ただの世界最強の村人と双子の弟子
第108話 動き出す
===リリ視点========================
「へえ、音と光、そして衝撃や圧力を遮断かー」
目の前に突然現れたなかなかな大きさの真っ黒な箱のような物を珍しいものを見るように見るアハナ様とアハナ様ほどじゃないけど、やっぱり気になるのかじっと見つめているアルナ様。
「………えーと、あれは"ブラックルーム"だと思う」
隣で魔導書を繰っていたルルからの報告に「ありがとう」と礼を言いながら、考えるのは守姫さん達の事。
思えば師匠の事はある程度分かったのに、守姫さん達の事は全く分からない。
分かっているのは師匠の『ソウルウェポン』というところだけ。
意思を持った『ソウルウェポン』なんて聞いた事も無いし、今後一切、師匠以外現れる事は無いと思います。
きっと、アハナ様がなんかやったんだと思うんだけど、それしか分からないしなー。
「はぁ。何が何だが………」
それに、さっきからアギラさんとアマナさんの姿が無いのも少し気になります……。
まあ、それも師匠達が出てきてからかなー。
(バキッ!)
"ブラックルーム"が出てから数十分。ルルと並んで座り、お互い体を預けてうとうとしていたら、急に"ブラックルーム"の四角の部分からヒビが入り始めました。
ルルを揺らして意識をしっかりさせた後、素早く立ち、"ブラックルーム"に駆け寄ります。
「どうしました?」
「あー、そろそろ出てくるみたいよー」
眠そうに欠伸するアハナ様の言う通り、ヒビは全体に渡って来ています。もう出て来る合図だと思います。
(バキィン!)
「はぁ、これは解除した時に派手に壊れるのがネックだな……」
ガラスが割れるような音と共に少し疲れたように思える声が聞こえて来ました。
一見、傷は見当たりませんが、あの光り輝く剣を出した後の膨大な魔力よりは少しばかり減っているみたいです。
「師匠!」「………あ、お師匠様」
私と少し遅れたルルとで師匠に駆け寄り、あの黒い箱の中で何があったのか、守姫さん達はどうなったのかを聞こうとしましたが、師匠の満足そうな顔から、どうやら上手くいったみたいです。
「はぁ~あ、疲れたし帰るか?」
師匠は軽く伸びをして、至って普通の事のように話しかけてきます。
私はそれがあまりにも嬉しいと思うと同時に、まだそう思うには早いと思いました。
「………その通りよ、リリちゃん」
急に真剣な声色で名前を呼んだのはアハナ様。
アハナ様はこっちへ手招きした後、地面に向けて手をかざしました。
私とルル、師匠は訳が分からず、取り敢えずアハナ様の所へ行くと、アハナ様が手をかざしている所には師匠がやった事をアギラさん達が見せた時のように丸い円の中に映像が映っていました。
「………何だ?これは……」
師匠は訝しむように映像を凝視します。後ろから覗いているアマナ様も真剣そのものの表情です。
ですが、私とルルには何が異常なのかさっぱり分かりませんでした。
だって、そこに映し出されていたのは何処かは分かりませんがただ人々が買い物をしているだけの映像だったのです。
「………えーと、何かおかしい所って有りますか?」
私はこのまま自分で考えても埒が明かないと思ったので、師匠に質問すると、師匠はある一点を指差しました。
そこを見ると僅かながら《デットラス》のような枯れた地面が有りました。
「今、映っている人達がいるのは元は《魔神の砦》が有ったところだ」
「え!?」「………そんな」
《魔神の砦》、それは遥か昔から歴代の魔神達が根城にしていた絶望の砦。
歴代の勇者達も何度は魔神に会えず、敗退する事が少なくなかったという難攻不落の砦。
どんなに強い勇者でも一回で魔神に会う事すら出来ず、それが叶ったのは師匠のみ。
そんな砦があった場所に何で普通の街並みがあるの?そして、元々有ったであろう《魔神の砦》は?
