神装聖剣ファフニール

なつめ猫

アンガスからの旅立ち



 ずいぶんと長い夢を見た気がするな。

 日差しを感じたところで目を開けてベッドから降りる。
 そして、胴着と袴を着たあと宿屋のドアを開け部屋から出て階下へと降りていく。
 すると1階の酒場に彼女はいた。

「カズトさん――」

 一人、酒場の椅子に座ったまま、エールを口にしている。

「アリスか。寝ては……、いなかったんだな」

 彼女の目を見れば分かる。
 アリスの青く澄んだ瞳は充血しており、瞼は赤く腫れあがっているのが確認できた。

「はい……」

 アンガスの町に住んでいた皆は……、みんなは……、どこに行ってしまったんでしょうか?
 黙っておくべきか、事実を話すべきか――。

「カズトさんは、アンガスの町の皆がどうなったのか分かっているのですよね?」
「どうして、そう思う?」
「だって……、カズトさんと短い間でも一緒に居て――、秘密ごとは多く持っていることは分かりました。ですけど……、カズトさんが嘘をつくときは必ず目を逸らしますから」
「……そうか」

 正直、旅をしてきて分かったこと。
 それは人間と言う存在は、強い心を持つ反面、とても脆い生物だということ。
 だからこそ、アリスに本当の事を言っていいのか俺は迷う。
 
 それでも彼女が本当の事を知りたいのなら、俺には説明する義務がある。
 それが祖父と肉親という繋がりを持つ俺の責務なのだろう。

「アリス、よく聞いてくれ」
「はい」

 彼女は、俺の言葉に神妙な面持ちで頷いてくる。
 もう心の準備は出来たということだろう。
 いや――、出来ていなくとも、話すことを――、説明することを決めて口を開いたのだ。

 途中で、説明を止めるようなことは愚行に値する。

「アンガスの町の住民は、全員が魔法力――、つまり精神波を奪われて肉体の構成構造の保持が出来なくなり、その体は塩へと帰った」
「――え? どういうことですか?」
「つまり、アンガスの町の住民は、俺の祖父が極大魔法を使うために周囲からの精神波を強制的に奪ったために死んだということだ」
「……え、……で、でも……、そんなことが出来る存在なんて……」

 彼女の言いたいことは分かる。
 俺だって桂木神滅流を――、神装聖剣を使わなければ完全な意味では理解出来てはいなかった。

 アガルタの世界の住民の肉体構成は、主に塩と精神波で構成される。
 そして精神波というのは魔力であり魔法を使う際の元素ともなりうる。
 つまり、魔力というのはアガルタの世界に住む人々にとっては無くてはならないものであり、それは器そのものとなる。
 だからこそ、減数分裂を経た俺とは違い存在そのものが魔法の器の彼らは魔法を使う事が出来る。
 
「それが出来るのが、いまの世界に生きる人間を創造した祖父――、4賢者なんだろう」
「……で、でも! 魔法を使うために人の命を奪うなんて、そんなこと……」
「俺にも理由は分からない。だが――、祖父はカイザルドと敵対していた。それに、神装聖剣と俺の母であるユリカが残したペンダントを利用して何かを為そうとしている。そして、それは間違いなく、この大陸だけでなくアガルタの世界において災厄になりかねないと俺は思う」
「…………」

 彼女は俺の言葉に無言になり虚ろな目で俯く。

「アリス、此処は君にとって辛い過去がある場所だと思う。だが――、これからの旅路は、きっと今まで以上に過酷になる。だから君は――、ここに居た方がいい」
「…………カズトさん。私も一緒にいきます」
「人の話を聞いていたのか? この世界の命運をかける戦いになるかも知れないと言ったんだぞ? それに、いまの俺はペンダントを奪われ魔法剣すら持っていない状態だ。正直、君が一緒に来ても補給物資もすぐに出せないから足手まといにしかならない」
「それでも! 私は、私達を作った者が、どうして私達を犠牲にして、何を為そうとしているのか! 聞く資格はあると思うんです! そうしなければ……、私やアンガスの町の皆は誰も――」

 アリスは両こぶしをテーブルの上で握りしめながら肩を震わせるとキッ! と俺を見てきた。

「私は! カズトさんが置いていっても必ず後ろから着いていきます! 絶対に!」
「…………わかった。同行を認めよう。ただし、自分の身は自分で守ること。いいな?」
「はい、ありがとうございます」

 まったく厄介な同行者が一緒になったものだ。


 

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