高校サッカー 〜一人の少年の物語〜

四話 『狂い』

 センターバックの鳴滝からの横パスを祐一は受け取った。それを見ると相手の選手はボールを追いかけるのをやめ、自身の基本ポジションへと戻っていく。
 その様子を確認すると、祐一は左の斉藤へとボールを転がした。再び相手のセンターフォワードが食いついてくる。しかし、接近されすぎる前に斉藤は、ボランチの浅島へとボールを預ける。

 ここで前を向ければ、攻撃において相当有利な状態となるが、もちろん相手はそんなことをさせてはくれない。浅島は鳴滝へとボールを落とす。
 すると鳴滝は、そのパスをダイレクトで前線へと放り込んだ。しかし、ぎりぎりの所で相手のセンターバックにボールを弾かれてしまう。

 センターサークル付近でボールの奪い合いが続くが、ボールを保持したのは今回の対戦相手の扶桑高校だ。扶桑高校のトップ下がそのまま函南ゴール付近まで、華麗なドリブルを駆使して持ち込むと、函南センターバックの斉藤を抜きにかかる――かと思われたが、そこで足の裏を使って自身の斜め後ろへとボールを転がした。

 呆気に取られた函南守備陣の隙を突くように、後ろから走って来た相手選手がボールをかっさらい、函南センターバックの間を抜けていく。完璧な祐一と相手の一対一の状況になってしまい、祐一は止めることが出来ずに、ゴールネットが揺れる音を聞いた。

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「鳴滝、前にスペース結構あったんだからさ、もうちょい強く蹴ってくれよ。あそこで弾かれたら厳しいって」

 宮西は、少し苛立った様子でそう言い放った。

「わりぃ、次から気をつける」

 そこに、祐一も口を挟む。

「鳴滝のパスも悪かったけど、中盤も簡単にボールを相手に渡すなよ。前より球際が弱くなってるぞ」

 確かに鳴滝のパスも悪かったが、それを想定して中盤はカウンターを防ぐ為にボールをもう一度保持する事が重要だ。しかし、相手の拾い方が上手かったならまだしも、今回はどちらがボールを保持するかは完全に五分五分だったはずだ。
 球際が強い事が売りの函南高校としては、ここで負けてしまってはいけない。

「そうだな、鳴滝のミスが目立っているが、ボールを取りきれなかった俺たちも悪い。もっとカバーの意識を持って試合に臨んで行こう」

 最後はキャプテンの浅島がそう言って締めた。

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「今日は久々に負けたな」

 独り言を呟く様な感じで、祐一は浅島にそう投げかけた。

「そうだな、今日の試合は、ミスにミスが重なる場面が多かった。次の試合までに改善されるといいんだけど」

「インターハイも近いしな。もっと気を引き締めていかないとな」

 歯車は、僅かに狂っただけでもその動きを止めてしまう。チーム内のずれは、早めに修正しなければならない。

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