第107話 男の会話

===ユウキ視点========================

 ああ、やっぱりお前ならそうするよな。

 俺は思い出した技の1つ、右手に"ブレイド"で日本刀を作り、右手を前に少し出して構える。

「俺の目的はただ1つ！強ぇ奴と戦う事だけだぁぁ！！」
（ガキィィィン！！）

 俺の刀と攻武の大きな片刃直剣がぶつかり合い、大きな音と少しの火花を散らす。

 女性との意思疎通が愛なら、男はただぶつかり合う。それだけで全て済む。

「ああ、この際どっちが強ぇのか白黒つけようぜ！！」

 俺は刀の柄を上に上げて刃を下方向へ斜めにする事で攻武の剣を受け流し、攻武の崩れた体勢に容赦なく追い討ちをかけるように横腹へ蹴りを入れる。

（ドゴォーン！）

 攻武が"ブラックルーム"にぶつかり、鈍い音が鳴るのと同時に俺の左ほおへ小さな縦の斬り傷が現れる。

「………やりやがったな」

 傷から出る微量の血を左手の親指で拭き取りながら、攻武を見ると、多少は咳き込みながらも口元は笑っていた。

 攻武は俺に横腹を蹴られて飛ばされる寸前に自身を左手に顕現し直し、剣を振り上げてきたのだ。
 当然、半歩下がって避けたつもりだったが、少し距離が足りなかったようだ。

「………くっ、容赦ねぇな…」
「それはお互い様だ」

 攻武がこっちに歩み寄ってくるのを見ながら、刀を逆手に持って右手を胸の前に持っていき、腰を落とし、右足を少し下げ、いわゆる忍者のような構えをする。
 
それに対し、攻武は剣を両手に持って切っ先を後ろに向け、体を前に軽く倒して徐々に歩くスピードを速めていっている。

「うぉぉぉっ！！」
「……………はぁっ！」

 そして、攻武が勢いよく中段に振ってきた剣を、剣の下に滑り込み、刀の刀身の側面を上にして滑らせて剣を掻い潜り、逆手の手のまま、勢いよく首目掛けて刀を振るう。

 それを背を反らす事で躱し、それと同時に右足の爪先を俺の顔に振り上げてくるのを、左腕を盾のようにして受けたが、衝撃が思ったよりあり、俺の体が少し宙に浮いた。

 そこへ体を戻しながら、両手に有ったはずの自身をなおして、右手で殴りかかってくるのを刀を盾にして受け止めるが、宙に浮いているので、その衝撃のまま、飛ぶ。
 それを好機にと、駆け出しながら自身を右手に顕現させ、勢いよく振り下ろして来る。

 だが、攻武の狙い通りになる理由もない。
 刀を地面に突き刺して静止し、足が地面に着いたのと同時に刀を地面から抜き、体が地面とスレスレになるまで低く駆け出し、切っ先を思いっきり前へ突き出す。

 それを見て、無理矢理体を左に捻って突きを躱したタイミングと同じ時に、体を上げながら右足で踏み込み、攻武の顔面を左手の"ブレイド"を纏わせた硬い拳で殴る。
 だが、俺の手には顔面を殴った時の感触は無く、代わりに空気を殴った時のようなすかした感覚。

「………なっ！？」
「……甘ぇぞ！！」

 俺は手に持っていた刀を手放し、両腕をクロスさせて、飛んできたキックを防ぐ。
 だが、衝撃や威力を充分防げなかったので、吹っ飛ばされ、地面を転げ回る。

 すぐに"ブレイド"で硬質化した腕を地面に突き刺して静止する。どうやら追撃は来ないみたいだ。

「………『魂の解放ソウルバースト』か…」

 今までの流れで傷ついた床が自動的に直っていくのを見ながら、視線を前に向けると、そこには真っ黒で巨大な大剣を肩に担いでいる攻武が居た。

 さっきの俺の反撃は完璧だった。タイミングも速度も誘導も。ただ、攻武よりも圧倒的に基本的な身体能力の差が有っただけ。
 恐らく、『魂の解放ソウルバースト』を使い、悠々ゆうゆうと着地し、蹴りを入れてきたのだろう。
 これはかなりキツイな……。

