覇王の息子 異世界を馳せる
VSミノタウロス ⑦
この戦いの全てに偶然はなかった。
全てが計算されていた――――否。計算し尽されていたと言うべきだ。
関羽とミノタウロスの激突。それが始まるよりも前に曹丕は、この場所にいた。
この時点で作戦は終了していた。
きっと、関羽はやり遂げる。曹丕は、そう考えていた。
自身が命じた通りに、敵であるミノタウロスをここへ誘導するだろう。
そして、壁を突き破らせ、潜んでいる曹丕の目前へと連れてくるのだと。
それをやり遂げるであろう関羽に答えなければならない。
曹丕は、想像する。自分は一つの木であると。
曹丕は、想像する。自分の足は木の根元であると。
曹丕は、想像する。自分の根は地下から水分を吸収するための物だと。
曹丕は、想像する。本来なら吸い上げるべき水分。それは一滴だけ落としてみようと。
そして、曹丕は実行する。 体から生み出した魔力を地面に落とす。
それは小さな、小さな水滴。地面に落ちると同時に四方へ広がっていく。
広がって、広がって、広がって、地面に模様を刻み込んでいく。
そして、出来上がって物は魔法陣。
この中に侵入した者を拘束するための魔法が仕込まれている。
しかし、これでは足りない。
あの巨体を、あの膂力を、あの野生を封じ込めるには、ただの魔法陣では通じない。
もう一度、曹丕は魔力を地面に落とす。
先ほどと同じように、水滴は地面に弾かれて広がり、魔法陣を描く線へと変化していく。
さらにもう一度。同じ事を繰り返す。
既に壁を隔てた向う側から激しい破壊音と振動が伝わってくる。
戦いが始まっているのだ。しかし、曹丕はそれを歯牙にもかけない。
何度も何度も同じ動作を繰り返し行っていく。
同じ魔法陣を何重にも同時に展開していく。
精神が削れていく。魂が削ぎ落されていく。内なる生命力が吸い取られていく。
ただ重ねて、効果を増殖させるだけではない。
魔法陣が存在する空間を一つ一つずらし、全ての魔法陣を一つの場所に同時に存在させる。
全ては、このためだけに……
地面が揺れる。それが合図だ。
曹丕の目前の壁が割れる。中から飛び出してきた巨体が宙を舞う。
その瞬間、曹丕は自身の魔力の全てを解放させた。
魔法陣の中から現れたのは複数の手錠と足枷。それぞれに黄金に輝く鎖がついている。
まるで、それらは生き物のように動き、ミノタウロスの体に飛びついていった。
そして、その体を捕縛。しかし、それだけでは終わらない。
うつ伏せに倒れたまま、抑え込まれたミノタウロス。その上部に異変が起きる。
それは圧力―――いや、何かが存在している。
それは常人には見る事すら叶わぬ不可視の岩。
術者である曹丕ですら、透明度の高い岩としか認識できない。
それがミノタウロスの背中へ落下した。
命を奪う魔法ではなく、動きを止めるための魔法ではあるが……
それを受けて、動きを止められるだけで済むのか?あるいは死ぬのか?
それは受ける側の生命力次第だ。
だが、ミノタウロスは生きていた。それだけではない。
曹丕が使える捕縛系魔法を同時に複数回、効果を重複させたにも関わらず、ミノタウロスは体を起こしていく。
その姿は、まるで――――
長い間、捕縛され続けた者が抗う姿であった。
過去、ミノタウロスが…… アステリオスが……
どのような人物で、どのような人生を送った人物なのか、曹丕は知らない。
――――ただ、何かに抗う人生だったのはわかった。
そして、今……
それから解放させる時なのだと!
