覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

内乱の誘導

 ―――数日後―――

 魔王軍 およそ1万5000人。
 対して神の先兵 その数2000人。

 実に7倍の戦力であった。―――もちろん数字ではの話だ。
 神から襲撃を受けた直後、数日で軍をまとめ上げて、電撃戦をもって拠点を潰してまわり、エルドレラを包囲した魔王ルーデルの手腕。
 だが、その進撃もエルドレラを前に停止した。
 神の先兵 2000人。 ただの2000人ではない。
 全員が《渡人》であり、全員が一騎当千であり、全員が固有の魔法を有す人間兵器であり、
 何よりも、魔王軍との最大の違いは、統率が取れた軍隊である所だ。
 初めから対渡人戦闘を想定され作られた軍隊。 それは、それ自体が意思のある生物のような連携で、数で圧倒する魔王軍を押しとどめている。

 「魔王、ご指示を」

 魔王軍の側近がルーデルに支持を求めた。
 しかし、ルーデルは一言、「待て」とだけ伝えた。

 「ま、魔王、それは一体?」
 「じきに内部の協力者が動き始める」
 「……まさか、初めから内部に味方を?」

 ルーデルは頷き「見ろ」と指をさす。
 その先には、エルドレラ……いや、その内部から黒煙が登っている。

 「おぉ流石です、魔王。では、この期に?」
 「うむ、攻めよ」

 ルーデルの言葉は『魔王』軍の全員に伝わり、士気の上がった軍勢が攻撃を開始する。
 自軍の猛攻を見ながら、ルーデルはつぶやいた。

 「いかに神とて、この内乱すら誘導とは気が付かまい」


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 曹丕たちは建物内部と走っていた。
 永延と続いて見える長い廊下。
 この建物こそ、曹丕と関羽がエルドレラに最初つ到着して訪れた場所である『役所』であった。
 エルドレラの役所。その地下に神はいるらしい……
 総兵衛が持ってきた情報だけに疑わしいと思っていたが、神の使途を名乗る敵が襲い掛かって来た。
 おそらく、総兵衛情報は事実なのだろう。そして、15番目が現れた。

 「久しぶりですね。わが名はユダ。15番目の……ってちょっと……うわあああああああぁ!」

 曹丕たちの中で1人、西行法師が加速する。そのまま……
 自己紹介もそこそこにユダは切りすてられた。

 「峰打ち……ではないが、拙僧は命まで取らぬ。最も妖刀ゆえ、生きるか死ぬかはソナタ次第よ」

 それだけ言い残すと走り抜けていった。
 無論、曹丕たちも後に続く。こうやって来た。こうして、役所の廊下は走りながら、行く手を防ぐ者がいれば、足を緩める事もなく邪魔者を排除してきた。
 そのはずだったが……
 今、曹丕たち一行は足を止めた。
 行く手を防ぐは黒い影が2人。

 直家とルーデルを手玉に取った《渡人》。神の先兵を名乗った2人。
 星と天威だった。

 威嚇するような唸り声をあげる天威。
 「ウォーウォー」と発する声が変わった。意味のある単語に変化していった。
 その変化は曹丕を見た瞬間に、如実に始まった。

 「ウォーウォー……うおううおう……そうそう……曹操?」

  

「歴史」の人気作品

コメント

コメントを書く