ただの世界最強の村人と双子の弟子

ヒロ

第57話 アイ

===アイ視点========================

(ドゴォォーーン!!!)

 予選を通過して、他の人から避けられながらも待機場所である地下の隅でジッと座っていると、轟音が鳴り響き、地下も揺れる。

「な、なんだ!?なんだ!?」
「おいっ!見えねぇぞ!!」
「予選はどうなった!?」

 喚き出した人達に釣られるように映像を見てみるも、そこは何も映っておらず、音声も何も出てない。

『うわー、ここまで衝撃が来るなんて……』

 誰かも分からない子供っぽい声が聞こえた後、映像が戻り、砂埃が消えていく中、そこは2人の女の子のみしか立っておらず、他の人どころかフィールドも無い。

「うわ~~、マジかよ………。バケモンじゃねぇーか………」
「俺、棄権しようかな……」
「…………俺も」
「なんだ、ここにいるのは腰抜けか!?俺は棄権しねぇぞ!!」
「ふっ、高い壁ほど乗り越えたくなるものだ」

 棄権しようとする者やなお残る者が出てきたが、私にとってそんな事はどうでもいい。あの2人は一見、可愛らしい女の子ってだけで、あんな力を持っているようには見えない。

「もしかして…………」

 私は一回浮かんだ可能性を振り落とすかのように頭を振るう。
 そんな筈はない、そんな筈はない………でも………………

===ルル視点========================

 沢山の視線を浴びながら、地下に戻ると一斉に視線がこっちに向き、怯える人、拳をポキポキ鳴らして睨みつける人など様々だった。

「……………やりすぎたね」
「………今更だよ、姉さん」

 結構力を弱めたつもりだったけど、まだまだ甘かったみたいだ。
 勝ったのに落ち込むという奇妙な状態でティフィラさん達の下に帰ると、口を抑えて笑いを必死に堪えているエルガさんと、ピキピキと青筋を立て、微笑みながらこっちを見るティフィラさん。…………その微笑みが逆に怖い……。

「確かに殺さない程度って言ったけど、何もあそこまで目立つ必要はないでしょう!?神に勘づかれたらどうするつもりなの!?」
「「……………すみません………」」

 現在、地下の隅の隅で私と姉さんは正座でティフィラさんのお説教を聞いている。

「あなた達なら、初級魔法やら腕を振るうだけで片がつくんだから、無理に技を使わなくてもいいの!!」
「「………それこそ目立つんじゃ……」」
「あれらを使った方がリスクがあるの!!あれらは分かる人は見たらどんだけ凄いものなのか分かっちゃうんだからね!?」
「「………すみません………」」

 エルガさんを身代わりにしたいけど、エルガさんは笑いに堪えるので精一杯なようで、座り込んでプルプル震えている。

「全く………!自重しないのはユウキとそっくりね!!」
「ほんと………ぷぷっ!」
クソ野郎エルガは黙ってて!!」
「べぐらっ!」

 あ、エルガさんがティフィラさんに殴られて壁にぶつかった。

「ふぅ、まぁ、起きてしまった事をとやかく言っても意味はないわ。でも!フィールドを壊すのはやめてよね!おかげで私が出るのが遅くなったじゃないの!!」
「「………すみません……」」

 そろそろ勘弁してくれるかと思ってたら、急にティフィラさんが私達から視線をずらした。それが気になってティフィラさんが見ているところを見てみると、そこには一回戦で最後に凄いスピードで2人を倒した女の子がいた。ティフィラさんは私達の前に立ち、喧嘩腰で、

「………何の用?」
「……私はあなたじゃなくて、そこの2人に用がある。どいて」
「私は2人に得体の知れない人を通す事はないわ。そんな事をしたら、ユウキに嫌われるもの」
「…………!?ユ…ウキ………!!」
「え、あなた、ユウキを知ってるの?」
「え!本当ですか!?」

 ティフィラさんも姉さんも驚きのあまり、逆に警戒心が無くなってる。こいつは警戒しておかないとまずい。だって……あんな恨みを持った目をしてるのに………!!

「ユウキはどこだぁぁぁ!!」
「『魔導』"リフレクト"!!」
(ガキィィン!)(パリィィン)

 アイとかいう女の子はいきなりティフィラさんに思いっきり拳をぶつけに来たのを"リフレクト"で防ぐけど、強度が弱くて、はね返せたけど、同時に壊れてしまう。一回の攻撃で壊れるし、魔力を多く持ってかれた。………私はまだまだ『魔導』を使いこなせてない………。

「え!?ちょっといきなり何すんの!?」
「ごめん、ルル!油断してた!!」

 ティフィラさんは精霊をいっぱい出すわけにもいかないので、3体だけだし、姉さんも"身体強化"を使って臨戦態勢をとる。

「お姉ちゃんを私に返してぇぇ!!」
「え!?お姉ちゃん!?」
「………姉さん、恐らくイアさんの妹」
「まさか………イアに妹がいたとは……」
「そんな事はどうでもいいわ。とにかくあの子をどうにかしないと……」

 さっきまで壁の近くで寝転がっていたエルガさんも銀色の体毛を腕や胸、足に出し、犬のような立て耳を出していた。その顔に余裕は無くて、冷や汗を流していた。
 アイは目を血走らせ、獣のように歯をギリギリと噛みながら体勢を低くして突っ込む準備をしている。

「……イアの妹だから、あの子はドワーフ族ね。イアは実験によって『昇華』を複数展開、重ねがけが出来たわ。それを無くしても戦闘能力は非常に高かった。あの子の妹だから、遺伝子の関係か教わっているのかは分からないけど、イアみたいな戦い方をしてくるかも知れない……。そうだとしたら、対抗出来るのは、クソ野郎エルガがリリだけ」

 え………?姉さんがあんな危険な相手と戦うのに、私は何も出来ないの?

「大丈夫よ、ルル」

 声をかけられていつの間にか下げていた頭を上げると、そこには優しげな表情で私を見る姉さんがいた。

「私達は師匠に鍛えられたのよ?イアさんならともかく、ちょっと強い妹に負ける事はないよ」

 姉さんは優しげな表情だけど、目は確かな意思を帯びていた。

「エルガさんは手を出さないでください。………あれは私1人で充分です」
「…………わかった。けど、危なくなったら介入するよ?ティフィラさんに嫌われたくないからね」
「…………構いません」

 姉さんとエルガさんは軽く話し合って、姉さんだけがアイの下に近づいていく。

「あなたを無惨な状態にして、他の人が口を割りやすくなるように見せしめにしてあげるぅぅぅ!!」

 狂ったかのように、雑に、猛獣のように、姉さんに掴みかかろうとするアイ。
 そんな危機的な状況でも、姉さんは焦ったような様子を見せない。ゆっくりと右手をあげて、

「『殲滅武術』"・音震"」
(キィィィーン!)

 姉さんは親指と人差し指で音を鳴らした。でも、その音はただの音では無くて、響き渡り、揺れるかのような音。
 それを聞いたアイは苦しそうな顔をして、両耳を抑えて聞こえないようにしたけど、意味はなかったようで、そのまま倒れた。

「あー、痛いねー。自分を巻き込んじゃってるところをどうにかしないとね」

 頭を抑えて何気ないように私達のところに帰って来た姉さん。音を鳴らす時に使った指が少し腫れている程度で、他には大した外傷もなかった。

「さて、どうします?この子」

 姉さんが視線を向けた先には、苦しそうにしていながらも、意識がないアイが倒れていた…………。

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 最近、ルルの『魔導』ばかり活躍しているから、リリの『殲滅武術』も同じくらい出していこうと思います。

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