ただの世界最強の村人と双子の弟子
第120話 双子の弟子
私は強い朝日を浴びて、夢の世界にあった意識を現実の世界に引きずり出される。
強い眠気が襲うけど、二度寝してられるほど時間に余裕も無いので、大きなあくびと伸びをした後、ベットから降りる。
『………あ~あ、眠いなー』
私は二階にあった部屋を出て、一階に降り、農作物が自動的に収穫され、保存されている"アイテムボックス"が付与されているキッチンの冷蔵庫を覗きながら、未だ重い瞼を擦る。
サラダに目玉焼き、パンという朝食をサクッと作り、一人で味わって食べて、食器を洗う。
その後、家中を掃除していく。
お師匠の部屋や私の部屋を始めとした全ての個室はもちろん、キッチン、ダイニング、お風呂場といった場所も念入りに掃除していく。
この家はお師匠の家をそのまま復元したもの。
あれだけの人数が入るほどの家なので、掃除するだけでも時間がある程度かかってしまう。
"身体強化"とかを使えば一瞬で終わるかも知れないけど、効率的にやりたい訳じゃないので、何も魔法を使わずに掃除していく。
屈んで床を掃除していると、金色と水色の髪が垂れてきて、邪魔になったので小指で耳にかける。
私の体は『共神化』が解けなくなってしまい、年中リルのまま。
アルナ様も良く分からないと言っていたけど、別にこれで良い。
むしろ、体が神に近付いているとしたら、それはそれで嬉しい。
神になれば、私はもっと強くなれる。
そうなれば……お師匠の時のように後悔しなくていい。
………あれからもう10年。
私の体は大きく育ち、身長は170cmくらいあり、もう21歳だけど、見た目は17歳辺りで止まってしまっている。
アルナ様が言うには、神は全盛期とされる年齢で歳を取るという成長は止まってしまうらしい。
あれから足繁くアルナ様のところへ通っているおかげで、今ではアルナ様と互角に渡り合えるほど強くなった。
……あの戦いで、私は何も出来なかった。
お師匠は消え、ティフィラさん達も戦いの後、一回合流したけど、次の日にはみんな何処かへ行ってしまった。
私が気絶している間に起きた大爆発は魔脈を巻き込み、周辺の都市5つほどを消し飛ばし、2年ほどは大混乱だった。
だけど、時間が経つにつれ復興が進み、今では元どおりに連合国が仕切って都市は動いている。
両親も死んだ。師も仲間も居ない。たった一人で大きな家の中で一人私は10年前のようにならないように自分を戒め、修業の日々に明け暮れている。
あの戦いで『強欲神』は消え、『破壊神』、『戦神』、『戯神』は行方不明。唯一死が判明しているのは『研神』のみ。
あの頃の私は弱かった。
けど、今の私は強くなれたはず。
『……なんて、考えても過去には戻れないよね』
余計な事を考えてしまった思考を掃除に切り替えて、掃除を再開した………。
『………よしっ、じゃあ行こっか』
掃除を終えた後、私は荷物を軽く点検し、玄関の扉を開ける。
思わず目を閉じそうになるほどの眩い光が私を出迎えた………。
『………私はやるよ、お師匠』
「……はぁ、はぁ、はぁ」
体の至る所に付けられた斬り傷から出る血が地面に絶え間なく落ちる。
もはや痛みを感じる時間さえ、惜しい。一刻も早くここから……奴から離れなくては……!