「後は頼みます、西行法師!」
曹丕の叫ぶと同調して、影が駆ける。
「無論」と影は言う。
黒い影。正体は、無論、言わずと知れた西行法師であった。
彼は、そのまま飛び上がる。捕縛され抗い続けるミノタウロスに向かって跳躍したのだ。
「成仏せいや!」
その怒鳴ると、彼は右手を―――
右の拳をミノタウロスの顔面に叩き込んだ。
全てが計算されていた――――否。計算し尽されていたと言うべきだ。
関羽とミノタウロスの激突。それが始まるよりも前に曹丕は、この場所にいた。
この時点で作戦は終了していた。
きっと、関羽はやり遂げる。曹丕は、そう考えていた。
自身が命じた通りに、敵であるミノタウロスをここへ誘導するだろう。
そして、壁を突き破らせ、潜んでいる曹丕の目前へと連れてくるのだと。
それをやり遂げるであろう関羽に答えなければならない。
曹丕は、想像する。自分は一つの木であると。
曹丕は、想像する。自分の足は木の根元であると。
曹丕は、想像する。自分の根は地下から水分を吸収するための物だと。
曹丕は、想像する。本来なら吸い上げるべき水分。それは一滴だけ落としてみようと。
そして、曹丕は実行する。 体から生み出した魔力を地面に落とす。
それは小さな、小さな水滴。地面に落ちると同時に四方へ広がっていく。
広がって、広がって、広がって、地面に模様を刻み込んでいく。
そして、出来上がって物は魔法陣。
この中に侵入した者を拘束するための魔法が仕込まれている。
しかし、これでは足りない。
あの巨体を、あの膂力を、あの野生を封じ込めるには、ただの魔法陣では通じない。
もう一度、曹丕は魔力を地面に落とす。
先ほどと同じように、水滴は地面に弾かれて広がり、魔法陣を描く線へと変化していく。
さらにもう一度。同じ事を繰り返す。
既に壁を隔てた向う側から激しい破壊音と振動が伝わってくる。
戦いが始まっているのだ。しかし、曹丕はそれを歯牙にもかけない。
何度も何度も同じ動作を繰り返し行っていく。
同じ魔法陣を何重にも同時に展開していく。
精神が削れていく。魂が削ぎ落されていく。内なる生命力が吸い取られていく。
ただ重ねて、効果を増殖させるだけではない。
魔法陣が存在する空間を一つ一つずらし、全ての魔法陣を一つの場所に同時に存在させる。
全ては、このためだけに……
地面が揺れる。それが合図だ。
曹丕の目前の壁が割れる。中から飛び出してきた巨体が宙を舞う。
その瞬間、曹丕は自身の魔力の全てを解放させた。
魔法陣の中から現れたのは複数の手錠と足枷。それぞれに黄金に輝く鎖がついている。
まるで、それらは生き物のように動き、ミノタウロスの体に飛びついていった。
そして、その体を捕縛。しかし、それだけでは終わらない。
うつ伏せに倒れたまま、抑え込まれたミノタウロス。その上部に異変が起きる。
それは圧力―――いや、何かが存在している。
それは常人には見る事すら叶わぬ不可視の岩。
術者である曹丕ですら、透明度の高い岩としか認識できない。
それがミノタウロスの背中へ落下した。
命を奪う魔法ではなく、動きを止めるための魔法ではあるが……
それを受けて、動きを止められるだけで済むのか?あるいは死ぬのか?
それは受ける側の生命力次第だ。
だが、ミノタウロスは生きていた。それだけではない。
曹丕が使える捕縛系魔法を同時に複数回、効果を重複させたにも関わらず、ミノタウロスは体を起こしていく。
その姿は、まるで――――
長い間、捕縛され続けた者が抗う姿であった。
過去、ミノタウロスが…… アステリオスが……
どのような人物で、どのような人生を送った人物なのか、曹丕は知らない。
――――ただ、何かに抗う人生だったのはわかった。
そして、今……
それから解放させる時なのだと!
「後は頼みます、西行法師!」
曹丕の叫ぶと同調して、影が駆ける。
「無論」と影は言う。
黒い影。正体は、無論、言わずと知れた西行法師であった。
彼は、そのまま飛び上がる。捕縛され抗い続けるミノタウロスに向かって跳躍したのだ。
「成仏せいや!」
その怒鳴ると、彼は右手を―――
右の拳をミノタウロスの顔面に叩き込んだ。
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