覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

曹丕、夜這い強行

 曹丕が部屋に入った瞬間、何かが顔を叩いた。
 人間ではない。その正体は―――
 音。
 部屋の中心から発せられる音。
 空気を伝わった謎の音が、衝撃に転じ、曹丕の顔を叩いたのだ。
 一体、これは何なのか? 一瞬の混乱の後、曹丕は即座に攻撃の正体を見破った。

 「シン殿、シン殿。起きてください」
 曹丕に揺さぶられ、布団の中に潜っていたシンは目を覚ます。
 信じられない事に彼女は、今宵、起こった大立ち回りに気がつく事もなく、今の今まで安眠状態だったのだ。
 目を擦りながら、上半身を起こす。
 まだ、頭は睡眠状態なのだろう。
 とても、状況がわかっているようには見えない。
 「ふぉえ?曹丕さん・・・・・・おはようございます。あれ?どうしてここにいるんでかぇ?」
 「いえ、実は、貴方に夜這いを仕掛けようと来てみたのはいいのですが、少し困った事がありまして・・・・・・」
 「よ・ば・い? よばいってなんですか?あ~ それより困った事があるのですか?なんですかね?」
 「実は、言い難い話なのですが、部屋に入った時に貴方のイビキの音が大きくて興が削がれたと言いますか、興醒めしてしまったと言いますが・・・・・・・」
 「ふぇ?イビキ?イビキ?」
 幾度か、言葉を反復させた後、彼女は体が固まったみたいに動かなくなった。
 そして、顔が真っ赤に染まり
 「~~~~~~~!?!?~~~っっっ!」
 声にならない大声が、部屋に響いた。
 「なっなんで、なんで曹丕さん、私の部屋に!なんで?なんでぇええぇ!?」
 大声を叫び続けながら、彼女は曹丕の視線から逃げるように布団に包まり始めた。
 彼女の恰好は寝間着。薄い絹のような素材の服を身にまとっている。
 薄いため、よくよく見れば、下着が透けて見えてしまう。
 そんな官能的な身なりをしていたのだ。男性に見られたくない恰好と言ってもいい。

 「シン殿、どうか気を確かに、落ち着いてください」
 「お、おち、落ち着けれますか!なんで部屋にいるんですか!?」
 「そうですね。すでに申した通りなのですが・・・・・・」
 曹丕は最後まで言葉を出さず、シンが包まり、隠れている布団を勢いよく剥ぎ取った。
 「~~~~!!い、い、いやあぁ~~!?」
 「私は夜這いに来たのですよ」

 シンは転がるように逃げる。しかし、気がつけば壁際。すぐに逃げ場はなくなった。
 それでも立ち上がり、逃げようとするシン。だが、曹丕は彼女の両手を掴む。
 そのまま、壁にドンと押し付けた。
 まだ逃げようとするシンの動きを封じるため、彼女の股に自分の足を押し当てる。
 シンは反射的に悲鳴を上げようと口を開いた。
 だが、その瞬間、狙い定めていたかの如く、曹丕の唇が彼女の口を塞いだ。
 口づけ、接吻、キス。
 なぜ人間は、自らの愛情表現として口を合わせるのだろうか?
 その答えは、これから明らかになる。

 曹丕の唇がシンの下唇を軽く咥える。
 こうする事で、わずかに広がったシンの唇。
 その僅かな隙間に曹丕は舌を進軍させる。
 まずは、硬く閉じられた前歯への攻撃を開始する。
 下から上へ、舌を動かし、歯茎へ刺激を与える事も忘れない。
 やがて、曹丕の狙いは奥歯へ。まるで自分の舌でシンの歯を磨くように、優しく、丁寧に・・・・・・
 「ん~~~!ん、んあ!」
 口を塞がれても曹丕の妙技によって、シンの口から嬌声が漏れてきた。
 もう抵抗する様子はない。いや、できないと言ったほうが正しいのかもしれない。
 それを確認してから、曹丕は唇を外す。シンの顔を見るためだ。
 シンの顔は朱に染まっている。長い間、口を貪られ、息ができなかったためか、呼吸は乱れ、目はとろんと視線が定まらないようにみえる。
 普段と口調や態度が違うのは、自身の使命。
 《渡人》の案内役という立場が、今、この瞬間のみ、解き放たれたためか?
 普段とは違うありのままの彼女。これこそが、本来の彼女。
 それを曹丕は、愛らしく感じられた。

 曹丕はシンの両肩に手をやる。
 そして、そのまま背中を向けさせる。

 「ひゃぁん!ら、らめえぇぇ!?」

 シンは声を出した。
 背中から抱きついてきた曹丕が軽く、耳を噛んだからだ。
 シンの嬌声は止まらない。
 曹丕の片手がシンのお腹を擦る。いろんな角度から強弱をつけて、白いお腹を玩んでいく。
 やがて、シンも慣れが生じてきたのか、口から漏れる声が小さくなっていく。
 しかし、すべては、この瞬間を狙って事。
 曹丕の指は、シンのおへそを強く刺激した。

 「~~~~~!?!? ~~~~~!!!!」

 ついに言葉にならない叫びが乙女の咆哮が解き放たれた。
 と同時に全身から力が抜き取られ、重力に従うようにシンは、その場に座り込んだ。
 一方の曹丕はと言うと、表情に一切の変化はなく、いつも通りに涼しい顔を崩すことはなかった。
 そして、涼しげな表情のまま、彼は言う。

 「さぁシン殿。どうか、私の求愛をお受けください」

  曹丕の求愛に対して、シンの答えは―――

 部屋に高い音が響く。
 曹丕は自分の頬に熱が広がっていく。
 シンに平手打ちされたという事実を、
 自分の求愛に対して、シンの答えが平手打ちだったという事実を、
 頭で理解するには、暫しの時間が必要なようだ。

 

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