覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

乱入者 神の先兵

 ルーデルと直家。
 両者共に間合いに入ると同時に剣を振るう。
 しかし、互いの剣がぶつかる頃には剣速を緩め、ゆっくりと重なり合った刃から「コッン」と高い音が流れた。
 なぜか?なぜ、互いに腕の振りを緩めたのか?
 既にルーデルと直家は互いを見ていない。
 顔を上に向け、天井―――いや、その奥、遥か遠いを見ていた。
 自身に向けられる刃よりも危険な物体が迫っている事を見抜いたかのように……

 そして―――

 破壊音

 人々が隕石だと認識するような落下物による破壊。
 しかし、その直撃を受けたはずの王の間にいた4人が無傷だったのは偶然ではなく、まぎれもない攻撃の予感を事前に感じていたからだ。

 「やれやれ、コイツは一体、なんだ?」と直家。
 目の前には黒い物体。これが落下物だ。目の前にあっても正体はわからない。
 直家は「マキビ」と自身の軍師に落下物の分析を任せた。
 マキビは落下物へ一歩二歩と近づくと―――
 すぐに離れた。
 「どうした?マキビ?」と直家の声にマキビは―――

 「……これは、人間です」

 そこにいた全員がマキビの言葉がすぐ理解できなかった。
 しかし、全員が《渡人》である。 
 理解はできなくても―――全員が臨戦態勢を取る。

 それに反応したのか?黒い物体が動き出した。

 マキビの言う通り、それは人間だった。
 普通の人間ではない。巨大な人間だ。
 黒く見えたのは、全身に巻かれた包帯。まるでミイラ男。それも黒いミイラ男だ。
 しかし、ただの包帯ではないのは落下の衝撃に耐えた事から明らかだ。
 おそらくは、包帯自体が優秀な防具になっているのだろう。

 「何者か、名乗らないのか?」とルーデル。
 しかし、包帯男の口から出てくるのは「オッーオッー」と洞窟から流れる空気の音みたいな声だった。
 黒いミイラ男は、まず間違いなく敵である。しかし、その理由も、目的も、何者かすらわからない。
 このまま、問答無用で切り倒してもいいだろうか?そんな疑問を全員が持っていた。
 その疑問が隙を生んだ。

 「これは失礼しました。我々に名前はありません。強いて言うならば『神の先兵』でしょうか?」

 黒いミイラ男の方から声がした。しかし、それは黒いミイラ男の言葉ではなかった。
 その影に隠れて、もう1人いたのだ。
 彼もまた、包帯で顔を隠しているミイラ男だった。
 直家は、その姿をみて後悔した。
 黒いミイラ男の異形に目を奪われ、油断していた……と。

 直家の目には、巨大な黒いミイラ男よりも、こちらの小さなミイラ男の方が脅威だと映ったのだ。
 

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