高校サッカー 〜一人の少年の物語〜

六話『仲間との団欒』

 練習が終わった後、いつものように学校に隣接している寮に戻り、食堂で夕食をとる。ここで出される料理はどれも美味しく、祐一にとってもささやかな楽しみの一つになっていた。

「お、今日はハンバーグか。美味しそうだな、いただきまーす」

 さっそくハンバーグにかぶりつく。肉汁がジュワッとあふれ、口の中に旨味が広がる。

「げっ、洗濯すんの忘れてた」

 となりの岡部がそう言う。

「急げ急げ。早くしないと取られるぞ」

 岡部は「分かってるって!」と言いながら洗濯機がある二階に走っていく。その様子を眺めながら、祐一もある事を思い出してしまった。

「俺も洗濯出してねえ」

 祐一のその言葉に、「お前もかよ!」と全員のツッコむ声が食堂内に木霊する。

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「お前も洗濯出してなかったのかよ祐一」

「ああ、お前のおかげで思い出せたよ」

 岡部が、「ほら、あそこ一台空いてるぞ」と一番右奥の洗濯機を指差す。祐一はそれに感謝しながらその洗濯機に向かう。
 函南高校の寮は洗濯機と乾燥機が多く設置されているため、洗濯の時にはあまり苦労しないが、それでも出遅れた場合には使えない事も多い。今日はラッキーだったと言えるだろう。

「ほら、下戻ろうぜ祐一」

 そう言って、二人は食堂へと戻って行った。

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 夕食を終えると、寮生は自分の部屋へと戻って行く。十一時半の消灯時間までは比較的自由で、テレビを観たり、勉強をしたり、時間の過ごし方は人それぞれである。祐一も学校での課題に取り掛かろうとしていた。が、懸念すべき事が一つだけあった。それは、

「なあ高橋、なんでお前は毎晩毎晩俺の部屋に来るんだよ」

「えー別にいいじゃん。一人で部屋に居ても暇だし、だから課題なんかやってないで祐一くーん俺に構ってくれよー」

「分かった分かった。気持ち悪いからとりあえず離れろ」

 高橋はうねうねと体を動かしながら祐一に抱きついてきた。生憎祐一にはそんな趣味はなかったので、引っ付いた高橋を無理やり引き剥がして、ベッドに放り投げた。

「ひどーい祐一君、あたしの事嫌いになったの?」

「課題が終わるまで黙ってろ」

 尚ふざけることをやめない高橋にピシャリとそう言い放つと、祐一は意識を切り替える。こうなると祐一には、もう誰の声も届かない。「ちぇ、つまんねーの」と言いながら高橋は携帯をいじり始めた。

 しばらくして課題が終わり、後から来た斉藤と一緒におしゃべりを楽しんでいた。高橋は祐一の部屋の右隣の部屋で、斉藤は左隣の部屋が自室である。たまに向かいの茅野もやって来て、この時間帯はよくこの顔触れで祐一の部屋に溜まっている。祐一は部屋が狭いと文句を言いながらも、まんざらでもなさそうだった。ちなみに上記のメンバーは全員サッカー部である。

「今日は茅野は来てねぇんだな、寂しいな祐一」

「何言ってんだ。これ以上部屋が狭くなったら大変だ」

「またまたーぁ、本当は祐一も寂しいくせに」

「寂しいのはお前だけだろ」

 高橋は節々そう言う”気“を見せてくる。多分ふざけているんだろうが、その内カミングアウトでもしてきそうだ。まあ祐一としてはそう言うのは別に気にしないが。

 おしゃべりは徐々に盛り上がっていき、話題はこの学年で誰が可愛いかという話になった。

「やっぱあれじゃね? 一組の加藤、あのすらっとした体躯と、ちょっとキツめの目がたまんねーよな」

「あーお前そう言うのが好み? 俺は逆に三組の白坂かな。あの可愛らしさはたまんないよな」

「祐一は誰が可愛いと思う?」

「うーん、俺は選べないな。可愛い子は全員俺の嫁」

 周りから「うわ」「そりゃないわ」などと批判の声が聞こえるが、正直言うと可愛いと思う人はいるが、やはり祐一の心を強く揺さぶるのは佳奈しかいない。

「佳奈、元気にしてるかなぁ」

「ん? 祐一なんか言ったか?」

「いや、なんでもない」

 時計の時刻は午後十時半を指していた。

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 午後十一時頃になると、皆自分の部屋へと戻り始めた。
 最後に高橋が帰り、祐一一人になると、さっそく祐一はベッドに潜り込んだ。しかし、ふと思いついたように、

「そうだ、佳奈にラインしてみよう」

 さっそく祐一は携帯を取り出して、佳奈に「元気?」とラインを送る。前帰省した時にラインを交換しておいて良かったと心底思った。しばらくして、もう寝てしまったのかなと思い始めた頃に、佳奈から返信がくる。

「元気だけど、急にどうしたの?」

 ふむ、なんと返そうかと考えながら、祐一は文字を打った。

「いや、元気なら大丈夫。寝過ぎて学校遅刻するなよ」

 そう返すと、すぐに返信が来て、

「しないし! そう言う祐一も気をつけてよ。じゃあもうこんな時間だし寝るね。おやすみ」

 おやすみと送り返して、祐一も眠りにつくことにした。短いやり取りだったが、祐一の心は充実感に溢れていた。

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