高校サッカー 〜一人の少年の物語〜

四話『リベンジ』

「クリア! ラインアップ! 押し上げろ!」

 太陽は西に傾き、柔らかい暖かな光が地上を照らす頃、函南高校ではたくさんの生徒が部活に熱心に励んでいた。部活動が盛んなこの高校では、全校生徒のうち約九割が何らかの部活動に所属している。
 その中でも一際目立っているのがサッカー部で、去年の選手権は県大会決勝で敗れてしまったが、全国でも名を知られるれっきとした強豪校である。

 新人大会初戦を明日に控えたサッカー部は、万全の体制で最終調整を行っている。チームの目標は全国優勝、そのためにはまず県大会で優勝しなくてはならない。初戦で良いスタートを切ることが重要な鍵となる。
 今日は早めに全体練習が終わり、ミーティングの時間になった。

「皆さんお疲れ様です。さて、明日はいよいよ新人大会の初戦が始まる。初戦から良いスタートが切れるように、今日は身体の回復に努めてくれ。以上」

 監督の話が終わり、ミーティングが終了する。
今日はいつもより少し早めに寝る事にしようと思っていた時、後ろから肩を叩かれる。

「お疲れ祐一、明日はいよいよ初戦だが、調子の方はいかがかな? うちの守護神様」

「絶好調だな。お前こそ調子はどうなんだ浅島?」

「俺も絶好調だぜ。県大会はとりあえず無失点優勝な。気合い入れて行こうぜ」

「頼りにしてるよキャプテン」

 センターバックで新チームのキャプテンを務める浅島幸四郎は、選手権でも一緒に試合に出ていた頼りになる存在だ。圧倒的なフィジカルと、その対人守備能力を生かして、祐一と一緒にゴールを守ってきた。

「さて、今日はぐっすり寝れるといいけどな」

 遠足前の小学生のような発言をしながら、祐一は選手権での無念を晴らしてやると意気込んでいた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 その後、函南高校は順調に県大会を勝ち進み、決勝戦まで登りつめていた。
 決勝戦での相手は選手権で惜しくもPK戦で敗北を喫した森町高校である。
 あの日の雪辱を果たす。最後に笑っているのは俺たちだ。部員達はその想いを胸に、ピッチへと散って行った。

 一月二十五日の午後二時、小笠山総合運動公園エコパスタジアムに一本の笛が鳴り響いた。
 森町高校のキックオフで試合を開始した新人大会静岡県予選決勝、相手はキックオフですぐ下に待機している選手にボールを出すと、その選手がまずは様子見といった感じで前線にボールを蹴り出す。

「ファースト! セカンド寄せろ!」

それに対して、函南高校はキャプテンの浅島やキーパーの祐一を中心とした組織的な守備で対応する。
 ボールを奪った函南ディフェンスは、すぐさまフリーになっていた左ウイングにボールを出す。  そして中央にいる選手にボールを出すと、ワンタッチでボールを前に出した。
 いきなりのチャンスかと思われたが、すかさず森町ディフェンスが左ウイングとボールの間に割って入り、そのまま相手キーパーへとボールが流れていく。
 前半はこのような感じで両者一進一退の攻防を繰り広げた。

 試合が大きく動いたのは、後半十一分、センターサークル付近の相手陣地でボールを奪った函南は、そのままトップ下にボールを出す。
 前を向いたトップ下が、フリーになっている右サイドの選手の裏にボールを出すと、ボールを受けた選手はそのまま中央に向かってドリブルする。
 完全に相手を置き去りにした後、相手キーパーと一対一になるが、すぐ横に上がって来た選手にボールを出し、ボールを受けた選手はそのまま無人のゴールへとボールを流し込む。

「っしゃあ! 先制ゴール!」

 完全に流れを掴んだ函南は、ドリブルでペナルティーエリア内に進入しようとした際に、相手選手に倒されフリーキックを与えられる。
 倒した森町ディフェンスの選手には警告を示すイエローカードが提示された。
 キッカーを務めるのは、今大会七ゴールをマークしている函南の十番を背負うエースストライカー、水上斉木である。
 蹴られたボールは枠の外に出るほどの勢いだったが、途中で鋭く曲がると、綺麗に右上隅へとボールがゴールに吸い込まれる。

「あの十番やべぇな」

「何したらあんなに曲がるんだよ」

 圧巻のフリーキックに会場がどよめきをあげる。そして――

「ピッ、ピッ、ピィーッ」

 試合の終了を告げるホイッスルが鳴らされる。
スコアは二対〇、函南高校サッカー部は、見事選手権大会での雪辱を果たした。

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