覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

VSドラゴン ②

 ドラゴンのアギトから噴出される真紅。ありとあらゆる物体を灰燼に帰す業火。
 回避する術はない。
 しかし、関羽には分かっていた。自身を襲うであろう業火を予想していた。
 事前情報もなく―—— 
 初見の攻撃であるにもかかわらず―——
 幾度かの死線を掻い潜り、身についた直観。
 その直観を持って関羽はドラゴンの攻撃を先読みしてた。

 (……回避できぬ。しからば!)

 関羽は青龍偃月刀を振るう。
 先は、天空をも突き刺さんと真っ直ぐに伸ばされる。
 それを虚空。無の空間に向け、振り落した。
 その直後、ドラゴンの業火が通り抜ける。―――——いや、通り抜けれなかった。
 まるで不可視で、不可侵の物体が置かれているかのように、業火は関羽を避けるように二つに分かれ、直進していった。
 関羽の一振りは炎すら切り裂いたのだ。



 関羽のドラゴンとの戦い。
 それを見ている者が1人。それは曹丕だ。
 彼は、両者の戦いを見ているだけではない。
 関羽の健脚……いや、剛脚を持ってドラゴンとの間合いを戦いの間合いまで詰めたのだが……
 その距離は、戦い開始直後から曹丕が全力疾走で向かっても、まだ時間がかかる距離だ。
 だから、両者の攻防を俯瞰状態で見る事ができた。
 関羽は武人であり達人。だが、それを差し引いたとしても、その技は異常すら感じられた。
 全てを焼き尽かんと放射された火炎。
 それに対処した関羽の動きは、直観と言うには、あまりにも予知能力じみている。
 さらには向かい来る火炎を切断させてみせる技……
 思わず、足を止め呟く。

 「これは、本当に人間技なのか?」

 曹丕の脳裏に浮かんだのは、半年前に役所で出会ったユダという男の言葉。

 「魔法の発展……これが外部へ求める魔法的効果……という事なのでしょうか?」

 誰に聞かせるわけでもなく、口から漏れ出る曹丕の呟き。
 だが、その呟きは、次の瞬間に絶叫に変わっていた。
 なぜなら、曹丕は見たのだ。見てしまったのだ。
 関羽がドラゴンの食べられるのを……

 「うおっおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 曹丕の絶叫が草原に広がる。



 関羽は、高揚していた。
 自分の技が冴えわたる感覚。武の高みへと登り上がっている事を実感する。
 しかし―———
 そんな関羽にも読み間違う事は有った。
 例え予知能力じみた直観を持っていても、読めない事が有る。
 自身に放たれた火炎の業火を一刀両断。その直後である。
 突如として現れた黒い壁。それが上下から自分を捕まえよう迫ってきていた。
 関羽とて、その壁の正体を見破るのに刹那の時間が必要であり、また刹那の時間すら命取りであった。
 関羽に放たれた業火。それすら、この攻撃への伏線であり、突き詰めて言えば、この攻撃を隠すための目隠しに過ぎなかった。
 その黒い壁は、上下に開かれたドラゴンの口。
 関羽の飲み込むために迫るそれ。
 回避する事も、追撃する事も叶わず、関羽はドラゴンの口内へと飲み込まれてしまった。

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