高校サッカー 〜一人の少年の物語〜

三話『誤解』

「お、おう、すみませんでした……」

 唐突に浴びせられた批難の声に、祐一はそう答えるしかなかった。いくら毒舌といっても、まさか初対面のうちからこうも厳しく言葉を浴びせられるとは思ってもいなかったのだ。

 しかし、初対面の人にまでこうも厳しい言葉をかけているとなると、男子はともかく、女子からはあまり良く思われてはいないのではないかと祐一は思った。はっきり言って友達には恵まれていなさそうである。

「おいおい嬢ちゃん、そんなこといきなり言うと、大抵の人からは嫌われちまうぜ、もっとオブラートに包んで言わないと。あ、でも俺と祐一はちょっと罵られて興奮するタイプだから別に良いんだけど」

 高橋が祐一の思った事を言ってくれたが、なぜか祐一まで変態という事になっている。

「反省して謝罪の言葉を並べるのかと思えば、自分の歪んだ性癖を暴露するとは、あなた達変態にもほどがあるわ」

「いやいや、俺には別にそんな性癖はねーよ」

 ここで祐一はかけられた冤罪をきっぱりと否定する。

「いいえ、今更変態が何言っても信憑性に欠けるわ。醜い言い訳を並べ立てるぐらいなら、さっさとその口を閉じなさい」

「くそ、これは何言ってもダメなパターンだ」

「やべぇちょっと興奮してきた」

「お前本当に変態だな!」

 彼女の厳しい言葉に高橋が鼻息を荒くしてそう答えた。その様子を見て彼女は呆れたとでも言いたげな目線を残してそっぽを向いた。

「あーあ、俺たち嫌われちまったな」

「全部お前のせいだぞ高橋、俺まで変態扱いじゃないか」

 いくら毒舌でも、それなりに容姿の良い女子に嫌われるというのはきついものである。祐一は、その元凶の高橋を恨めしく見つめていた。

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「はい、まずは先生と周りの人に向かって自己紹介をしてもらいたいんですが、いきなりそれをやるのは緊張すると思うので、まずは隣の人に自己紹介をしてください」

 祐一は隣を見た。そこには先ほど自分に変態のレッテルを貼り付けた、立木沙世が座っていた。
 正直もう関わりたくなかったが、このクラスで約一年も過ごすのだ。もう一度誤解を解く事にチャレンジしてみようと、祐一は決心した。

「あ、あのー、先生もそう言ってるし、まずは自己紹介を……」

「何? 変態の事なんか知りたくもないんだけど」

「いやいや、だから俺は変態じゃないって……」

「ふん、まあいいわ、私もそこまで鬼じゃないから、あなたの自己紹介、聞いてあげるわ」

 そう言うと腕と足を組み、いかにも偉そうな態度で祐一の方を向いた。まあとにかく話は聞いてもらえるらしい。

「俺の名前は能瀬祐一、サッカー部に入ってて、ポジションはキーパーをやってる」

 祐一がそう言うと、彼女はどこか合点がいったかのように手を叩き、

「やっぱり、あなたが最近日本代表に招集されたって噂の能瀬君ね、顔立ちもなかなか良いし高身長なのに、変態って言うのはとても残念ね」

「だから俺は変態じゃないってさっきから言っているだろう? あれは高橋が勝手に誤解させる発言をしただけだ。断じて俺は変態なんかじゃない」

 祐一はとうとう我慢できずに、強い口調でそう言った。だか彼女は、その様子を見てくすりと笑うと、

「そんなところだろうと思ってたわよ、ごめんなさいね、私ってついつい人をからかいたくなっちゃうのよ」

「いやもうそれ、からかうのレベル超えてるから」

 祐一がため息をつきながらそう言う。彼女も、「癖ってなかなか治らないものよ」と、口元に笑みを浮かべながらそう言った。

「でもあの高橋って人は、もう救いようのないくらい変人よね」

「ああ、あれは救いようのない変態だ。俺じゃなくてあっちを罵ってくれ」

 そんな祐一の言葉に、彼女は本当に嫌そうに顔をしかめると、

「嫌よ、変態を喜ばせても、ただ気持ち悪いだけよ。私になんのメリットもないわ」

 その言葉に祐一は「そりゃそうだな」と苦笑しながら返事をした。彼女はやや性格に棘があるが、上手くやっていけるかも知れないと祐一は思った。

「ま、どうやらあなたとは上手くやっていけそうだわ。ごめんなさいね、こんな面倒くさい性格で」

「いや、それも個性と思って受け止めるよ、これからよろしく。そういえば、君の方からも自己紹介をしてくれないか?」

 そう祐一が言うと、彼女はその微笑みを崩さぬまま、自己紹介を始めた。

「これは失礼したわ。私の名前は立木沙世、部活には入ってなくて、アルバイトをしているわ。これからよろしくね、能瀬君」

 今日はいろいろ大変だったが、なんとか丸く収まりそうだ。二人はこれからよろしくと、親交を深める意味を込めて握手を交わした。

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