神装聖剣ファフニール

なつめ猫

大陸の異変(8)




 魔物の襲撃から一夜が過ぎたアンガスの町。
 その大通りから一本奥まった場所――、細い路地に面している宿屋「金の祝福亭」の一室で、桂木和人は2週間ぶりの睡眠をとっていた。
 そんな彼の部屋の扉が何度かノックされる。

「……だれだ?」

 俺は、聞こえてきた音に無意識の内に反応しながらベッドから降りる。
 殺気は特に感じない。

「イシュベルドです。町長が、カズトさんに話をしたいと言っておりまして」
「ヘルバイン殿がか?」
「はい」

 イシュベルドを、寄越したのは俺と唯一長い時間、一緒にいた人間という理由からだろう。
 問題は、町長が俺に何の用があるかだが……。

「分かった。少し待っていてくれ」
「お待ちしています」

 ずいぶんと丁寧な物言いをしてくる。
 何か下心があると見ていいのかもしれないな。
 俺は胸元のペンダントから、袴と胴着を取り出して着てから木刀を腰に差す。
 
「さて、いくか」

 部屋から出ると、イシュベルドだけが待っていると思ったが、待っていたのはイシュベルドと、耳が長い人間? ――で、あった。 

「カズトさん。私は数人の人間を連れて国境のバルティア様に現状の報告に向かいますので、これで――」
「そうか。気をつけてな」

 イシュベルドは、話が終わったとばかりに「はい。それで町の案内などは、この者アリスにお聞きください」と言い宿の階段を下りていった。

「あ、あの……」
「――ん?」
「私は、エルフのアリスと言います。町の案内などをヘルバイン町長から仰せつかっております」
「エルフ?」

 聞いたことが無いな。
 白竜神族や黒竜神族や魔神族なら知っているが、エルフというのは聞いたことがない。
 祖父も、エルフ族と言うのが存在しているとは言っていなかったな。

「エルフ族は、エルアル大陸のエルフガーデンから移ってきたのです。そのため、アルトラス大陸には元々、住んでいなかった種族なのです」
「なるほど……。たしかエルアル大陸は、ローレンス大陸の南側に存在していると聞いたな」
「カズトさんは、地理に詳しいのですね」
「いや、俺も聞いただけだからな」
「そうですか……」

 何かに期待していたのだろう。
 少し沈んだ表情をアリスというエルフの女性は見せてきた。
 とりあえず話題を変えた方がいいか。

「アリスは、この町に前から住んでいるのか?」

 俺の問いかけに彼女は頭を振ってくる。
 
「私達は盛りが多い場所を好んで住んでいるのです」
「森が多い場所?」
「はい。カイゼル帝国は20年前までは肥沃の大地でした」
「20年前?」

 アリスは俺の問いかけに頷くと口を開く。

「今は、もう存在しておりませんが南方に存在していたエルフの森で、エルアル大陸から渡ってきたエルフは暮らしていました」
「暮らしていた?」
「はい。元はカイゼル帝国と交流は持っていたのですが、森が砂漠に呑み込まれてしまったのです。それで、カイゼル帝国に併合して頂いたのですが……、やはり人種が違うということで――」
「迫害にあっていたと?」
「いえ! 王妃のユリカ様が私達エルフの地位向上や職の斡旋に力を入れて下さったので、今では普通に暮らしていけています。それに私達は精霊魔法が得意ですから」
「精霊魔法? 普通の魔法とは違うのか?」
「はい」
「そ、そうか……」

 アルト公国で3人娘から、スキルというのを教えてもらった後だというのに、また聞いたことが無い魔法定義が出てきたな。
 世界は俺が思っていたよりも広いようだ。
 大陸が異なれば魔法の体系も違うということだろう。
 それよりも――。

「アリス。ユリカと言うのは?」
「はい。カイザルド・ド・カイゼル陛下の亡くなられた王妃様です」
「そうか……」
「どうかなさられたのですか?」
「いや、何でもない」

 アリスの話からして、カイザルドの妻ということは俺の母親だ。
 
「カズト様、そろそろ町長にお会いにいきませんか?」
「そう……だな……」

 とりあえずアリスからの情報だけだと、行動の指針に偏りが出るからな。
 多くの人間に話を聞いて多角的に物事をみないといけない。

 俺は、アリスの後を着いて階段を下りたあと宿から出る。
 そして宿の通りから出ると昨日とは打って変わって大通りは静まりかえっていた。





「神装聖剣ファフニール」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く