私の考えている事を答えるかのようにアハナ様は言い放ちました。
「現在の《魔神の砦》の場所はこの大陸の中心部にして連合国の総本山、《アブァス》にある」
《アブァス》は《ブリュンビレ》から少しだけ離れたところにある連合国の王都。そこには定例会議などの連合国運営に必要な会議や決議を全て担う都市。
「……つまり、奴らは大陸の中心部で事を起こす気だと?」
「ええ、そういう事です」
師匠とアハナ様の会話を聞きながら、過去に読みまくった文献の数々からこの大陸の事を思い出していきます。
大陸の中心部には確か……地下に……
「「「魔脈!!!」」」
一緒に文献を読んでいたルルは勿論、この世界の管理者らしいアマナ様と同じタイミングで大きな声で言ってしまいました。
魔脈は、この大陸に満ちる魔素を生物が生きられる濃度まで下げるために溜め込み、同時に災害などで壊滅した自然を修復するためにこの大陸が創った神が張り巡らせたという言い伝えのあるもの。
あまり、アマナ様以外は神を信じない人はどの国や街でも多いのですが、魔脈はしっかりと実在し、確認されている事から、この大陸を創った神は居るというのがほとんどの人達の常識です。
「まさか、その魔脈を悪用するつもりなんですか!?」
「……その可能性は高いわ」
魔脈を使って何をするのか分からないけど、魔脈が枯れたら大陸全ての食物が枯れてしまうし、魔脈が機能しなくなったら大陸全土の生物が死んでしまいます。
それらだけは絶対阻止しないと……。
「ふーん、魔脈の悪用か………。そいつはどうにかしないといけねぇよな………」
師匠はとても面倒くさそうに溜息をついた後、アルナ様の所へ行って、何かを話し始めました。
それを機に、アハナ様が私とルルの前に立ち、静かな声で話し始めます。
「……私は事情があって戦闘に参加出来ないけど、大丈夫よ、ユウキが居るからね」
「…………私達も居ますよ?」(コクコク)
ちょっと子供っぽいですが、師匠ばかり期待しているけど、私達だって師匠の右腕には成れなくてもそこそこ戦える一番弟子であるつもりなんですから。
「……ふふ、そうね。貴方達はユウキの立派な一番弟子で、充分右腕にも成れていると思うわ」
アハナ様は私達を軽く抱き締めながらそう呟きました。
やっぱり、アハナ様はもの凄い母性を持っていますね。何だが、母親のように思えてきます。けど、私達の母親はお母さんただ1人。それだけはしっかりとしておかないと。
「ふふ、アルナも貴方達のような時があったのにねー」
「おーい、話は終わったか?」
アハナ様とのゆったりとした空間に割り込んで来たのは師匠が私達を呼んでいる声。
私とルルはアハナ様の抱き締めから離れ、一礼した後、師匠の下へと駆け出します。
「もー、やっぱりユウキには敵わないのかなー」
「あんたと俺じゃ、信頼度とか一緒に暮らした年月とか一体感が全く違うんでね」
私達の頭を軽く撫でながら、まるで親と仲の良い親戚のような会話をする師匠とアハナ様。
師匠の顔はいつも通りでありながら、どこか嬉しげです。やっぱりアハナ様と会えた事が嬉しいのでしょう。
「さあ、開けましたよー」
アルナ様の声が聞こえ、その方向へと視線を向けると、そこにはアギラさんがよく開けていた門がありました。
「さあ、帰るか」
「はいっ!!」「……うん…!」
師匠が前を歩き、私とルルがその背中を追って門をくぐりました………。
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「へえ、音と光、そして衝撃や圧力を遮断かー」
目の前に突然現れたなかなかな大きさの真っ黒な箱のような物を珍しいものを見るように見るアハナ様とアハナ様ほどじゃないけど、やっぱり気になるのかじっと見つめているアルナ様。
「………えーと、あれは"ブラックルーム"だと思う」
隣で魔導書を繰っていたルルからの報告に「ありがとう」と礼を言いながら、考えるのは守姫さん達の事。
思えば師匠の事はある程度分かったのに、守姫さん達の事は全く分からない。
分かっているのは師匠の『ソウルウェポン』というところだけ。
意思を持った『ソウルウェポン』なんて聞いた事も無いし、今後一切、師匠以外現れる事は無いと思います。
きっと、アハナ様がなんかやったんだと思うんだけど、それしか分からないしなー。
「はぁ。何が何だが………」
それに、さっきからアギラさんとアマナさんの姿が無いのも少し気になります……。
まあ、それも師匠達が出てきてからかなー。
(バキッ!)
"ブラックルーム"が出てから数十分。ルルと並んで座り、お互い体を預けてうとうとしていたら、急に"ブラックルーム"の四角の部分からヒビが入り始めました。
ルルを揺らして意識をしっかりさせた後、素早く立ち、"ブラックルーム"に駆け寄ります。
「どうしました?」
「あー、そろそろ出てくるみたいよー」
眠そうに欠伸するアハナ様の言う通り、ヒビは全体に渡って来ています。もう出て来る合図だと思います。
(バキィン!)
