30:奴隷と魔族

　奴隷の店は市場の外れにあった。表の建物は一見、酒場のように見えるが、地下では奴隷の売買が行われていた。別に奴隷販売が認められていないわけではないが、こうしているらしい。
　まぁ、こんなところ来るのも初めてどうすればわからない。
　そんな俺たちを発見した奴隷商が話しかけてきた。

「奴隷市場は初めてですか?　どのような奴隷をお買い求めですか?」
「あぁ、俺たちが探しているのはダンジョンで使える、罠解除ができる奴隷だ。できれば女がいい」
「あの～ご予算は？」
「まぁ、結構あるからそこは気にしなくてもいい」

　俺がそういうと「こちらへどうぞ」といい、俺たちを中へと案内する。
　そこは予想通り、檻がたくさんあり、その中には子供から大人、男女、多種種など、様々な奴隷が薄着一枚で、檻の中で座っている。首には奴隷の証である首輪がはめられていた。
　いろんな奴隷を見つつ、しばらく歩くと奥にある一つの部屋に目がいった。

「おい、奴隷商」
「はいなんでしょう？」
「あそこの部屋はなんだ？」

　俺はその奥にある部屋を指さし、奴隷商に尋ねた。

「はい、あそこには体の一部を亡くした者たちや、病状の強いものが扱われている部屋でございます。今回はダンジョンで使う、戦闘兼罠解除ができる奴隷をご所望のようでしたので、ここはいいと思い、飛ばして紹介しようと思いますが?」

　体の一部がなくなっている者か、それと病にかかっている者か。一応見ておくか。掘り出し物があるかもしれない。

「一応見ておきたい、案内を頼む。で、ティナはちょっと広場の方で待っててくれ」

　そう言いながら、腰に差してあるムラクモをティナに手渡す。

（心配だから、ティナを頼む。何かあったらすぐに連絡）
〝んっ〟

　ムラクモは短く答える。ムラクモがついてれば安心だ。人化しているときの刀術は目を見張るものだ。

「分かりました」

　ティナも俺の意図を察したのか、素直に頷いてくれる。
　体の一部を亡くしているってことは、結構痛々しい、ものを見ることになる。
　俺はいいが、女の子であるティナにはあんまり見せたくないからな。

「じゃあ、案内を頼む」
「分かりました。どうぞこちらへ」

　俺は奴隷商の案内に続き、部屋に入る。そこには数は少ないもの、先ほどと同じ檻があった。
　中には、片腕がないもの、足がないもの、目を失くしたもの、様々なものがいた。少し男が多いくらいだ。大部分の欠損などは男の方が多いみたいだ。
　俺はその中で、一人、気になったものがいた。俺も気になったが、その子に対してエルがこんなことを言うのだ。

《魔族の反応を確認。解析します》と

　その子はティナよりも小さく、だいたいムラクモと同じくらいの身長の女の子だった。髪の色は茶髪で再度テールだ。見た感じ、大きな欠損も怪我も見られない。だが、とても辛そうだ。

「奴隷商、あの子はなんだ？」
「はい、あの子は原因不明の病にかかっており、今はこちらで扱っております。人種・・の女の子で、歳は１３。スキルの詳細はお聞きになりますか?」
「いや、いい」

　俺はそっと檻に近づき、鑑定を発動させる。だがやはり発動せず、左目に激痛が走る。いつもより魔力を込めたせいか、痛みが大きくなって跳ね返ってくる。
　俺が膝をつき左目を抑え苦しむと、女の子は自分が苦しいはずなのに、俺の心配をしようとする。
　俺はその行動を見て決めた。この子を買うことを。

(エル。この子の解析結果は?）
《はい、この女の子は魔族だと断定。種族は吸血鬼と見て間違いないでしょう。この辛そうな症状は血液不足によるものです。今は隠蔽の能力と変化の能力を同時使用して、人種に見せかけているようです》

　なるほど、とりあえずスキルを二個同時使用してもエルさんの解析には敵わないと、たぶん俺の鑑定だと、隠蔽に引っかかってだろうな。まぁ、読解も併用して使えばたぶん、見えるとは思うが。
　そして、俺は決意を口にいた

「奴隷商、俺はこの子を買うことに決めた」

　俺の言葉に奴隷商が口を開け驚き、女の子は「なぜ？」みたいな顔をしていた。

「あのこちらは、原因不明の……」
「構わない、これで足りるか？」

　そういって懐から金貨を一枚取り出し奴隷商へ渡す。

「ん！？　こちらの商品ですと、大銀貨１.２枚でお買い求め可能ですが?」

　渡した金額に驚き、確認してくる。まぁ、俺は奴隷の定価とか知らないけど。

「そうなのか、じゃあお釣りはいいから、この子が元々来ていた服と一部屋貸してくれ。契約は紋章で、それとその部屋にさっきの連れも入れて、契約完了後は１時間でいい。誰も中に近づけないようにしてくれ。それでも代金が多いなら、これからもご贔屓に頼むよ」
「わ、わかりました。すぐに手配いたします」

　俺の急な注文に、驚きながらもすぐに対応する。流石プロだ。
　俺は奴隷商が離れたのを確認してから、また檻に近づき、女の子へと話しかけた。

「これから君の主人になる、ユウ・ツキカゲだ。よろしく、吸血種のフロン・フィールちゃん？」
「！？」

　俺の言ったことに戸惑いあわあわしているのがとても可愛い。
　奴隷商が戻ってきて檻の鍵を外す。奴隷商は役員に運ばせようとするが、俺はそれを無視して女の子に近づくと、お姫様抱っこした。
　抵抗力の低い、女の子はされるがままだ。

　俺はそのまま、奴隷商の案内に従い、用意してもらった部屋へと向かった。