ただの世界最強の村人と双子の弟子

ヒロ

第74話 リルvs戦神

===神名無しの弓使い視点========================

「はぁ、はぁ、はぁ、くそっ!!」

 俺はただ全力で山を降りる。後ろを振り返らず、足元も見ず、ただ全力で走る。

「ぐっ!?あぁぁぁ!!」

 この山はあまり足元がしっかりしておらず、全力で走っていた事もあって転んでしまい、山を転げ落ちる。身体中に石やら木の根が当たり、鈍い痛みが走るが、距離を稼げたと思えば安いものだ。

「ちっ!!くそっ!くそっ!くそっ!どうして俺がっ!!」

 俺は見てしまった。『影神』がやられるところを。あの小さな子供に一矢報いる事すら出来ず、無残に死骸となった瞬間を。それだけじゃない!あの子供は合体し、本気を出してはいなかったとはいえ、『戦神』を圧倒した。そして今は本気を出した『戦神』と互角の戦いをしている。あんな化け物同士の戦いに俺が何か出来る訳がない!!

「そうだ!これは戦略的撤退なんだっ!ここで俺が倒れたら情報がーー。誰だ!?」
「……………いくら気が動転していても、流石は神もどきという事ですか」

 さっきまで全く感じられなかった気配がいきなり現れたと思いきや、普通に現れた背の小さな女。子供かと思ったが、俺の事を神もどきと言った時点でただ者では無いだろう。

「お前は何者だ?」
「…………今から死ぬ人に教えても意味はありません」 
「え?」

 一瞬風が吹いたかと思いきや、俺の視界が回転していた……………。


===リル視点========================

「はあぁぁっ!!」
『ぐうぅぅぅ!!』

 『戦神』の振り下ろす剣を『ソウルウェポン』で受け、突き刺してくる槍を刺突で相殺する。先程からどれだけこのやり取りをしたんだろう。私は『戦神』の攻撃を防いでいるだけで全く攻めに転じられない。それもこれも…………

「あ~~はっはっは!!貴様、先程から守ってばかりで一向に攻めてこんではないか!それではつまらん!つまらんぞっ!!」
『うるさい!!なら、その鬱陶しい槍を捨てろっ!!』
「捨てる訳無いだろうっ!この馬鹿者めが!!」
『ぐぅぅっ!!あぁぁっ!!!』
(ドゴォゥン!!)

 集中が途切れてしまったところに蹴りを入れられ、私は山に落ちる。蹴りを入れられた腹の部分には咄嗟に"身体強化"の要素を入れた神気で防いだけど、衝撃までは防ぎきれなかった。
 私は追撃の可能性がある為、受け身を取って着地した後、すぐにその場から離れたが、追撃は来ず、『戦神』はゆっくりと降りてきた。

「はっ、まさかこの槍一つで貴様を追い詰める事が出来るとは……。やはり、優れた武具は盗っておくべきだな」

 『戦神』の言う通り、私はあの細長い赤い槍の対応のせいで攻めに転じられない。というのも、あの槍は受け止めたり、相殺したら普通の槍だが、躱すと相手に有利な状態で時間が巻き戻ってしまう。そうなると受け止めたりするしかないが、それだと攻撃する事が出来ない。背後に回り込もうとしても、それ自体が"躱す"という行為になってしまい、時間を巻き戻される。砕こうとしても硬すぎて出来ない。なら………

「おっ?今度は何をする気だ?」
『あなたを消す!!』

 私は浮かび上がって両手で既に合体済みの『ソウルウェポン』を持ち、掲げ、真っ白な光に包まれた剣を振り下ろした。

『"クラノロスト"!!』

 真っ白な光が『戦神』を包み込もうと迫る。それに対して『戦神』はニヤリと笑みを浮かべ、大して効果が無さそうな長い柄がある剣を光に向かって投げた。

『うっ、何が?』

 一瞬、全てが真っ白な光に包まれ、余りの眩しさに目を閉じた。そして、光が消えたのを確認してから目を開けると、『戦神』から少し離れた場所に真っ白な光を纏う長い柄の剣が刺さっていた。

「この剣は"神気を喰らう"まさに『神殺し』に相応しい剣でな。こいつは俺も愛用している。神気を持つ相手とのいくさの時には特にな」

 『戦神』は剣が刺さっている所に歩きながらあの剣の説明をした。本来、戦いの場ではいかに相手の情報を引き出し、相手の特異性や秘密を暴くものだけど、この男はあっちから話した。つまり、私の事を大した脅威ではないと判断したという事だ。

『……………舐めているの?』
「はっ、舐めてはいねぇが………、格下だとは思っているな。その実力では俺には勝てねぇし、万が一勝ったとしても、トップの二人には絶対勝てねぇよ」

 つまり、『戦神』より遥かに強い神が二人いるって事。…………普通の人なら絶望するだろう。嘆くだろう。戦意を失うだろう。けど私は……………、そんな事に時間を使っているほど暇じゃない。

『…………神気が使えないなら、『魔導』と『殲滅武術』の真髄を身体に教え込んであげる』
「おうおう、やってみな。"特異点"の技には俺も興味があったんでな!!」



 あれから1時間ほど経った。荒れ果てた荒野のような所に立っているのは私。もう一人立っているのは『戦神』。ボロボロなのは私。ボロボロなのは『戦神』。どっちも満身創痍で立っているのがやっと。指一つ動かせそうにない。

「……はは、まさ…か……ここ…ま……で追い詰め…ると…はな………」
『まだ………死んで……ないの?』

 この1時間。あらゆる『魔導』と『殲滅武術』を使い、『戦神』を攻撃しまくった。それに対して『戦神』はあのうざったい槍も"クラノロスト"を吸収して一振りで山が吹き飛んだほどの威力を持った剣も使ってきた。お互い全力でぶつかり、結果、戦いの場となっていた山はとうの昔に消し飛び、周りの大地には大きな穴や切断面、魔法による天変地異と思えるほどの炎や氷、水や雷などが大地を覆っていた。

「………はっ、俺と…お前が戦……うにはこの土地は狭…すぎた……な」
『さっさと………お前が…殺されて……いればこんな事……にはならなかっ…た』
 
 私と『戦神』が本気で戦う前に見せたあの超回復を『戦神』は使わない。それとも使えないのか?どっちにしても、これ以上戦う事にならないから有難い。

『『魔導』"シャドウーー「良くやりました」……え?』

 私が新たに創った『魔導』で留めを刺そうとした時、私の隣を横切った一人の女の子。その女の子は凄まじいスピードで『戦神』に近づき、

「何だ貴様はーー「あなたが知る必要は無い。全力のパンチフルキャノン」」
(ドゴォーーーン!!!)

 凄まじい突風と砂嵐が起こり、身を屈めて衝撃に耐えた。そして、砂嵐を消え、体を起こすと、背の低い女の子が『戦神』が居たであろう所に佇んでいた。その女の子は茶髪でどこか技姫さんに似ている空気を漂わせ、雰囲気はアイに似ている。もしかして………

『………もしかして、貴女がイアさんですか?』
「………ん、初めまして。私はイア。マスターの危機に馳せ参じようとする者」

 振り向いた女の子はとても無表情なんだけど、機械らしさは感じない、とても不思議な子に見えた。

『……………え?イアさん~~~!?』
「………うるさい」

 探し求めていた人と思わぬところで出会いました…………。

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 え?展開が急すぎるって?そんな事はありませんよ!(汗汗)

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