神装聖剣ファフニール

なつめ猫

埋没した歴史(2)

「えっと、おかしいわね……」

 城の城門を超えて正面玄関ともいえる城の入り口に辿り着いた時に感じた違和感。
 それは、ルメリアの言葉が表すように喧騒に包まれた城の雰囲気。

「何かあったのか?」

 馬車から降りた俺はルメリアの方を見ながら声をかけるが彼女も何が起きているか把握していないようだ。
 広域探索魔法を展開できるルメリアを始めとする魔神族にとって、現状を把握することは、そんなに難しいとは思えないのだが……。

「たくさんの感情が入れ混じってて把握しきれないわね」
「ルメリア様!」

 ルメリアが俺の問いかけに答えたと同時に、一人の男が走ってくると頭を下げていた。

「イクティノス、この状況はどうしたと言うの?」
「ハッ! それが……」

 イクティノスと呼ばれた騎士風の男が、俺を見て言いよどむ。
 どうやら、部外者には伝えにくい話のようだが……。

「彼は大丈夫。私の古い知人だから……。それより城内で何が起きているの?」
「グランザード様が、崩御されました」
「――え? お父様が?」

 俺の見てる前で、ルメリアが信じられないと言った表情を見せたあと、ふらつく。
 すかさずルメリアが倒れないように支えると。

「はい、詳しくはアルバルト様に――」
「わ、わかったわ……」

 支えているからこそ分かる。
 いつも気丈な性格のルメリアの身体が震えているのが。
 おそらく、突然の話に動揺して何が起きたのか分からないのだろう。
 俺だって、魔神王グランザードが崩御したなんて信じられない。
 属性龍を片手間に倒せるほど強い存在が崩御するなんて。
 それに魔神族の年齢は、千年近い。
 たしかグランザードの年はいくつかは知らないが、千年には届いていないはずだ。

「カズト君、私は宰相に会いにいかないと……」
「分かった。俺もついていこう」
「ありがと――」
「ルメリア様!?」

 俺とルメリアの会話を聞いていたイクティノスと呼ばれた男が驚きの眼差しで俺を見てくる。
 その瞳の奥には困惑と言い知れぬ感情が含まれているように感じられた。

「失礼ですが、あなたは?」
「彼は私の友人よ? 貴方が詮索することじゃないの? 分かったわね?」

 俺が答える前にルメリアがイクティノスに釘を刺していた。
 そして俺の手を掴むと城内へ通じる扉に入ると通路を歩きはじめた。
 城の中は白の大理石で作られていてとても美しい。
 ところどころに飾られている絵画などもアクセントとして映えており、通路に敷かれているレッドカーペットも白の大理石と合わせると絶妙な対比を生み出していて美しくすらある。

「ルメリア、大丈夫か?」
「……」

 俺の問いかけにルメリアは答えず城内を歩く。
 そして、しばらく歩いた後、細かな彫刻が施された扉の前に立つと、両開きの扉を開けた。

「姫様!」

 扉が開くと同時に、部屋の中に居た人物は気がつくとすぐに椅子から立ち上がると近づいてくるとルメリアの前で膝をつき臣下の礼を取る。

「アルバルト。今は臣下の礼はいいわ。それよりも――」
「わかっております。グランザード様の崩御の話ですな?」 
「ええ、詳しい話を聴きたいわ」
「分かりました」

 アルバルトという男は、俺の方を一瞥するとすぐに視線を逸らし。
 給仕を呼ぶとお茶の準備を行う。
 そして部屋の隅に設けられていた高級そうに見える椅子をルメリアに薦めていた。

「それにしても、よかったです」
「よかった?」

 給仕が用意したお茶を口に含んだアルバルトという男は、一言だけ言うと大きく溜息をついた。

「ルメリア様にまで何かあったら大変なことになるところでした」
「大変なことというのはお父様が崩御したことなのかしら?」
「いいえ、崩御ではなく殺されました」
「殺された? お父様が? そんなの……信じられません!」

 最後のほうにはルメリアは声を荒げていた。
 たしかに寿命で死ぬなら、まだ納得はできる。
 ただ、殺されたとなると話は別だ。
 龍が纏まっても倒せない男が魔神王グランザードという男。
 それを殺すことが出来る人間は限られてくる。

「ところで、彼は……?」

 ルメリアの様子を見て、話を続けることを困難と思ったのだろう。
 気持ちの切り替えの意図もあったかも知れないが、アルバルトの言葉にルメリアは小さく息を吐く。

「彼は、カズトと言うの。イルペリア貴族学院の話は、もう届いてるわよね?」
「なるほど! 彼が襲撃してきた魔族から町を守った……それほどの方がルメリア様の護衛についているのでしたら安心いたしました」

 何か勘違いしているようだ。
 まぁ訂正する必要もないだろう。

「いいわ、それよりもお父様は誰に殺されたのかしら?」
「はい。ここだけの話、グランザード様は桂木厳那と話をしているときに殺されたと――」



 

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