覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

曹丕、対話を挑まれる

 村より、少し離れた小高い丘。
 男は1人で村の様子を眺めていた。
 やがて―――
 「全員無事か?」と口を開いた。
 誰もいないはずの暗闇の中。返事が返ってきた。
 その数は9人。その正体は村を襲った襲撃者達である。
 彼らは生きていた。
 胴を薙ぎ切られ、貫かれ、四肢を捻じられ―――
 なおも彼らは生存し、生還してきたのだ。
 そんな彼らに男は声をかける。どうやら、男の立場は司令官のようなものらしい。
 「よく帰還した、我が精鋭たちよ。
 まずは労いの言葉をかけ、任務達成の喜びを分かち合いたいのは山々ではあるが
 その前に、もう一仕事、片付けねばなぬようだ」

 一同が視線を一か所に向ける。
 それは覆い茂る林の中。暗闇で視覚が効かない場所。
 そこから何かが飛び出してくる。片手には抜き身の剣。
 その人物は意外にも曹丕だった。
 曹丕は一瞬で間合いを詰め、剣で司令官の首筋を抑える。
 それを他の者に見せつける。一瞬で司令官を人質として捕縛する事に成功したのだ。
 成功した―――はずなのだが、周囲に立っている襲撃者たちに動揺は感じられない。
 それは彼らだけではなく、人質になっているはずの司令官自身のそうであった。
 それどころか、彼は自ら人質になった節すら感じられる。
 なぜなら―――
 「なぜ避けなかった?貴方の力量ならば、避けるなど容易なはず」と曹丕。 
 それに対して
 「殺気がなかったもので、つい・・・・・・。後は、貴方と対話をする必要性を感じていたから、ですかね?」
 司令官の男の言葉に曹丕は「対話だと?」と訝しげな声をだした。
 「そうです。対話です。見たところ、お付きの人間がいないようですが、なにゆえ単身でこられたのですかな?」
 男の状態は不利―――どころではない。
 いつでも曹丕の意志で首を刎ねられるという絶対絶命の状態。
 『なにゆえ単身でこられたのですかな?』
 この質問の意味を、普通に考えるならば、この不利な状況を、少しでも改善するためのもの。
 こちらの気を逸らす。あるいは、こちらの状況を探るための質問。
 通常ならば、そう考えるが―――しかし、そうではあるまい。
 この男、曹丕が闇に潜んでいる事を、この場の誰よりも早く看破していた。
 おそらく、この男が言っている事は本心。
 自らを危うい状態に身を晒し、こちらとの対話を望んでいる。
 (ならば、本当に、その首を刎ねてやろうか?)
 そう考える曹丕も入れば、
 (そちらの要望通りに対話とらやに乗ってみるか?)
 そう考える曹丕も同時にいた。

 さて――― 

  
 

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