰う」
毒の話を聞いた瞬間バルおじさんが死んだ時の事を思い出した。魔物の毒に侵されたバルおじさんは徐々に体力を奪われて息を引き取った。もしかしたらこのツノトカゲにやられたのかもしれないと思った。
誰かが弓を射る。その弓がツノトカゲに刺さり、弓矢が刺さった痛みに悶ているように見えた。それぞれに武器を持ちツノトカゲを討ち取ろうと動く。
僕も剣を抜き戦いに加勢しようと試みるも中々攻撃に移れなかった。流石はパーティを組んでいるだけの事はある。上手く連携し攻撃を加えているので、僕が攻撃に入る隙が中々見つからなかったのだ。
ツノトカゲは逃げようとしたのか、ターゲットを僕に絞ったのかは分からないが、僕に向かって突進を仕掛けて来た。
あの角の攻撃を貰うとひとたまりも無いと僕はツノトカゲの突進を避けつつ、胴体を切る。僕の攻撃は浅かったようで、ツノトカゲの勢いは止まらない。
木にぶつかったツノトカゲは振り返ると再び僕に突進を開始した。走って来るツノトカゲ。僕に突進して来る間に何本かの弓矢がツノトカゲに刺さるもお構いなしのようだった。
僕は体勢を低くして突進してくるツノトカゲの勢いを利用して剣と突き刺した。剣が肉に突き刺さる感触が僕の手に伝わる。
僕の剣はツノトカゲの喉に突き刺さったがツノトカゲの突進を受けた僕はそのまま剣を手放し吹き飛ばされた。すぐに起き上がってツノトカゲの攻撃に備えるもツノトカゲは地面に倒れ、黒い霧となって霧散して行く。
霧散して行くツノトカゲを見ながら唖然としてしまった。魔物は瘴気から生まれると聞いていたけど、息の根を止めると霧散するなんて知らなかったからだ。
「大丈夫か?」
「あ、はい」
「しかし大したもんだな。始めてだったんだろ? 魔物と戦うのは」
ツノトカゲが霧散し、地面に落ちた僕の剣を拾いながら、スキンヘッドの男が僕の剣を拾う。僕の剣を拾った男は剣を見て固まっていた。
「どうしたんですか?」
「この剣はどうしたんだ?」
「この剣は僕に旅を教えてくれた人に貰ったんです」
「そいつの名前はもしかしてバルトロメイと言う名前じゃないか?」
バルおじさんの名前が出て来て僕は目を見開く。この男は一緒に旅をしていた仲間を探していると言っていた。その仲間はもしかするとバルおじさんだったのかもしれない。
戦いの後、一度落ち着いてから話を始めた。怪我を負って僕の村に来た冒険者がバルおじさんで、僕はバルおじさんに色々と教えて貰い、僕の家で療養している中で息を引き取ったと。
「そうか。あいつは死んでいたんだな。殺しても死なない奴だと思っていたのによ」
翌日、スキンヘッドの男は目を腫らしていた。強がってはいたが一晩中泣いていたのかもしれない。僕は男に村にバルおじさんの墓がある事を伝え、ルカーシュと言う名前を出せばみんな歓迎してくれるはずだと言う事を伝え、一晩を共に過ごしたパーティと別れ、森を抜けた。
そして僕は今門の前に立っている。
「旅人か?」
「はい。ヴォーダ村から来ました」
「ヴォーダ村? あまり聞かない名前の村だが」
「かなり辺境にある村なので……」
「そうか。街の中で変な事は起こしてくれるなよ?」
「もちろんです」
旅人と言うのは珍しくは無いようで、当たり前のように街の中に入れてもらう事が出来た。辺りを見回しながら歩く。小さな露天が立ち並び店主が声を張り上げていた。それを見て僕は前の世界で行った事のある活気に溢れた商店街を思い出していた。
活気のあった商店街から少し行くと、人がまばらになり始め、小じんまりとした住宅街のような所に出た。そこを歩いていると細い路地のような物を見つけて覗き込んで見る。