「……おい、何故もう一本、刀を出さねぇ」
「………………」
「…俺達はあんたの影響で、一刀両手いっとうりょうしゅという変わった剣の使い方をするが、あんたはもっと変わった二刀双手にとうそうしゅだろ？なら、どうしてもう一本、刀を出さねえ？」

 一刀両手いっとうりょうしゅ。それは一刀流とは違い、1つの剣を右手と左手に瞬時に入れ替えて持続的かつ変則的に剣を振るう俺達独自のもの。
 普通の人がやれば手から手への移動の際にどうしても少しの時間が生じるし、何より、入れ替えるところは普通に相手に見られるから対処される。
 だが、『ソウルウェポン』を自在に収納、顕現出来る俺達なら、時間も相手に見られる心配も無い。だから、俺達ぐらいしか使わないもの。

 そして、二刀双手にとうそうしゅはその一刀両手いっとうりょうしゅの元になったもので、真の力を発揮するのは大剣と刀というように、形や重み・大きさが違う剣を二本使う事による多応戦能力。
 だが、それらは守姫達だからこそ出来るもので、今は充分に出来ない。ならーー

「………なら、望み通り出してやる」

 俺は"ブレイド"で全く同じ刀を左手に作る。そして、"身体強化"を使い、攻武のところへ駆け出した。

「……形も大きさも同じ刀とか……舐めているのか！」

 俺の二本の刀を見て、怒った攻武は大剣を担いだまま、俺へと接近してくる。

 俺は左手の刀を逆手に持ち直し、攻武が振り下ろして来た大剣の腹を刀で当てる事で少し下ろしてきた大剣の速度を落とし、その間に大剣の下を掻い潜って逆手に持った刀を中段に振る。

 それを右手に顕現し直した大剣に阻まれ、さらには弾かれるが、右手に作っておいた投擲用ナイフを攻武の左手の手首に投げつける。その後、大剣を振るわれるが、左に避けて、距離を取った。

「…………はっ、それでこそあんただよなぁぁっ！！」

 攻武は大剣を再び俺に振り下ろしてくる。それを右に避けた後、大剣を踏みつけ、右手に作った鎖を首元に飛ばし、縛り付ける。

「……っ！！？こんなものっ！！」
「動くな」

 攻武が大剣から手を放し、右手を鎖と首の間に入れ、鎖から抜け出そうとしているタイミングで鎖から指くらいの小さな剣の刀身を一部分出す。それに気づかなかった攻武の右手には剣が突き刺さり、血が滴る。

「…………俺の勝ちだ」
「………はぁ～あ、こっちは『魂の解放ソウルバースト』まで使ってんのに………」

 攻武は自身をなおし、呆れたのか、悟ったのか、理解したのかよく分からないが、とにかく納得はした顔をしていた。

「……お前達は俺の『ソウルウェポン』だ。なら、お前達の真価を発揮出来るのは俺しか居ないだろ？」
「……そんな事は分かっている」

 攻武は俺の前に立ち、俺の胸に拳を軽く当てる。

「…それをあんたが知ってるなら、もう二度と俺達をあんたから離すような事は言うんじゃねぇ。俺達は死ぬまで一心同体なんだからよ………」

 攻武はそこまで言うと、俺の中へ入り、目の前から消えた。
 胸には、やっと全てのピースが揃ったパズルのように晴れやかでスッキリとした感覚がある。
 
「………保証は出来ない」

 自我崩壊しかけた事や精神的な疲れがある守姫と技姫、俺との戦闘で消耗した攻武は寝ているので俺の声は聞こえない。それを良いことに自然に呟いていた………。


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