八話『初戦前夜』

　全国大会を明後日に控えた函南高校は、今日最後の調整を学校グラウンドで行なっていた。

「今日の練習は終わり！　片付け急げ！」

　キャプテンの浅島が練習の終わりを告げると、皆そそくさとグラウンドを整備し始めたり、ゴールを元の位置に戻したりする。

「片付け終わったらミーティングな」

　列を組むようにしてグラウンドの整備に当たっていた部員が戻ってきて、ミーティングが始まる。

「えー明日は学校に六時半集合。そのあとバスに乗って静岡空港に移動する。時間に遅れないように。以上」

　ミーティングが終わり、今日は解散となった。いよいよ明後日に開幕となる全国大会を前に、皆の周りには緊張感が漂っていた。その様子を察したキャプテンの浅島が、

「今日はしっかり寝れよ。でも緊張して寝れない奴には高橋が添い寝しに来るらしいから、安心して寝れるな」

「でもなんだかんだ言って、キャプテンが一番緊張してるから、今日はキャプテンと一緒に寝ようかな〜」

「気持ちわりぃ離れろ」

　高橋が浅島にくっつき、浅島が必死に引き剥がそうとしている。
　このコントのようなやり取りに笑いが起き、皆の緊張がいくらかほぐれた。祐一も高橋が来ないように、今日はぐっすり寝ようと誓うのだった。

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「おい高橋、なんで俺の部屋に来るんだよ」

「えーだって祐一緊張して寝れないでしょ？　だから添い寝してあげようかなと思って」

「帰れ」

「なんでそんなに冷たいの！？」

　祐一に冷たくあしらわれ、憤慨しつつも悲しげな表情を見せる高橋。だか、ついこの間、高橋に関して以外な事実が判明した。

「でもお前彼女がいるんだろ？　こんな奴に」

「え？　なに祐一嫉妬？　もしかして妬いちゃってるの？」

「いやそんな事はない」

　口ではそう言っているものの、実際高橋みたいな奴に彼女がいるのが不思議でしょうがない。
　発覚したのは、たまたま高橋のスマホを覗いたら、彼女とラインしていたのだ。おまけにその内容に祐一は戦慄を覚えた。
　もし祐一が佳奈と付き合ったとしてもあんな会話は出来そうにもない。そう考えると何故か悲しくなった。

「またまたー、祐一ってば素直じゃないんだからー」

「もうお前帰れ」

「ちょっちょっ、ちょっと、ごめん祐一！　ちょっとごめんって！」

　高橋を部屋から追い出すと、祐一は早速ベットに潜り込んだ。明日のために早く寝ようと、瞼を閉じた。そして、いつの間にか意識は深い谷底へと落ちて行った。

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「おーここのホテルの飯美味いな」

　次の日の夜、函南高校サッカー部のメンバーは、試合会場付近のホテルに宿泊していた。
　今日は明日の試合に備えて穀物を中心とした炭水化物がメインの食事だが、味付けがしっかりしていて、皆その料理に舌鼓をうっている。

「いやーいよいよ明日だな、明日は頼むぜ祐一」

「お前もな。明日は頑張ろうぜ浅島」

　丸く夜空に輝く月が、祐一達を静かに見下ろしていた。