覗き込んだ先には僕と同じくらいの年齢であろう人達がたむろしていた。どれも見た感じはガラの悪そうな雰囲気を醸し出していた。あんなのに関わると碌な事にならないと思い、僕はそこから逃げ出そうと歩き出そうとした時に人とぶつかる。
「あ、すみません」
「痛ってぇな。どこ見て歩いてんだよ」
僕とぶつかった人物は悪態を付く。短髪でボロボロの衣服を身にまとってはいるが、小汚い感じはしない。僕を睨みつけているその目は鋭く、目だけで人を射殺さんとしているように見えた。
「何ジロジロ見てんだ? あぁん?」
「す、すみません」
これ以上関わると絶対に碌な事にならない。僕の直感がそう告げているように感じてその場から立ち去ろうと歩みを進めようとしたけど、肩を掴まれて止められてしまう。
「おい待てよ」
「な、何ですか? 本当にぶつかってしまってすみませんでした。急いでいるので」
「てめぇが急いでようが知ったこっちゃ無ぇんだよ。ぶつかって来ておいてそれだけで終わりか?」
こっちは早く立ち去りたいのに、不良は僕を開放してはくれないらしい。不良は僕をジロジロと見るとニヤリと笑う。
「お前いいもん持ってんじゃん。ぶつかったお詫びにその剣を俺にくれよ」
「それは――」
「だからぁ。その剣を寄越せっつってんの」
「これだけは勘弁してくれないですかね? 大切な物なんです」
「んな事どうでもいいんだよ。俺がそれが欲しいっつってんだからお前は寄越せばすむ話なんだよ」
バルおじさんかの形見でもあるこの剣は絶対に渡す訳にはいかない。僕が謝っても引き下がらない不良に辟易している今も不良は剣を寄越せとしつこく言ってくる。
「強情な奴だな。それを寄越せば済む話なんだぜ? ほら、優しくしてやってるうちに渡しな」
「駄目です」
「それなら無理やりにでも奪ってやんよ!」
不良が僕に向かって殴りかかって来た。僕はそれを避ける事が出来ずに顔面に不良の拳を受けてしまう。倒れはしなかったものの、殴られた顔がジンジンと痛む。
「どうした?」
「またか……」
僕と不良の口論を聞いて周りにいた人達が僕を遠巻きに見ているのが分かった。周囲の人は変なトラブルに巻き込まれたく無いのか見ているだけだ。
「おらぁ」
「ぐっ――」
続けざまに不良は僕の腹に蹴りを加えるが、後ろに下がりながら攻撃を受けたので大したダメージは無いと思う。
「どうした? その大切な剣を抜かないのか?」
「これは人に向ける物じゃない」
「けっ! ただの飾りかよ。その剣も使って貰えなくて悲しい思いしてるだろうな!」
口を開くと同時に僕に再び僕に攻撃を開始した不良に対して、僕は何も出来ない。防戦一方だった。
「何面白そうな事やってんだ? サシャ」
「お前らか。こいつにその剣くれって頼んでんのにくれなくてさ」
この不良。サシャと呼ばれた男の仲間のような男達が来るとサシャの攻撃は一旦止むも僕にとっては最悪の事態となってしまったかもしれない。
「こんなとこでやってると目立ってしょうがねぇからこいつ連れて行こうぜ」
「そうだな」
引き摺られるように先程僕が見た路地裏へと連れて行かれる。後から現れた男達はこの路地裏でたむろしていた人達のようだった。投げるように放り出された僕は恐怖で立ち上がる事が出来なかった。
「へへへ。おら!」
薄ら笑いを浮かべた男が僕を蹴り上げる。それを合図にしたかのように僕は次々と蹴られていった。どんな様子で蹴られているのかなんて分からない。僕は身を縮めてひたすら耐える事しか出来なかった。
