ただの世界最強の村人と双子の弟子

ヒロ

第50話 暗殺者とルル

===リリ視点========================

「毒が撒かれた場合はどうすれば?」
「それは私が………"クリーン"」

 ティフィラさんは精霊に生活魔法である"クリーン"をやらせると、どうやら毒が無くなってきたらしく、ティフィラさんは口に当てていた手をどかしました。

「もう大丈夫よ」
「はい」「いや~、流石だね、ティフィラさん♪」
「黙れ、クソ野郎」
「…………はい」

 ティフィラさんとエルガさんのいつものやりとりを聞き流しつつ、手をどかしてみると、息苦しさが無くなっていたので、やっぱり成功したみたいです。でも、どうやって出来たんでしょう?

「ティフィラさん、服に付いた汚れを落とす程度の"クリーン"でどうやって空気中の毒を消毒出来たんですか?」
「ああ、それは"クリーン"をやらせた私の精霊の能力に"空気中に魔法を反映させる"っていうのが付いていたからね」
「なるほど………」

 何気に凄い能力ですね……。ティフィラさんの精霊は300体程はあると言っていましたから、もし、その全てに何らかの能力があれば…………。想像するだけで恐ろしいですね。

「とにかく、どうします?堂々と来るのを待つか、倒れた真似をして油断を誘うか」
「そうね………。それじゃあ、選択肢3のオリナに隠してもらうってのは?」
「……………あっ!そういえばオリナは?」
「そこにいるわよ」
「え?どこですか?」

 なんか今日1日で色んな事があったからオリナの事をさっきまで忘れてしまってました。ティフィラさんは部屋の隅を指差しましたが、そこは何の変哲も無いただの部屋の隅。ホコリひとつない綺麗な隅です。

「オリナ、出てきてらっしゃい」
「む、仕方ないのう」

 ティフィラさんが部屋の隅に呼びかけると、部屋の隅の空間から滲み出るようにオリナが現れました。その顔は不満げで怒っているかのように見えます。

「えーと、どうしたの?なんか怒ってる?」
「怒っておるに決まっておろう!リリ!それに目を背けているルル!お主ら妾の事を完全に忘れておったじゃろう!!」
「ご、ごめんなさい!」「……隠れているオリナが悪い」

 素直に謝る私と責任転嫁するルル。

「妾じゃって好きで隠れていた訳では無いわ!!お主らが帰って来る前に知らない全身黒い服のおっさんが入ってきて、変な魔導具を置いていったんじゃ!気配察知を会得してこのようにしてやり過ごせたが、お主らの前に姿を見せようとしたら誰も妾がいない事に触れない!じゃからお主らを見捨ててここで待機しておったんじゃ!!」
「え!それ酷くない!?」「……仲間にする事?」
「どうせ、お主らじゃ毒ごとき訳ないじゃろう!?」
「え!いくら力をつけても毒に抵抗は……」
「……ご主人は守姫さんに頼んで食事にちょっとずついろんな毒を入れ、抵抗をつけさせていたようじゃぞ」
「え?ほんと?」
「本当じゃ。お主らも『竜殺し』は無理でもそれ以下なら問題無いように思えるがな」

 『竜殺し』以下って………というか『竜殺し』以上が無いんですが?
 師匠は私達が知らないうちにそんな事をしていたみたい。…………再会したら問い詰めよ。

「まあ、それは置いといて「置いとくんじゃないわ!」オリナはどうやって姿を消していたの?」
「ふっふっふっ、妾の『魔素支配』を応用したんじゃよ」

 確か『魔素支配』って魔神だけが使える文字通り魔素を完全支配出来る技って師匠が言っていたような………。

「妾の周囲にある魔素に光を屈折させるという効果を与えて見えなくしたんじゃよ」
「それって凄い事なんじゃ……」
「当然じゃ!なにせ、歴代魔神でもここまで『魔素支配』を扱えた者はおらんからな!」

 多分、地下室に行かず、攻武さんと特訓してたのはこれに関する事をやっていたんだろうね。オリナは私達の中じゃ目立たないけど、実力は確かにあるという事を再認識したけど………やっぱり目立たないのは仕方ないよね!

