高校サッカー 〜一人の少年の物語〜

十話『絶対絶命』

 後半も両者の激しいせめぎ合いが繰り広げられていた。
 両者ともにシュート数はほぼ同等で、得点チャンスは互いにあるものの、なかなか決めきれずに試合は進んでいった。

 だが後半三十六分、外ケ浜高校のボランチが前を向くと、函南高校の両センターバックの間、斉藤と鳴滝の間にいたセンターフォワードにボールを出す。
 ここで前に向かすわけにはいかないと、すぐに鳴滝が詰め寄り、斉藤がカバーの位置に入る。
 だが、センターフォワードはワンタッチでトップ下にボールを渡すと、トップ下もまたワンタッチで、鳴滝が前に出たことにより出来た後ろのスペースにボールを出す。
 そこには、相手の左ウイングが走り込んでいた。
 完全に裏を取られて、祐一と一対一になる。
 祐一はすかさずシュートコースを消すために相手に詰め寄る。
 しかし、相手はそうなることを見越していたかのように、祐一が前に出て来たところを狙って、下からボールをすくい上げるようにしてシュートした。ループシュートだ。
 祐一は何も出来ないまま、ゴールネットが乾いた音を立てて揺れるのを聞いていた。

「外ケ浜高校同点ゴール! ダイレクトパスでの崩しから鮮やかなループシュートで函南高校のゴールを揺らしました!」

 試合が終盤戦に差し掛かる中、スコアはまた振り出しに戻った。祐一は、これが全国の決勝なのだと、やはり一筋縄ではいかないのだと、そう痛感した。
 しかし下を向いている暇はもちろん無い。振り出しに戻っただけで、勝ちの目は十分に残されている。

「切り替えろ! また一点取りに行くぞ!」

 そう祐一が声をかけると、周りもそれに応えるように気持ちを奮い立たせた。そうだ。ミスをしたのならまた取り返せばいい。サッカーというスポーツにミスは付きものなのだから。

 だが結局、延長戦に入っても決着がつかず、試合はPK戦へと突入した。
 祐一は県大会決勝のPK戦を思い出していた。大丈夫、あの時もしっかり止めきれたのだ。今日も絶対に止め切れる。祐一はそう信じて疑わなかった。

 函南高校が先攻で、最初のキッカーはキャプテンの浅島だ。
 ボールをセットし、笛が鳴った。ややゆったりとした助走から入り、軸足を踏み込むと、鋭く足を振り右足の親指の付け根部分、インフロントキックでボールを蹴り込んだ。

「決まりました! 完璧なコースに蹴り込んで来ました浅島!」

 ゴールポストすれすれの際どいコースに入り、かつキーパーの逆を突いてきた。流石は函南のキャプテンだと感心する。

 一本目の後攻、残念ながら祐一は決められてしまった。やや跳ぶタイミングが遅れてしまった。僅かなズレが勝敗を左右する。気を引き締めていかなければならない。

 結局各チーム五本ずつ蹴っても勝敗がつかず、いよいよサドンデス方式により決着をつけなければいけなくなった。これから片方のチームがPKを失敗するまで勝負が続けられる。

 六本目最初のキッカーはトップ下の茅野、プレッシャーに負けじと深呼吸して心を落ち着かせている。
 ボールをセットする。やや短めの助走から、キーパーを観察しながらゆったりとボールに近づく。そして、キーパーが動いた瞬間に、動いた方の逆の方向にボールを蹴り出す。茅野の得意なPKのスタイルだ。
 そして、ボールはそのままゴールに吸い込まれ――

 ボールが甲高い音を立ててゴールポストに当たり、明後日の方向へと飛んで行った。
 会場がどよめく。外ケ浜の選手と応援団はガッツポーズをしながら歓喜の表情を見せ、茅野は呆然とした様子で地面にへたりこむと、やがてこの世の終わりだとでもいうように頭を抱えてしまった。

 そんな茅野の元に、一人の大柄な少年が駆け寄る。

「頭上げろよ茅野、まだ試合は終わらせねえよ」

 守護神の目は、これからが勝負だと言わんばかりに、闘志に満ち溢れていた。

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