「お飾りの剣なんて持ってしゃしゃってんのが悪ぃんだよ。お前旅人か? 悪い事は言わねぇからすぐに田舎にでも帰ってママの所に戻りな。そんなんじゃすぐに野垂れ死ぬだけさ」
サシャの声が僕の心に響く。旅に出て、魔物も倒したりして調子に乗っていたのかもしれない。人間相手だと何も出来ない自分が腹立たしい。
「でも、それでも、僕には旅をしなければならない理由がある――!」
どこから力が湧いたのかは分からないが僕は蹴られながらも立ち上がる事が出来た。僕が顔を上げるとサシャの顔が見える。
「けっ。面白くねぇな」
「そりゃ面白くないだろうさ。僕みたいな人間を集団で囲っていたぶるだけだもんな」
「煩せぇな! 死ねよ!」
何をされたのか分からなかった。ただ分かったのは激しい痛みと共に、僕が吹き飛ばされた事だけだ。掠れる視界にサシャが歩いて来るのが見えた。
「お前みたいな奴が俺は一番ムカつくんだよ!」
顔面に走る衝撃。痛みなんか感じなかった。感覚が麻痺しているのかもしれない。
「それじゃあ、貰って行くぜ」
「待ちなよ!」
「煩せぇ! こっち来んなよブス」
女の人の声が聞こえた気がした。薄れ行く意識の中で誰かが僕に何か話し掛けている気もしたけど何を話しているのかなんて分からない。ただ、暖かさ感じる。それだけだった。
そして僕の意識は闇の中へと堕ちていく。
「君はどこから来たんだい?」
「ヴォーダ村からです」
今もこうしてとある集落の老夫婦の家でお世話になっていた。集落に立ち寄った時間が夕方頃だったのもあり、一人の老人に話し掛け、旅をしている事と休める場所が無いか聞いた所、家に泊まって行けばいいとの好意を受けたのだ。
「ヴォーダ村かい。懐かしい名前の村を聞いたね」
「知っているんですか?」
「知っているとも。昔ヴォーダ村から来たと言う若者がいてね。確かデニスと言ったかな?」
村長が冒険者として旅に出たと言う話は聞いていたけど、まさか村長の事を知っている人物と知り合えるなんて思ってもみなかった。
「その人は今は村で村長をしていますよ」
「そうなのかね。あの若者がねぇ」
遠い昔の話を思い出すように老人は語る。森で魔物に襲われていた時に助けられたらしく、今ここにいるのは村長のおかげだと感謝をしていた。
「そう言えばこの近くに大きな街なんてあるんですか?」
「一番近くにミエストの街があるの。ただ街道を行っても馬車で数日掛かるから歩いて行くなら森を抜けた方が早いかもしれんの」
「森ですか?」
「そうじゃな。比較的安全な道も出来ておるからそこを行くと良いじゃろ」
様々な話に花を咲かせ、寝床に入る。ベッドなどきちんとした物は無いけど、屋根があり、寝具も準備して貰ったのだから文句など出る訳もない。野宿なんかするよりも疲れも取れると言う物だ。
翌日、老夫婦から見送られ、僕は森の中へと足を踏み入れた。整備がされている訳では無いが、人の足で踏み固められ続けた道のようで、獣道よりも歩きやすい。
老人が言うには一晩は森の中で過ごす事にはなるが、広い場所で一晩過ごせるキャンプのような場所があるとも言っていた。まずはそこを目指すべきだろう。
時折、人とすれ違ったりする辺り、よく使われる道なのだろうと思う。鬱蒼と生い茂る木々のトンネルをひたすらに歩く。
昼間なのに薄暗いのは不思議な気分にさせてくれる。あまり変わらない景色、見えない太陽の位置は僕の時間の感覚を狂わせるけど、それほど心配にもならない。
小鳥のさえずる声や時折吹く風が心地よくも思える。どのくらい歩いたのかは分からないけど、ただでさえ薄暗かった森の道が闇に包まれそうになった頃、僕は目的の場所へと到着する。そこには一つのパーティがおり、野宿をする準備をしていた。
