覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

 続く話

 「今の話ですが、現在の状況とどう繋がるのですか?」

  曹丕の問いかけに西行法師は「うむ」とだけ呟き、次の言葉が続かなかった。
 どうやら、あまり繋がりはないらしい。
 「兎にも角にも、拙僧は魔物モンスターの生態を調べる事にした。そうして、ここダンジョンにたどり着いた。ただ、それだけの話よ」
 曹丕は、それだけの言葉では納得できるはずもなく―――
 「それだけの話……ですか?」と聞く。
 「なにやら、不満そうですね。しかし、それが事実であり、真実なのだが……」
 それ以上、西行法師は言う言葉を持たない。そういった態度だった。
 「では、あのゾンビという魔物モンスターは?ミノタウロスは、なぜ、彼は理性をなくしたかのように暴れ狂っているのですか?」
 「おぉ、なるほど。それか、それが知りたかったのか。合点がいったぞ」
 「……」
 何かおかしい、話が噛み合っているようで噛み合っていない。
 まるで、本物の―――

 「さて、まずはダンジョンに彷徨っているゾンビだが、拙僧がこしらえた物だ」
 西行法師は、今更ながら、当然といったように、飄々と認めた。

 「ゾンビとは、こちら側の世界の概念に当てはめた呼び名であって、正式な名前とは違いますが」
 「魔物モンスターの生態調査に相応しい場所として選んだのが、ここダンジョン」
 「ここで言うゾンビを操っていたのは、調査に便利だから」
 「噛付けば、生きてるモノを同じゾンビに変え、倍々と増えていく。増えたら、どういった固体がいるか、どういった特徴があるか、調べるのは実に容易いからな
 しかし――――――

 ――――――まさか、人様に迷惑がかかっていたとは……愉快じゃ」

 「「はぁ?」」

 曹丕と関羽は、そろって声を上げた。
 西行法師の目的はわかった。それは個人の願望

―――いや、狂人の願望と言った方が正しいかもしれないが――― 

 個人の願望によって、ダンジョンに住む魔物モンスターをゾンビという異なる存在に変化させてしまった。そして、ダンジョンの生態系を破壊してしまった―――否。破壊し尽くそうとしている最中である。
 それが意図しないこと―――故意で起こした事故的な現象ならわかる。
 しかし、西行法師は、それを理解し反省するのではなく、逆に愉快だと表現した。
 それは――― 到底、許せることではなく――――

 ミシッ

 何かが軋む音。おろらく、それが聞こえたのは曹丕と音を鳴らした本人だけ。
 そして、その音を鳴らしたのは関羽だった。
 彼の武器である青龍偃月刀。それを握る力が、一定量を越えて軋みの音を上げたのだ。
 見れば、関羽の脇が開いている。ほんの、ごく僅かな開きだが、それは長物である青龍偃月刀を振るうための最小の開き。
 この瞬間、曹丕には西行法師に対する同情の余地はなかった。

 脳裏に浮かんだ物を言葉に変えれば

 (あぁ、このまま斬られてしまうのだろう)

 これだけであった。

 西行法師に、何の感情もない。
 ただただ、これから起こるであろう現象を冷静に、そして冷徹に把握していた。
 そして―――
 関羽が動いた。
 常人ならば、関羽の体がぶれたとしか認識できない。
 そんな刹那の白刃。
 しかし、どんな高速に動いても、人間ではたどり着けぬ速度というものがある。
 それは音速。つまり、言葉であった。
 関羽の動きよりも速く、西行法師の言葉が届く。

 「そうそう、あのミノタオロスだったが……うん?」

 西行法師が風を感じ、関羽の方へ視線を動かす。
 だが、既に関羽は青龍偃月刀を元の位置に戻していた。
 「ミノタオロスではなくミノタウロスですな」と関羽は付け足した。
 それに対して西行法師は小首をかしげのみ。
 果たして、斬り殺される意直前だったと気がついているのか、いないのか?

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