ただの世界最強の村人と双子の弟子
第109話 イアさんの意思
===アルナ視点========================
「……行ってしまいましたね」
「……ええ、そうね」
お母さんはその場で寝転び、くつろぎ始めた。
いつもお母さんはふざけたり、ゆったりとしているけど、本当の腹の底はよく分からない人でもあります。
「……先代神王妃、アハナ様として単刀直入に聞きます。彼らの勝算はどのくらいですか?」
「…………ざっと50%」
あの全ての神を殺せる力を目醒めさせたユウキさんが居ても50%……。
「『神の強欲』のトップである『強欲神』とは一体何者なのですか?どこの資料にも載っていない神なんて、居るはずがありません」
私が『強欲神』という存在を知れたのも神王の口から直接言われたから。
私の質問に返って来た答えはただ一言。
「だって、『強欲神』は神では無いもの」
お母さんはそう言って、機械仕掛けの左腕を掲げた………。
===ルル視点========================
「あ、やっと来やがった!さっさとこいつらを止めてくれ!」
酷く疲れた様子で、お師匠様の肩を掴んで懇願するアギラさんとその後ろで首を縦に振りまくるアマナさん。
ここは教会から出てすぐのちょっとした広場。前にティフィラさん達がどんちゃん騒ぎをしていたところ。
そこで、またもティフィラさんとエルガさん、アイがどんちゃん騒ぎをしていた。
「おまえら………。一体何やってんだ!!」
お師匠様の"重力支配"で宙に浮かされ、その浮遊感で気持ち悪くなっているティフィラさん達に説教を続けるお師匠様。
後ろでアギラさんとアマナさんと話している姉さん。
「もしかして、この騒ぎがあったから……」
「そうなんだよ。だから、抜け出してだなーー」
会話の内容からして、アギラさん達が居なくなっていた事に気付いた姉さんが事情を聞いているみたい。……私は全く気がつかなかったけど。
そのおかげか、周りを見渡してみると、ある人物が居ない。
………あれ?イアさんは?
"探知"を使い、半径2kmくらいを探知すると、ここから少し離れた草原らしきところに居るのが分かった。
「……ちょっと行ってきます」
「ん?ああ、イアの事よろしくな」
説教中のお師匠様に一言言ってイアさんの事を知らせずに行くつもりが、どうやらお師匠様はイアさんが居ない事も、私がイアさんの所へ行く事もお見通しのよう。
「はい、"ウィンドアクセル"」
私は足に風を纏い、駆け出した……。
風が吹き荒れ、鋭い衝撃が辺りの地面を抉り、まるで戦場のよう。
こんな状態になっているのは中央で拳や足を素早く、鋭く振るっているイアさんの鍛錬の現れ。
"身体強化"で目を強化すると、珍しく汗を流しているイアさんが見えた。
「………何のようですか?」
急に動きを止め、どうしたのだと思ったら、どうやら私の存在に気づいたみたいだ。
「………精が出ますね…」
「……当然です。……そろそろ何でしょう?決戦は」
イアさんの言葉を聞いて、はぐらかすつもりは無いのに、戸惑ってしまった。そんな姿を見て、溜息を吐いたイアさんは言葉を続ける。
「大体予想がつきます。マスターの目覚めと共に神との謁見。そして、マスターの急激な成長」
……イアさんは、こんな離れた所でもお師匠様の変化に気づいたみたい。
確かに言われてみれば、そう考えるのも頷ける。
「…私はあの神らしき奴に勝てなかった。それは私の鍛錬が不足していたから。なら、私がすべき事はただ一つ」
そう言って、鍛錬を続けようとしたイアさんに"ファイアアロー"という火の矢を放つ。それをイアさんは右手で掴み、握り潰した。
「……今までやっていたやり方だと効率が悪いと思う。……だから、私が手伝う」
私は魔導書をめくり、地面の土を使って"クラフト"で作った人形に"プログラミング"で歴戦の戦士の動きを、"エンチャント"で人が持つ魔力回路と同じようなものを擬似的に付与して、"身体強化"をかけさせる。後は、剣とか斧、弓を持たせれば完成。
合計20体もの即席でありながら、そこそこ強い人形を作れた。
「……どんどん増やしていくので、頑張ってください」
私が新たにもう1体作り始めた瞬間、20体もの人形がイアさんに襲いかかった………。
「………意外と魔力が…」
心許ない魔力しか残っていない事に自分の未熟さを感じるけど、それよりもイアさん。
「……ふぅ、なかなか……疲れました…」
珍しくその場に大の字になりながら、呼吸を荒くし、大量の汗を流しているイアさん。身体の所々には斬り傷とか打撲痕が多々あるけど、重症なものは何も無い。