「こんばんは。一人かい?」
「はい。ミエストの街に向かっています」
旅人風の男に話し掛けられる。髪の毛は剃り落とされ、いかつい風貌で、顔の皺に生きた証を刻んでいた。
「そんなに見てどうしたんだ? この頭か? これは薄くなってしまってな。思い切って剃ってみたんだ」
何も聞いていないのに頭の話をしだす男を見て笑いが込み上げてきた。笑っていると男の仲間らしき人物が数人集まって来て、頭をネタに笑い合っている。
「せっかく知り合ったんだ。一緒に食事をしよう」
パーティの男の一人がそう提案をすると全員がそうしようと盛り上がり部外者だった僕も混ざっての食事が始まった。僕は残っていたパンをパーティのメンバーに分け与える。
このパーティは四人パーティで年齢も様々だった。元々は単独で動いていたらしかったが、旅の途中で知り合い意気投合してパーティを組み行動を共にするようになったらしい。
最初に僕に話し掛けた男は一度旅を諦めたが昔、一緒に旅をした仲間を探す為に旅を再開したらしい。
「この辺りは比較的安全な場所だと聞いているが、魔物がいない訳ではないからな。交代で見張りをしよう」
食事も終わり、談笑をしているとパーティのリーダーをしている人物が言う。みんな了承し、僕もその見張りに参加をすると言ったが、大丈夫だと断られてしまう。
それでも気が引けて、自分なりに警戒を怠らないようにしていた。そして、夜も遅くなり、適当な場所に陣取って目を閉じる。
「おい! 魔物がいる」
見張りをしていた男が声を潜めて仲間を起こしている声が聞こえた。僕は起こされた訳では無いが浅い眠りから目を覚ました。
「お、起きたな。若いのに大したもんだ」
「僕に旅を教えてくれた人が野宿をする時は警戒を怠らない事って教えてくれましたから」
かつてバルおじさんが教えてくれた事を思い出しながら話す。そして、魔物がいると言う事で始めての実戦になるかもしれないと言う事に緊張感が増して行く。
「あそこだ。いたぞ」
「厄介だな。ツノトカゲだ」
リーダーが魔物を見つける。ツノトカゲと呼ばれた魔物は大型犬ほどの大きさのトカゲで頭にツノを生やしていた。
「あの角には気を付けろよ。刺されると毒を貰う」
毒の話を聞いた瞬間バルおじさんが死んだ時の事を思い出した。魔物の毒に侵されたバルおじさんは徐々に体力を奪われて息を引き取った。もしかしたらこのツノトカゲにやられたのかもしれないと思った。
誰かが弓を射る。その弓がツノトカゲに刺さり、弓矢が刺さった痛みに悶ているように見えた。それぞれに武器を持ちツノトカゲを討ち取ろうと動く。
僕も剣を抜き戦いに加勢しようと試みるも中々攻撃に移れなかった。流石はパーティを組んでいるだけの事はある。上手く連携し攻撃を加えているので、僕が攻撃に入る隙が中々見つからなかったのだ。
ツノトカゲは逃げようとしたのか、ターゲットを僕に絞ったのかは分からないが、僕に向かって突進を仕掛けて来た。
あの角の攻撃を貰うとひとたまりも無いと僕はツノトカゲの突進を避けつつ、胴体を切る。僕の攻撃は浅かったようで、ツノトカゲの勢いは止まらない。
木にぶつかったツノトカゲは振り返ると再び僕に突進を開始した。走って来るツノトカゲ。僕に突進して来る間に何本かの弓矢がツノトカゲに刺さるもお構いなしのようだった。
僕は体勢を低くして突進してくるツノトカゲの勢いを利用して剣と突き刺した。剣が肉に突き刺さる感触が僕の手に伝わる。
僕の剣はツノトカゲの喉に突き刺さったがツノトカゲの突進を受けた僕はそのまま剣を手放し吹き飛ばされた。すぐに起き上がってツノトカゲの攻撃に備えるもツノトカゲは地面に倒れ、黒い霧となって霧散して行く。
