高校サッカー 〜一人の少年の物語〜

二話『一年ぶりの帰省』

 高校二年生の大晦日前、祐一は通学している高校がある静岡から離れ、沖縄に帰省していた。
 沖縄は静岡に比べると気温自体は高いが、冬の沖縄は風が強く、まるで汚れた手を水で洗い流すかのように、風が体温を奪い去っていく。
 そんな寒さを感じながら、祐一は直樹の家へ向かっていた。

 家の前にたどり着き、チャイムを鳴らす。しばらくして、直樹が家の中から出てきた。
 一年前よりは大人びた印象を受けるが、その両頬に付けたえくぼからは、まだまだやんちゃな少年らしさが垣間見える。

「よお祐一、元気にしてたか? てかお前またゴツくなってんな、身長も少し伸びたか?」

「おう、二センチ伸びて今、百八十五センチだよ。直樹も少し大人っぽくなってんな」

「だろ? クラスの女子達は俺のダンディーな雰囲気と甘いマスクにメロメロよ」

「ソウカーソレハヨカッタネ」

 祐一が棒読みで返事すると、直樹はそれを気にした様子もなく、「だろ? やっぱモテる男ってチヤホヤされてばっかで大変だぜー」などと意味不明な供述をしているが、そんなことはありえない。ありえてほしくない。

「おっ、綾人も来たぜ、おーい! 綾人ー!」

 祐一と直樹が手を振ると、綾人も手を振り返す。綾人は前から顔立ちは良かったが、一年ぶりに見るとますますイケメンさに磨きがかかっているように見える。

「祐一久しぶり、またでかくなったね」

「久しぶりだな綾人、雰囲気整形した?」

 そう言うと綾人が「してねぇよ! どんな整形だよ」と笑いながらつっこんでくる。
 やっぱりこの二人といる時間は楽しいなと、祐一は笑いながらしみじみと思っていた。

「さて、久しぶりに三人揃ったことだし、ボーリングにでも行きますか!」

 直樹がそう言うと、二人とも手を挙げて賛同した。久しぶりのボーリングに腕が疼く。

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「あー楽しかったな!」

 祐一が満足気な様子でそう言う。

「楽しかったな、祐一は相変わらず上手くて、やっぱり直樹も相変わらず下手くそだったな」

「なんだよ!お前ら俺よりちょっとスコアが高いからって調子のってんじゃねーぞ!」

 直樹が憤慨した様子でそう言う。直樹も決して下手くそと言うわけではないが、この二人に比べると少しばかり劣る。
 ちなみに三人の最終スコアは、祐一が二百二十点、綾人が二百七点、直樹が百八十点という具合だ。

「じゃあ約束通り、俺ん家泊まるときジュースよろしくな直樹」

「ちくしょー! 覚えてろよ!」

 直樹の悲痛な叫び声が空に木霊した。

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 祐一が綾人の家に泊まるために、一旦家に帰って支度を整えようと、二人と別れて歩いているとき、前から、一人の少女が歩いて来た。

「久しぶり、佳奈」

「おー! 久しぶり祐一! 帰って来たんだったら教えてくれれば良かったのに!」

「そう思ってたけど、佳奈ライン変えたでしょ? だから送ろうにも送れなかったんだよ」

「あ、そういえばそうだった。でも祐一の超能力の力でもラインみたいに教えきれたでしょ」

「そんな力ねぇよ」

 冗談で佳奈がそう言うと、祐一も苦笑しながら返事を返す。
 佳奈は去年帰省したときには家族旅行に行っていたので、二年ぶりの再会だ。佳奈も可愛らしい少女から一人の女性に変わろうとしていて、その魅力的な雰囲気や仕草にいちいちドキリとさせられる。

「でも佳奈、ちょっと痩せ気味じゃないか? ちゃんと飯食わないとダメだぞ」

「え、そう? でも褒めてもなんも出ないよ」

「褒めたつもりで言ったんじゃないけどな、とにかく、飯はしっかり食えよ。じゃないと俺みたいにマッチョになれないぞ」

「いや、そこまでマッチョにはなりたくないな」

 佳奈が苦笑しながらそう言う。佳奈は、「それじゃあお遣いの途中だから、じゃあね」とスーパーの方向へ行ってしまった。
 祐一は手を振って見送った。そして、この甘く、ぎゅっとなるような感情を見つめながら、

「俺も、諦めの悪い男だな」

 そう呟いたのだった。

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