BLOOD HERO'S

ノベルバユーザー177222

episode5 #8「九ノ重 神楽」

 「ようこそおいで下さいました!!」

 入り口の前に立っていた女性はそう言いながら姿勢をただし綺麗な弧を描くように頭を下げた。その一連の動作は見ていて気分がいいくらいスムーズだった。

 「おお、神楽さん。こんにちは」

 「あら多原さん。こんにちは」

 多原と神楽と呼ばれている女性はお互いに挨拶を交わし始めた。

 「お客人連れて来ましたよ」

 「あら。すいません。わざわざそんなことまでしていただいて…」

 「いやいいんですよ!元々私が呼んだんですから」

 「あらそう?」

 神楽は頬杖をつきながら多原の言葉を呑み込んだ。そしてまた姿勢をただし炎美の方に視線を移した。

 「申し遅れました。私、このホテルもとい旅館の女将兼経営を勤めております九ノ重 ここのえ 神楽かぐらと申します。この度は遠いところからのご足労いただき心から感謝申し上げます」

 「は、はあ…」

 神楽は自己紹介をしながら再び頭を下げた。それに対して炎美は少し困惑したものの小さくお辞儀をし返した。

 「今日は長時間の移動でお疲れでしょう。お部屋でお休みになられたいでしょうからすぐにご案内しますね」

 「あ、すいません。ちょっと待ってください!」

 「??」

 神楽は炎美に気をかけてすぐに部屋の案内をしようとしたが炎美は1度引き止め多原の方に視線を向けた。

 「多原さん。もしよければですけど、今から例の場所に連れて行ってもらうことって出来ませんかね?」

 「え?」

 炎美からの思わぬ発言に多原は間の抜けた声を出してしまった。

 「え、ええ。それは構いませんが今からだと奴がいるかどうか…」

 六英から出発してここに辿り着くまで約2時間半かかっている。更に言うとここから目的地までは約2時間はかかってしまう。奴が現れる時間帯も不定期な為、旅疲れの炎美にはかなり酷になってしまうかもしれないと多原は思った。

 「いいですよ。現地の調査だけでも出来ればいいです」

 しかし炎美は電車の中で仮眠をとっていたからか疲れ等全く感じていなかった。むしろ何かしたくて体がうずうずしていた。

 その様子を見て多原は少し考えてから口を開いた。

 「分かりました。では1度部屋に荷物を置いてきてください。私は先に車を持ってきますんで」

 そう言って多原はホテルを出て自分の車の方に歩いて行った。

 「すいません。来て早々騒がしくてしてしまって」

 「いえいえ。じゃあお部屋に案内しますね」

 炎美は神楽に謝罪の一言を述べるが神楽は気にしていないかのように振舞ってくれた。そして炎美は部屋に荷物を置き多原の元へ向かって行ったのだった。

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