覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

宇喜多直家が見る夢②

 島村家の領土は、宇喜多家の隣になる。
 短時間で攻め込むのは難しくない。
 まして、昨日まで味方だった勢力だ。
 こちら側に気づかれず、奇襲をかけるのは簡単だろう
 いや、違う---
 この戦、最大の問題点は、我らが主君である浦上が宇喜多家の滅亡を望んでいるという点にある。
 例え、島村盛実の猛撃を防いだ所でなんの意味がある?
 仕えるべき主君が敵となったのだ。
 すなわち宇喜多は孤立無援の状態。
 もうすでに・・・・・・宇喜多家は詰んでいる。

 「しかし、なぜ?宇喜多は浦上の重臣。なぜ、宇喜多を滅せようとするのですか!」
 「すまぬな八郎」という祖父の声に俺は顔を上げる。
 「当代君主、浦上宗景さまの信頼を失ったのは、偏にわしの責任よ。
 だから、八郎。お主は父と共に逃げよ」
 「いやでございます。私も侍の子。死ぬならば、戦って―――」
 「馬鹿者がッッッ!」
 それは祖父の強烈な叱咤であった。
 「家を守らずして、何が侍の子か?大事は家の存続なり。
 宇喜多の血筋、絶えねば再び芽が萌えよう。そのためのお主と興家よ」
 「---ッッッ!?」
 それ以上、俺が祖父に言えることは何もなかった。

 『宇喜多の再興を目指し、生きながらえよ』

 そう言われ、なんと返す言葉があるというのか?
 「さぁて、すでに尖兵として伏ませた兵が近づいておるようじゃ」
 祖父が言葉を発すると同時に慌しく足音が聞こえてくる。
 それも複数。おそらく、味方・・・・・・ではない。
 仮に味方が敵の襲撃を知らせに来るならば、複数でくるはずはない。
 一人で十分である。
 予想通り、ふすまを蹴破り、数人の戦兵がなだれ込んできた。
 その勢いのまま、次々に大量の刃が狭い室内で乱舞する。
 だが---
 一瞬後にできたのは、血の池。
 闇夜の月に反射した漆黒の液体が室内に出現する。
 しかし、それら全ては敵兵のものであった。

 「京にまで轟かせたわが名、宇喜多能家。安々と雑兵ごときが取れると思うなよ」

 全て、祖父の白刃によるものだとわかったのは、祖父が刀を鞘へ戻した後だった。
 刀を抜く刹那のみ見せた鬼神の如く表情は潜み、祖父が優しく諭す。
 「ここは祖父が引き受ける。なぁに、島村の首を取ったら、すぐに追いついてみせるさ」
 祖父は俺を安心させるために言ったのではない。
 おそらく---
 少なくと祖父本人は本気であったのだろう。

 そして、父と城を脱出し、逃げ出して
 逃げ出し、逃げ出し
 振り返ってもなお、轟々と燃え盛る城が幻影が消える事はなかった。


 これが宇喜多直家の原風景。
 のちに裏切り、暗殺、だまし討ちなど、権謀術数を得意とし、梟雄と呼ばれた男の古い記憶。
 だから、こそ……
 だから、こそ、宇喜多直家は宇喜多直家として生きていくしか道は、なかったのだ。
 

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