「とにかくお願いね、オリナ」
「了解じゃ!」

 オリナは両手を上に広げ、手に光を発生させて私達を包み込みました。けど、それはすぐに消え、私達には何の変化もありません。あると言えば………

「少し暗い?」
「当たり前じゃ、妾達に来る光を屈折させておるのじゃ、多少は暗くなって当然じゃ」
「まあ、とにかくここで待ちますか。クソ狸とそれに従うクソ野郎を……」

 その意見には賛同しますが、目をギラギラとさせないでくれません?とっても怖いです……。

===ガイラ視点========================

 俺とガルト、応援として前の暗殺で知り合った2人の男は全員闇夜に紛れるように全身黒装束の格好であの生意気な子供どもが泊まっている宿の向かいにある廃墟となったレストランの2階の窓から奴らの部屋辺りを見る。

「毒は散布したのか?」
「勿論、痺れ毒を散布し、全員動けずに寝転んでいる事だろう」
「それじゃあ、俺とガルトは生意気な子供を、お前ら2人は残りの2人を殺れ」
「「お任せを」」

 準備は万全、人員も十分、武器も最高のやつを持ってきた。抜かりは無い、無いのだが、言い知れぬ不安が抜けない。本能か経験か分からないが、奴らは只者ではないとどこかで気づいている。
 だが、俺をコケにしたツケは何としても払わせてやる!

「日が完全に沈んだ時がお前らの最期だ」



「どこだ!どこに行った!?」

 日が完全に沈み、奴らの両隣の部屋に泊まっていた人らは金を払って違う宿に移動させ、いざ、中に入ってみたら中に誰もいない。だが、もぬけの殻という訳では無い。奴らの荷物は置いてあり、机に置かれた茶菓子の包みが残っていて、机にもお茶が飲み干されずに置いてあった。

「誰が俺らの計画に気づいて逃したのか?」

 宿の管理人や従業員は金で従えてあるから宿の人間ではない。なら、街に知り合いが?いや、奴らは昨日来たばかりだと言っていたし、宿の人間も昨日から泊まっていると言っていたから間違いないだろう。

「トイレ、押入れにもいません」
「宿の風呂場にも確認を取らせましたが、いなかったようです」
「宿の食事場にもいないみたいだ」
「なら!どこに行った!?監視はしてたが出て行ったのは見てないぞ!!」

 この宿の正面からずっと交代で監視していたが、奴らは宿を出ていなかった。因みに宿の隣には宿経営の畑と宿と連携しているお土産屋があり、後ろは街を囲う高めの塀があるから裏口も無い。出るとしたら正面玄関しか無い。

「とにかく出直すぞ!これ以上長居してたら帰ってくるかも知れねぇ」

 扉の近くにいたガルトが扉を開けようとするが、一向に開かない。ガチャガチャとドアノブを強引に回す音が聞こえた後、戸惑った顔で振り返り、

「開かない」
「は?」
「だから、開かないんだよ」
「そんな訳ねぇだろ!貸してみろ!」

 俺は強引にガルトを横に退かし、ドアノブを強引に捻るが、完全に回らない。つまり、開かない。

「は?どうなってやがる!?」
「………それは簡単、重力魔法で完全に回る前に押さえつけているから」

 昼間聞いた声が聞こえる。少し愛想の無い小さな女の子の声だ。この声はあの生意気な子供の1人で、あの場で殺されるかと思ったところを助けてくれた声。奴らの中で少し情が湧きかけた青い髪の女の子。

「…………折角助けてあげたのに」

 青い髪の女の子と元凶でもある金髪の女の子、俺を殺そうとしたエルフ族の女に常識人の男と褐色の肌である事から魔族だと分かった女が何も無い空間から出て来た……。

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 オリナの事!忘れてませんよね!? 

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