そして、イアさんの周りにはのべ50もの砕け散った人形の残骸が転がっている。
時刻は……あと少しで夕方というくらい。大体あれから3時間くらい経った。
「……はぁ、休んだらお師匠様の所へ戻りますよ」
「…了解しました」
イアさんにしては疲れきったような声。
まあ、あれだけやって疲れなかったらこっちがショック……。
「……一つ良いですか?」
「………何でしょう?」
「どうして、イアさんは戦うんですか?」
私はお師匠様の仲間である3人のうち、ティフィラさんは愛だと分かっているけど、エルガさんとイアさんはイマイチよく分からない。
それをはっきりと知っておかないと多分、重要な時に信じられなくなる。
「………私はマスターの剣であり、盾。腕でもあり、足。マスターの利となる事を行う者。……そう、記録しています」
記録というのは、多分、記憶を消されたイアさんにしなければならない事を無理矢理記憶に入れた人が最初に入れた項目だと思う。
「……ですが、マスターは私に1人の生命体としての人生を歩めと言って下さりました。……初めはよく理解出来ませんでしたが、今なら理解出来ます。……私は1人の意思在る者としてここに居ます。それでは不充分ですか?」
「………いえ」
イアさんの意思は確たるもので、きっとあの時の私のように絶望したりせず、折れないものなんだろう。
…………多分、明日。お師匠様は乗り込む気なんだろう。私はその時、姉さんと共に頼れる弟子で居ないと。
「………さあ、帰ーー」
「抹殺個体、捕捉」
帰ろうと足に力を入れて立ち上がろうとした時、急に機械的な声が聞こえた。
イアさんのような事務的な声では無く、感情の余地が一切無い、無機質で冷たい声。
「命令に基づき、排除します」
その声を出しているのは何処からか現れた魔物と人間が混ざったようなもの達からだった。
それは、あるものは腕が《オーガ》のようにデカイ腕でありながら、足と頭が人間で、胸が《ウルフ》のように毛深いもの。
あるものは背中から《ホーク》のような翼を生やしつつ、腕と胸が人間で足は無く、頭が《オーク》という豚の魔物であるもの。
それらは多種多様ではあるが、共通なのが人間の部位と魔物の部位が必ずある事。
「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」
大体30ものバケモノが私とイアさんめがけて襲いかかってきた………。
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「……行ってしまいましたね」
「……ええ、そうね」
お母さんはその場で寝転び、くつろぎ始めた。
いつもお母さんはふざけたり、ゆったりとしているけど、本当の腹の底はよく分からない人でもあります。
「……先代神王妃、アハナ様として単刀直入に聞きます。彼らの勝算はどのくらいですか?」
「…………ざっと50%」
あの全ての神を殺せる力を目醒めさせたユウキさんが居ても50%……。
「『神の強欲』のトップである『強欲神』とは一体何者なのですか?どこの資料にも載っていない神なんて、居るはずがありません」
私が『強欲神』という存在を知れたのも神王の口から直接言われたから。
私の質問に返って来た答えはただ一言。
「だって、『強欲神』は神では無いもの」
お母さんはそう言って、機械仕掛けの左腕を掲げた………。
===ルル視点========================
「あ、やっと来やがった!さっさとこいつらを止めてくれ!」
酷く疲れた様子で、お師匠様の肩を掴んで懇願するアギラさんとその後ろで首を縦に振りまくるアマナさん。
ここは教会から出てすぐのちょっとした広場。前にティフィラさん達がどんちゃん騒ぎをしていたところ。
そこで、またもティフィラさんとエルガさん、アイがどんちゃん騒ぎをしていた。
「おまえら………。一体何やってんだ!!」
お師匠様の"重力支配"で宙に浮かされ、その浮遊感で気持ち悪くなっているティフィラさん達に説教を続けるお師匠様。
後ろでアギラさんとアマナさんと話している姉さん。
「もしかして、この騒ぎがあったから……」
「そうなんだよ。だから、抜け出してだなーー」
会話の内容からして、アギラさん達が居なくなっていた事に気付いた姉さんが事情を聞いているみたい。……私は全く気がつかなかったけど。
そのおかげか、周りを見渡してみると、ある人物が居ない。
………あれ?イアさんは?
