高校サッカー 〜一人の少年の物語〜

二話『新クラス』

 四月の上旬、心機一転させてくれそうな爽やかな日差しと風がそよぐ今日、祐一はいつもとは少し違った高揚感を胸に抱きながら学校の門をくぐった。

 そう、今日は三年生となって初めての登校日である。クラスは前日に発表されていたが、名簿を見ただけではどんな人物がいるのかは想像がつかない。新しいクラスはどんな雰囲気だろうか。その事を考えるだけでわくわくするのだか――

「まさかお前と一緒のクラスになるとは……高橋」

「まったく、祐一ったら早速嬉しがっちゃって、必死に抑えようとしてるけど、ニヤついてるのバレバレだよ」

「はあ? お前ちょっと視力落ちた? 眼科行ってこい眼科」

 祐一が厳しめにそう言うが、高橋は「もうー照れちゃってー」とさらに調子に乗って抱きついてくる。気持ち悪いし暑苦しい。
 ちなみに高橋だけではなく、斎藤と茅野も同じクラスになった。サッカー部に囲まれて新鮮さは薄れたが、見知った友達がいてホッとしていると言うのも正直な気持ちだった。
 今日は朝練が休みだったので、この四人で一緒に登校している。

 校舎の中に入り、靴箱に靴を入れスリッパに履き替える。そして階段を登って三階に登ろうとして――

「おーい祐一、三年生は二階だよ」

「おおっとうっかりしてた、そうだ今日から三年生だったな」

 その行動を見た三人が笑う。なんだ、ちょっとうっかりしていただけなのに、こんなに笑う必要はあるのだろうか。祐一はその事を不服に思いつつも、一番端っこにある一組へと歩いて行った。

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 教室に入ると、まだ半分ほどしか人が来ていなかった。まだ始まるまで三十分ほどあるので、まあこんなものかと祐一は自分の席を探す。
 幸いな事に、祐一は右から七列目の一番後ろの席に割り当てられていた。窓にも近いし、最初の席にしてはとても良い席である。

「よお祐一、お前一番後ろじゃねーかよ、でもお前よく寝るから一番前の席の方が良いんじゃねーか?」

 祐一の一個前の席に座っている高橋に話しかけられる。

「嫌だよ、かえって一番前の席の方が眠くなる」

「お前どんな言い訳だよ」

 言い訳じみた様に聞こえるが、あながち間違ってはいない。ではなぜ眠くなるのかと言うと、祐一は一八五センチを超える長身である。そのため、後ろに座っている人から、「見えにくいからちょっと屈んで」と言われるのだ。

 顔を横にずらしたら黒板見えるだろ、と心の中で思いつつも、祐一はお人好しのため断れない。そのため、上半身を起こしているとも、うつ伏せとも言えない微妙な姿勢を取り続ける事になり、そのまま日頃の疲れが睡魔を呼び寄せ、完璧にうつ伏せになって寝てしまうのだ。

「確かにお前が一番前にいたら邪魔だな、でも一番後ろにいるってのもなんか気に食わん」

「じゃあどうしろっつーんだよ」

 そんな他愛もない話をしていると、教室に一人の生徒が入って来た。まるでそうするのが当たり前だとでも言うように、祐一はその人物へと顔を向けた。
 その人物は美女だった。だかどちらかと言えば美人と言うよりは可愛らしい部類に入る女子だ。その容姿とも相まって、その女子は見る者を惹き付ける雰囲気を醸し出していた。祐一の目線がその女子に向いたのも納得である。

「お、あの子は噂の立木沙世じゃねーか」

「たちぎさよって言うのか、あの子の名前」

「おう、なんでも可愛らしい見た目に反して結構な毒舌らしいぜ。だけど前のクラスでは罵られて喜ぶ男子が大勢いたって話だ。クラス外からもわざわざ罵られるのを期待して話しかけに来る奴もいたらしい」

「うちの学校って結構変態が多いんだな」

「そんな事言うなって、実は俺もちょっと罵られるのを期待してる」

「ごめんだけど今日でお前と縁切るわ、変態とは付き合いたくないんだ」

「ちょ、まって! そんな事言うなって!」

 こう言う風に二人が騒がしくしていると、その噂の立木沙世がこちらにやって来て――

「まったく、初日からギャーギャー騒いで、貴方達には常識ってもんがないのかしら」

 そう言って、祐一の左隣の席に座ったのだった。

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