名前を呼ばれた日

とびらの

名で呼ばれた日

 
【六月一日】


 彼女がいなくなって二年が経った。
 寂しくて寂しくて、僕はもう耐えられなかった。
 だから、彼女を作った。
 あのひとそっくりの機械人形アンドロイド

「オハヨ。……久しぶりだね、リカ」

「おはようございます、博士」

 おっと、まだまだ改良が必要らしい。僕のことはヒロシさん、そして丁寧語はいらないことを、僕は彼女に入力インプットした。



【七月十二日】


 細やかな指示のおかげで、機械人形は完璧なリカの模造品コピーに仕上がった。

「今日はキッシュを作ってみたの。美味しくできたわ」

 しかし、それは少ししょっぱかった。失敗したのではなく、これがリカの嗜好なんだ。僕がそう入力したのだから当たり前。
 これも不味いということはないけど……どうせなら、二人で同じものを美味しく食べたい。
 僕は彼女の嗜好を、すこし甘党に寄せておいた。

「洗い物? んー……今食べたところだから、あとでいいじゃない」

 そんなものぐさなことも言う。僕は洗い桶に物がある状態が嫌いだ。
 汚れものを溜めない、僕はそう彼女の習慣を入力しておいた。



【八月四日】


「キャーッゴキブリ!」

 彼女は悲鳴を上げた。僕も逃げた。虫が苦手なのはお互い様だ。

「おねがいヒロシさん、退治して!」

 僕は彼女に、虫を恐れないことと、男に嫌なことを押し付けないよう入力した。



【九月二十日】

 今日は、彼女の誕生日。

「生まれてきてくれてありがとう。愛しているよ、リカ」

 彼女は首を傾げた。

「私の誕生日は六月一日じゃないの。まだ三か月しか経っていないわ」

 やれやれ、手間のかかることだ。
 僕は彼女に、九月二十日生まれの二十八歳だと入力した。



【十月十日】


 彼女が帰ってきた。

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