"探知"を使い、半径2kmくらいを探知すると、ここから少し離れた草原らしきところに居るのが分かった。
「……ちょっと行ってきます」
「ん?ああ、イアの事よろしくな」
説教中のお師匠様に一言言ってイアさんの事を知らせずに行くつもりが、どうやらお師匠様はイアさんが居ない事も、私がイアさんの所へ行く事もお見通しのよう。
「はい、"ウィンドアクセル"」
私は足に風を纏い、駆け出した……。
風が吹き荒れ、鋭い衝撃が辺りの地面を抉り、まるで戦場のよう。
こんな状態になっているのは中央で拳や足を素早く、鋭く振るっているイアさんの鍛錬の現れ。
"身体強化"で目を強化すると、珍しく汗を流しているイアさんが見えた。
「………何のようですか?」
急に動きを止め、どうしたのだと思ったら、どうやら私の存在に気づいたみたいだ。
「………精が出ますね…」
「……当然です。……そろそろ何でしょう?決戦は」
イアさんの言葉を聞いて、はぐらかすつもりは無いのに、戸惑ってしまった。そんな姿を見て、溜息を吐いたイアさんは言葉を続ける。
「大体予想がつきます。マスターの目覚めと共に神との謁見。そして、マスターの急激な成長」
……イアさんは、こんな離れた所でもお師匠様の変化に気づいたみたい。
確かに言われてみれば、そう考えるのも頷ける。
「…私はあの神らしき奴に勝てなかった。それは私の鍛錬が不足していたから。なら、私がすべき事はただ一つ」
そう言って、鍛錬を続けようとしたイアさんに"ファイアアロー"という火の矢を放つ。それをイアさんは右手で掴み、握り潰した。
「……今までやっていたやり方だと効率が悪いと思う。……だから、私が手伝う」
私は魔導書をめくり、地面の土を使って"クラフト"で作った人形に"プログラミング"で歴戦の戦士の動きを、"エンチャント"で人が持つ魔力回路と同じようなものを擬似的に付与して、"身体強化"をかけさせる。後は、剣とか斧、弓を持たせれば完成。
合計20体もの即席でありながら、そこそこ強い人形を作れた。
「……どんどん増やしていくので、頑張ってください」
私が新たにもう1体作り始めた瞬間、20体もの人形がイアさんに襲いかかった………。
「………意外と魔力が…」
心許ない魔力しか残っていない事に自分の未熟さを感じるけど、それよりもイアさん。
「……ふぅ、なかなか……疲れました…」
珍しくその場に大の字になりながら、呼吸を荒くし、大量の汗を流しているイアさん。身体の所々には斬り傷とか打撲痕が多々あるけど、重症なものは何も無い。
そして、イアさんの周りにはのべ50もの砕け散った人形の残骸が転がっている。
時刻は……あと少しで夕方というくらい。大体あれから3時間くらい経った。
「……はぁ、休んだらお師匠様の所へ戻りますよ」
「…了解しました」
イアさんにしては疲れきったような声。
まあ、あれだけやって疲れなかったらこっちがショック……。
「……一つ良いですか?」
「………何でしょう?」
「どうして、イアさんは戦うんですか?」
私はお師匠様の仲間である3人のうち、ティフィラさんは愛だと分かっているけど、エルガさんとイアさんはイマイチよく分からない。
それをはっきりと知っておかないと多分、重要な時に信じられなくなる。
「………私はマスターの剣であり、盾。腕でもあり、足。マスターの利となる事を行う者。……そう、記録しています」
記録というのは、多分、記憶を消されたイアさんにしなければならない事を無理矢理記憶に入れた人が最初に入れた項目だと思う。
「……ですが、マスターは私に1人の生命体としての人生を歩めと言って下さりました。……初めはよく理解出来ませんでしたが、今なら理解出来ます。……私は1人の意思在る者としてここに居ます。それでは不充分ですか?」
「………いえ」
イアさんの意思は確たるもので、きっとあの時の私のように絶望したりせず、折れないものなんだろう。
…………多分、明日。お師匠様は乗り込む気なんだろう。私はその時、姉さんと共に頼れる弟子で居ないと。
「………さあ、帰ーー」
「抹殺個体、捕捉」
帰ろうと足に力を入れて立ち上がろうとした時、急に機械的な声が聞こえた。
イアさんのような事務的な声では無く、感情の余地が一切無い、無機質で冷たい声。
「命令に基づき、排除します」
その声を出しているのは何処からか現れた魔物と人間が混ざったようなもの達からだった。
それは、あるものは腕が《オーガ》のようにデカイ腕でありながら、足と頭が人間で、胸が《ウルフ》のように毛深いもの。
あるものは背中から《ホーク》のような翼を生やしつつ、腕と胸が人間で足は無く、頭が《オーク》という豚の魔物であるもの。
それらは多種多様ではあるが、共通なのが人間の部位と魔物の部位が必ずある事。
「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」「排除」
大体30ものバケモノが私とイアさんめがけて襲いかかってきた………。
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