「はぁ、これは解除した時に派手に壊れるのがネックだな……」
ガラスが割れるような音と共に少し疲れたように思える声が聞こえて来ました。
一見、傷は見当たりませんが、あの光り輝く剣を出した後の膨大な魔力よりは少しばかり減っているみたいです。
「師匠!」「………あ、お師匠様」
私と少し遅れたルルとで師匠に駆け寄り、あの黒い箱の中で何があったのか、守姫さん達はどうなったのかを聞こうとしましたが、師匠の満足そうな顔から、どうやら上手くいったみたいです。
「はぁ~あ、疲れたし帰るか?」
師匠は軽く伸びをして、至って普通の事のように話しかけてきます。
私はそれがあまりにも嬉しいと思うと同時に、まだそう思うには早いと思いました。
「………その通りよ、リリちゃん」
急に真剣な声色で名前を呼んだのはアハナ様。
アハナ様はこっちへ手招きした後、地面に向けて手をかざしました。
私とルル、師匠は訳が分からず、取り敢えずアハナ様の所へ行くと、アハナ様が手をかざしている所には師匠がやった事をアギラさん達が見せた時のように丸い円の中に映像が映っていました。
「………何だ?これは……」
師匠は訝しむように映像を凝視します。後ろから覗いているアマナ様も真剣そのものの表情です。
ですが、私とルルには何が異常なのかさっぱり分かりませんでした。
だって、そこに映し出されていたのは何処かは分かりませんがただ人々が買い物をしているだけの映像だったのです。
「………えーと、何かおかしい所って有りますか?」
私はこのまま自分で考えても埒が明かないと思ったので、師匠に質問すると、師匠はある一点を指差しました。
そこを見ると僅かながら《デットラス》のような枯れた地面が有りました。
「今、映っている人達がいるのは元は《魔神の砦》が有ったところだ」
「え!?」「………そんな」
《魔神の砦》、それは遥か昔から歴代の魔神達が根城にしていた絶望の砦。
歴代の勇者達も何度は魔神に会えず、敗退する事が少なくなかったという難攻不落の砦。
どんなに強い勇者でも一回で魔神に会う事すら出来ず、それが叶ったのは師匠のみ。
そんな砦があった場所に何で普通の街並みがあるの?そして、元々有ったであろう《魔神の砦》は?
私の考えている事を答えるかのようにアハナ様は言い放ちました。
「現在の《魔神の砦》の場所はこの大陸の中心部にして連合国の総本山、《アブァス》にある」
《アブァス》は《ブリュンビレ》から少しだけ離れたところにある連合国の王都。そこには定例会議などの連合国運営に必要な会議や決議を全て担う都市。
「……つまり、奴らは大陸の中心部で事を起こす気だと?」
「ええ、そういう事です」
師匠とアハナ様の会話を聞きながら、過去に読みまくった文献の数々からこの大陸の事を思い出していきます。
大陸の中心部には確か……地下に……
「「「魔脈!!!」」」
一緒に文献を読んでいたルルは勿論、この世界の管理者らしいアマナ様と同じタイミングで大きな声で言ってしまいました。
魔脈は、この大陸に満ちる魔素を生物が生きられる濃度まで下げるために溜め込み、同時に災害などで壊滅した自然を修復するためにこの大陸が創った神が張り巡らせたという言い伝えのあるもの。
あまり、アマナ様以外は神を信じない人はどの国や街でも多いのですが、魔脈はしっかりと実在し、確認されている事から、この大陸を創った神は居るというのがほとんどの人達の常識です。
「まさか、その魔脈を悪用するつもりなんですか!?」
「……その可能性は高いわ」
魔脈を使って何をするのか分からないけど、魔脈が枯れたら大陸全ての食物が枯れてしまうし、魔脈が機能しなくなったら大陸全土の生物が死んでしまいます。
それらだけは絶対阻止しないと……。
「ふーん、魔脈の悪用か………。そいつはどうにかしないといけねぇよな………」
師匠はとても面倒くさそうに溜息をついた後、アルナ様の所へ行って、何かを話し始めました。
それを機に、アハナ様が私とルルの前に立ち、静かな声で話し始めます。
「……私は事情があって戦闘に参加出来ないけど、大丈夫よ、ユウキが居るからね」
「…………私達も居ますよ?」(コクコク)
ちょっと子供っぽいですが、師匠ばかり期待しているけど、私達だって師匠の右腕には成れなくてもそこそこ戦える一番弟子であるつもりなんですから。
「……ふふ、そうね。貴方達はユウキの立派な一番弟子で、充分右腕にも成れていると思うわ」
アハナ様は私達を軽く抱き締めながらそう呟きました。
やっぱり、アハナ様はもの凄い母性を持っていますね。何だが、母親のように思えてきます。けど、私達の母親はお母さんただ1人。それだけはしっかりとしておかないと。
「ふふ、アルナも貴方達のような時があったのにねー」
「おーい、話は終わったか?」
アハナ様とのゆったりとした空間に割り込んで来たのは師匠が私達を呼んでいる声。
私とルルはアハナ様の抱き締めから離れ、一礼した後、師匠の下へと駆け出します。
「もー、やっぱりユウキには敵わないのかなー」
「あんたと俺じゃ、信頼度とか一緒に暮らした年月とか一体感が全く違うんでね」
私達の頭を軽く撫でながら、まるで親と仲の良い親戚のような会話をする師匠とアハナ様。
師匠の顔はいつも通りでありながら、どこか嬉しげです。やっぱりアハナ様と会えた事が嬉しいのでしょう。
「さあ、開けましたよー」
アルナ様の声が聞こえ、その方向へと視線を向けると、そこにはアギラさんがよく開けていた門がありました。
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