覇王の息子 異世界を馳せる
曹昂と典韋
「……兄上」
曹丕は横たわる曹昂を見る。
しかし、すぐに関羽が―――
「心情は察しますが、先へ。皆が待っています」
曹丕は、「うむ、わかっている」を返し、駆けだした。
最後に一度だけ振り返り、曹昂を見ただけだった。
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たったったっ……
2人の足音が遠さかって行く。
それを待っていたかのように、ぬっ、と巨大な影が姿を現す。
その人物は典韋だった。
「迎えにまいりました、ご子息」と曹昂の横に座る。
「……ご子息?まさか、本当に死去されたわけではありませんよな?」
そのまま、コッンと曹昂の額を叩くと―――
むくりと曹昂が起き上がった。
「うむ、流石に一度、死ぬと死体の真似も向上するか」
「……ご子息」と典韋は、呆れたようなため息交じりに声を出した。
「さて、ご子息。これからどうなされるつもりで」
「うむ……取りあえず、曹丕を元の世界に返してやろうと思っている」
「それは……可能で?」
「可能であろう。いくら神を名乗る者が尋常ではない魔力を保持していたとしても、《渡人》を呼び寄せる方法を1人で成し得ているわけではあるまい」
「つまり、神が召喚しているわけではない……と?」
「その仕掛けを作ったのは神だろうが、それは神から独立して行われていると私は思っている」
「……」と典韋が黙り込んだ。
「どうした?典韋?」
「いえ、最初から帰還する算段があるのであれば、なぜご自身で使われないのでしか?」
「……」と今度は曹昂が黙った。
暫く、考えた後に―――
「どうも、私は曹丕のように曹操の跡継ぎには向かないようだ」
その答えを典韋は笑い飛ばした。
「御冗談を、貴方は誰よりも曹孟徳に近い方ですよ」
「だからかもしれない。私はどこまで行っても父上であろうとしている。だが、どうも曹丕は違うらしい」
曹昂は一度、言葉を切り―――
そして、こう続けた。
「父上亡き後に相応しいのは、曹操ではなく、曹操の息子であろうとする者……という事なのだろう」
そのまま2人は歩き始めた。
それは曹丕達とは逆の方向だった。
・・・
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・・・・・・・・・
一方、曹丕と関羽の両名は長い廊下は駆け続けていた。
敵襲もない。先に行った直家たちが片づけたのか、それとも残存勢力が残っていなかったのか。
やがて―――
扉が見えてきた。明らかに異色な扉。
その向こう側には……いる。
常軌を逸脱した何者かが……
曹丕は、一瞬の躊躇の後―――
その扉を開いた。
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