霧散して行くツノトカゲを見ながら唖然としてしまった。魔物は瘴気から生まれると聞いていたけど、息の根を止めると霧散するなんて知らなかったからだ。
「大丈夫か?」
「あ、はい」
「しかし大したもんだな。始めてだったんだろ? 魔物と戦うのは」
ツノトカゲが霧散し、地面に落ちた僕の剣を拾いながら、スキンヘッドの男が僕の剣を拾う。僕の剣を拾った男は剣を見て固まっていた。
「どうしたんですか?」
「この剣はどうしたんだ?」
「この剣は僕に旅を教えてくれた人に貰ったんです」
「そいつの名前はもしかしてバルトロメイと言う名前じゃないか?」
バルおじさんの名前が出て来て僕は目を見開く。この男は一緒に旅をしていた仲間を探していると言っていた。その仲間はもしかするとバルおじさんだったのかもしれない。
戦いの後、一度落ち着いてから話を始めた。怪我を負って僕の村に来た冒険者がバルおじさんで、僕はバルおじさんに色々と教えて貰い、僕の家で療養している中で息を引き取ったと。
「そうか。あいつは死んでいたんだな。殺しても死なない奴だと思っていたのによ」
翌日、スキンヘッドの男は目を腫らしていた。強がってはいたが一晩中泣いていたのかもしれない。僕は男に村にバルおじさんの墓がある事を伝え、ルカーシュと言う名前を出せばみんな歓迎してくれるはずだと言う事を伝え、一晩を共に過ごしたパーティと別れ、森を抜けた。
そして僕は今門の前に立っている。
「旅人か?」
「はい。ヴォーダ村から来ました」
「ヴォーダ村? あまり聞かない名前の村だが」
「かなり辺境にある村なので……」
「そうか。街の中で変な事は起こしてくれるなよ?」
「もちろんです」
旅人と言うのは珍しくは無いようで、当たり前のように街の中に入れてもらう事が出来た。辺りを見回しながら歩く。小さな露天が立ち並び店主が声を張り上げていた。それを見て僕は前の世界で行った事のある活気に溢れた商店街を思い出していた。
活気のあった商店街から少し行くと、人がまばらになり始め、小じんまりとした住宅街のような所に出た。そこを歩いていると細い路地のような物を見つけて覗き込んで見る。
覗き込んだ先には僕と同じくらいの年齢であろう人達がたむろしていた。どれも見た感じはガラの悪そうな雰囲気を醸し出していた。あんなのに関わると碌な事にならないと思い、僕はそこから逃げ出そうと歩き出そうとした時に人とぶつかる。
「あ、すみません」
「痛ってぇな。どこ見て歩いてんだよ」
僕とぶつかった人物は悪態を付く。短髪でボロボロの衣服を身にまとってはいるが、小汚い感じはしない。僕を睨みつけているその目は鋭く、目だけで人を射殺さんとしているように見えた。
「何ジロジロ見てんだ? あぁん?」
「す、すみません」
これ以上関わると絶対に碌な事にならない。僕の直感がそう告げているように感じてその場から立ち去ろうと歩みを進めようとしたけど、肩を掴まれて止められてしまう。
「おい待てよ」
「な、何ですか? 本当にぶつかってしまってすみませんでした。急いでいるので」
「てめぇが急いでようが知ったこっちゃ無ぇんだよ。ぶつかって来ておいてそれだけで終わりか?」
こっちは早く立ち去りたいのに、不良は僕を開放してはくれないらしい。不良は僕をジロジロと見るとニヤリと笑う。
「お前いいもん持ってんじゃん。ぶつかったお詫びにその剣を俺にくれよ」
「それは――」
「だからぁ。その剣を寄越せっつってんの」
「これだけは勘弁してくれないですかね? 大切な物なんです」