揺れる視界、重い体、ほとんど無い神気。絶望的な状況だが、ここで諦めてはーー
「…………あ」
暗い廊下の壁に沿うように歩いていた俺は、一人の人影を見た。
それは俺に死を与える存在だった。
「………くそっ!……なんで俺なんだぁ!!」
「……………」
人影は何も喋らず、この暗い廊下に溶け込みそうな黒い片刃の大剣を右手に持ったまま、近付いてくる。
俺にはまるで、大剣が死神の鎌のように見える。
俺はたまらず今まで来た方向へ振り返り、動かない足を精一杯動かして、壁に擦るように逃げながら叫ぶ。
「答えろよっ!お前は何者なんだっ!!」
「………世界の守護者」
バランサー。その名前に聞き覚えがあった。
何年か前に突然現れた世界の守護者。
神王と繋がっているらしいが、神王の言う事すら聞かず、ただ、己の正義に基づき世界を正しくする者。
奴が居るということは、奴に俺がやって来た事はもうバレているのだろう。
なら、ここは奴を取り込むしかない。
「おいっ!お前は何が目的なんだ!?金か?名誉か?女か?支配か?」
「俺がもうすぐ支配出来るこの世界なら、その全てを叶えてやれるぞ!!どうだ!?今すぐ俺の部下にーー」
そこまで言ったところで、急に顔に地面が近づいて来た事に気付いた。
「ぐへっ!」
頭に鈍い痛みを感じながら立とうと、手に力を込め、膝も立てようとするが、下半身が動かない。
何事と思い、下半身を見てみたら、そこには何も無く、血溜まりだけがあった。
「……あ、ああああっ!!!」
下半身が無くなった事を認識した途端に頭が焼けるほどの痛みが襲う。
俺が悶えていると、足音が聞こえてくる。
俺は痛みを何とか我慢して顔を上げるとそこにはただ冷たい目で俺を見る奴が居た。
「どうしてっ……!俺はただ、管理者を殺して魔脈を利用しようとしただけだ!!こんな事なんて、色んな世界で過去にも何度も起きているっ!!なのに何故ーー」
「知るか」
感情の無い、強い意志を持った声に思わず黙り込んでしまう。
「俺はただ、探している奴が居るから、そのついでにお前を殺しに来ただけだ」
ついでという言葉に怒りを覚えるが、万全な状態で、しかも50もの部下である眷属と共に戦って10分もしないうちにこんな様になった俺には何も言えなかった。
「『神の強欲』の構成員を誰か一人でも知っているか?」
『神の強欲』。その名前はもはやどの神でも知っている組織の名前だ。
こいつが現れる少し前に起きた『オリジン』という核世界で起きた世界の乗っ取りを目論んだ組織。
『オリジン』には神王の次に強いと言われる宰神と同レベルと名高いアルナが居る。そんなどの神も手を付けなかった世界を乗っ取ろうとしたらしい。
詳しい事は知らないが、何でも神王すら恐れる"特異点"によって防がれたらしい。
今では存在するかも怪しい組織だが、巷ではこんな噂が流れている。
『神の強欲』の復活と更なる混乱が訪れると。
だが、俺は興味が無かったので調べなかった。
「……いや、誰一人知らねぇ」
「…そうか」
奴はそう言うと、踵を返して歩き出した。
どうやら助かったーー
「後は任せるぞ」
「はいっ!」
元気な声と共に現れたのは、小さな子供。
暗くて顔は良く見えないが、手に持っている小太刀は良く見えた。
「じゃあ………さようなら」
「なっ!?ちょっーー」
講義しようとした俺の喉元に小太刀が貫通し、そのまま地面に顔を付け、意識は永遠の眠りについた………。
世界は一つでは無い。いくつもあり、それぞれの世界は全く同じものは無く、世界一つ一つがまるで生き物のよう。
だけど、その世界に腫瘍のように現れるのは人や神。
それを取り除くのが使命。
そして……、未だ存在すると思われる『神の強欲』の殲滅を最終目的として、今日も世界を跨ぐ………。
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リルの所は案外早く終わっちゃったので、後半は次の物語への序章の序章となるかも?しれない話を書きました。
さて、これで本編は完結です。120話で終わったので、案外キリが良かったですねwww。
ここまで来るのに8ヶ月くらいかかりました。
投稿ペースが不安定になったり、スタイルを模索しながらになりましたが、無事に完結出来て嬉しいです。
自分がこれを書こうと思ったのは、完全なる暇つぶし的な感覚だったのですが、話を重ねるに連れて楽しくなったり、中々アイデアが思いつかなくて苦戦したりと中々色々感じた8ヶ月でした。
本編はこれで終わりですが、特別章である【大英雄の過去編】が残ってますので、これからも読んで頂けると幸いです。
それでは、特別章を読まれる方はこれからも宜しくお願いします!
次回作まで読まないという方はもうしばらくお待ちくださいね!
では!
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