ただの世界最強の村人と双子の弟子

ヒロ

第56話 予選その1

===リリ視点========================

 私とルルは今、闘技場の地下で魔導具によって映し出された映像を見ています。

「さあ!いよいよ予選一回戦が始まります!!」

 司会者の宣言で闘技場の中心にあった円が持ち上がり、戦いの舞台となる地面が現れる。元の地面と持ち上がった地面はあまり高さ的には変わっていないけど、恐らく………

「さあ、ここで予選の説明をさせて頂きます!今、持ち上がった地面は連合国直属の魔術師達による"グランド"で硬く補強されています!思う存分戦って下さい!観客席も魔術師達が結界を張っているので大丈夫です!」

 予想通り、映像の隅に映ったフードがついたローブを着た人達は魔術師だったみたいで、その人達が色々とサポートをしているみたいです。

「予選では持ち上がった円から出るか気絶、戦闘不能、降参したら脱落!そして、残った2人が決勝進出というシンプルなルールです!!では、そろそろ始めようと思います!準備はよろしいですか!?」
「「「「「「「「「ウオオォォォォ!!!」」」」」」」」」

 司会者が声を拡大させる魔導具を参加者達の方に向けると、参加者のほとんどが各々の武器を天に掲げ、雄叫びをあげています。
 この武闘大会では、使用武器は何でもいいんですが、防具だけが制限を受けており、皆年季が入ったところどころ欠けている鉄の胸当てのみを付けています。

「では、開始!!!」
「「「「「「「「「ウオオォォォォ!!!」」」」」」」」」

 司会者の掛け声とともに一気に混戦状態になります。誰彼構わず攻撃を仕掛ける者、人数が減るまで逃げようとする者、何人かと協力して戦う者と様々な様子が見られたけど、中でも飛び抜けているのが3人。

「さあ!この混戦で目立っているのは、まず獣人族のザルト!なんとSランク冒険者のようで、周りにいる相手をことごとく自慢の腕力で薙ぎ払っています!!」

 司会者に紹介された茶色の体毛が結構あるザルトはモデル・ベアーの獣人族。自慢の腕力と爪、牙が普通の人達には敵うはずも無く、血を流して倒れていきます。でも、そこまで脅威じゃない。あの中で脅威になるのは………

「あの人は!!毎年参加しているSSSランク冒険者のガインさん!『ソウルウェポン』がガントレットという珍しい武器です!!」

 真っ黒な体でスキンヘッドの2mくらいの巨漢のガインが使うガントレットは結構強そうに見えます。さっきから、殴った相手が凄いスピードで吹っ飛ばされているから衝撃系の能力が付いているのかな?

「後は………凄いスピードでフィールドを駆け回る少女です!!私は目が追いつきません!!」
「あ、ほんとだ。あの子速い」

 司会者に言われてフィールドを見渡してみたら、暗殺者のように背後に回って首に手刀を当てている茶髪の男らしい格好の女の子がいました。その子のスピードは常人の域を越していますが………

「うーん、そこそこね」「そうだね」「……………普通」

 師匠に鍛えられた私やルル、師匠が頼りにするティフィラさんとエルガさんの中では大したスピードには見えません。

 その3人が猛威を振るう予選一回戦。開始から30分経ったところで漸くその3人のみが残りました。

「おおっと!お互いに警戒し合って膠着状態になりました!!」

 現在、その3人が三角形になるようにお互いに距離を取り合っています。

「ねぇ、誰が負けると思う?」
「………あの女の子」
「うーん、僕はあの獣人族かな」
「私は誰でもいい」

 ルルとエルガさんはそれぞれ違う相手を選んだけど、どっちともSSSランク冒険者の方が負けるとは思っていないみたい。私もそう思うけどね。ティフィラさんは興味が無いみたいです。

「これはいつまで……………は!?」
「え!」「………嘘」「番狂わせだね」

 誰もが膠着状態が続くかと思っていた時、あの女の子が目にも止まらない速さで残りの2人を場外に吹っ飛ばしました!驚くのは私達でも目にも止まらない速さだった事です。

「あの子、何者………?」
「これは………僕達も油断出来ないね……」

 エルガさんもティフィラさんも予想外の結界だったようで、とても驚いています。

「…………え、えーと、勝者、アイ!!」
「「「「「「「「「ウオオォォォォ!!!」」」」」」」」」

 司会者が女の子に近寄り、手を掲げると観客席から歓声が起こります。その女の子はされるがまま、特に喜ぶ訳でもなく佇んでいます。

「残ったのが1人になってしまったので、後でガインさんとザルトさんには一騎打ちをしてもらいます!!では、50分後に二回戦を開始します!出場者は準備してください!!」
 
 司会者がそう締めくくると、職員達が転がっている参加者達を回収していきます。女の子もこの地下に帰ってくるようです。
 
「………次は私達、準備しよ?」
「うん、そうだね」

 ルルに言われて貸し出しの胸当てが置いてあるところに向かおうとすると、服の袖を引っ張られ、後ろを振り向くとティフィラさんが心配そうな顔で………

「やり過ぎたら駄目よ、こんなところで人殺しをやったらあとあと困るから」
「私より相手の心配ですか!?」
「当たり前よ、あなた達が負けるはずがないもの。殺さない程度にやってきなさい」
「わかってます!行くよ!ルルっ!」

 嘘でも心配と言って欲しかったけど、心配なんかしないほど頼りにされているのも嬉しくて早足で歩いてしまう。ルルは何も言わず付いて来てくる。

「…………師匠に馬鹿にされない為にも絶対本選に出るよ」
「…………うん、勿論」

 ルルは私の手を握って微笑む。……妹に良いところをたまに見せないとね!!



「さあっ!いよいよ二回戦を開始します!!準備はいいですか!?」
「「「「「「「「「ウオオォォォォ!!!」」」」」」」」」
「さっさと終わらせようね!」
「うん」

 歓声やら雄叫びでうるさい中、私とルルは背中合わせに立って、開始を待つ。

「では………開始!!」
「『魔導』"オーバーハリケーン"」
「『殲滅武術』"拳・衝波貫"!」

 ルルは魔導書を左の脇に挟みながら、手に発生していた小さな突風の渦を前に突き出して、大きな突風の渦を横向きに出し、私は師匠が以前使っていた"羅刹貫"を見て密かにアレンジした"衝波貫"を撃ちます。私が拳を前に突き出すと衝撃の波が前方に伝わって行く。

(ドゴォォーーン!!!)

 激しい砂埃と突風が舞い、フィールドどころか闘技場全体が見えなくなりました。そのうち、砂埃が霧が晴れるように無くなっていくと、私達がいる場所以外が無くなったフィールドと結界にへばりついた参加者達。

「「……………………」」
「…………あのー、これは一体?」
「………やり過ぎちゃいました!てへっ♪」

 フィールドがあったであろう場所に来て、声を拡大される魔導具を持った司会者に問い詰められた結果………舌をちょっと出して、右手でコツンと頭を叩いて可愛らしいポーズを取って見ました……。これは師匠に怒られていた時の守姫さんの対応を真似して見たんだけど………

「「「「「「「「「ウオォォォ!!!可愛いぃぃ!!!」」」」」」」」」
「まあ、本選出場は認めますが、本選ではやらないでくださいね?」
「「はい………」」

 こうして、私達の初戦は、幸先のいいのか悪いのか分からない感じで終わりました…………。

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 ユウキの影響で、リリとルルが自重しなくなってきましたね………
 

 

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