「んな事どうでもいいんだよ。俺がそれが欲しいっつってんだからお前は寄越せばすむ話なんだよ」
バルおじさんかの形見でもあるこの剣は絶対に渡す訳にはいかない。僕が謝っても引き下がらない不良に辟易している今も不良は剣を寄越せとしつこく言ってくる。
「強情な奴だな。それを寄越せば済む話なんだぜ? ほら、優しくしてやってるうちに渡しな」
「駄目です」
「それなら無理やりにでも奪ってやんよ!」
不良が僕に向かって殴りかかって来た。僕はそれを避ける事が出来ずに顔面に不良の拳を受けてしまう。倒れはしなかったものの、殴られた顔がジンジンと痛む。
「どうした?」
「またか……」
僕と不良の口論を聞いて周りにいた人達が僕を遠巻きに見ているのが分かった。周囲の人は変なトラブルに巻き込まれたく無いのか見ているだけだ。
「おらぁ」
「ぐっ――」
続けざまに不良は僕の腹に蹴りを加えるが、後ろに下がりながら攻撃を受けたので大したダメージは無いと思う。
「どうした? その大切な剣を抜かないのか?」
「これは人に向ける物じゃない」
「けっ! ただの飾りかよ。その剣も使って貰えなくて悲しい思いしてるだろうな!」
口を開くと同時に僕に再び僕に攻撃を開始した不良に対して、僕は何も出来ない。防戦一方だった。
「何面白そうな事やってんだ? サシャ」
「お前らか。こいつにその剣くれって頼んでんのにくれなくてさ」
この不良。サシャと呼ばれた男の仲間のような男達が来るとサシャの攻撃は一旦止むも僕にとっては最悪の事態となってしまったかもしれない。
「こんなとこでやってると目立ってしょうがねぇからこいつ連れて行こうぜ」
「そうだな」
引き摺られるように先程僕が見た路地裏へと連れて行かれる。後から現れた男達はこの路地裏でたむろしていた人達のようだった。投げるように放り出された僕は恐怖で立ち上がる事が出来なかった。
「へへへ。おら!」
薄ら笑いを浮かべた男が僕を蹴り上げる。それを合図にしたかのように僕は次々と蹴られていった。どんな様子で蹴られているのかなんて分からない。僕は身を縮めてひたすら耐える事しか出来なかった。
「お飾りの剣なんて持ってしゃしゃってんのが悪ぃんだよ。お前旅人か? 悪い事は言わねぇからすぐに田舎にでも帰ってママの所に戻りな。そんなんじゃすぐに野垂れ死ぬだけさ」
サシャの声が僕の心に響く。旅に出て、魔物も倒したりして調子に乗っていたのかもしれない。人間相手だと何も出来ない自分が腹立たしい。
「でも、それでも、僕には旅をしなければならない理由がある――!」
どこから力が湧いたのかは分からないが僕は蹴られながらも立ち上がる事が出来た。僕が顔を上げるとサシャの顔が見える。
「けっ。面白くねぇな」
「そりゃ面白くないだろうさ。僕みたいな人間を集団で囲っていたぶるだけだもんな」
「煩せぇな! 死ねよ!」
何をされたのか分からなかった。ただ分かったのは激しい痛みと共に、僕が吹き飛ばされた事だけだ。掠れる視界にサシャが歩いて来るのが見えた。
「お前みたいな奴が俺は一番ムカつくんだよ!」
顔面に走る衝撃。痛みなんか感じなかった。感覚が麻痺しているのかもしれない。
「それじゃあ、貰って行くぜ」
「待ちなよ!」
「煩せぇ! こっち来んなよブス」
女の人の声が聞こえた気がした。薄れ行く意識の中で誰かが僕に何か話し掛けている気もしたけど何を話しているのかなんて分からない。ただ、暖かさ感じる。それだけだった。
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