最強転生者は無限の魔力で世界を征服することにしました ~勘違い魔王による魔物の国再興記~
その66 魔王さま、本拠地へ突入する
フォラスから聞いた話によると、風のアーティファクトはあらゆる物を浮かべたり、墜落させたりすることが出来るのだという。
もちろん力には限りがあるのだろうけど、とは言え――これだけ巨大な町を浮かべることが出来るのだから、十分過ぎる力だ。
「どうもこれが風のアーティファクトの力みたいだ」
「風のアーティファクトにも驚きだが……まさか、あの下に付いておるのが破壊神サルヴァとやらか? 本当に動くとは思えんな、大きさが巨人族の比ではないぞ」
そして、空に浮き上がったカストラの底には、鎖でつながれた巨大な鉄の人形の姿があった。
サルヴァに入った時は微かに聞こえていただけだった『助けて』という声が、さらに大きくなる。
あの声は……破壊神のものだったってこと?
だとしたら、鎖でつながれ封印されたことを、あるいは闇のアーティファクトという心臓部を失い動けなくなっていることを嘆いているんだろうか。
それとも、もっと別の理由があるとでも?
「あれを動かすのもアーティファクトだから」
「無茶でも力づくと通すと言うことか。現実がこうも現実離れしておると、自分の常識を疑ってしまいそうのなるのう」
現実離れした現実、か。
まさにその通りだ、アーティファクトは思い描いた光景を実現させるだけの力を持っているんだから。
善意も悪意も等しく具現化してしまう。
例えば、今僕たちの目の前に新たに姿を表そうとしている兵器のように。
サルヴァの南方にある門付近に動きがあった。
ガコン、という音と共に地面がスライドして開いていく。
その下からせり上がってくるのは、一門の砲台だ。
先程僕たちに放たれた大砲とは桁違いの大きさを持ち、長い長いバレルは不気味に黒光りしている。
そして完全にその姿を表した兵器は、斜め下からその姿を眺める僕たちに、ゆっくりと砲門を向けた。
キュイイィィィン……と、離れた場所に居る僕たちにも何かをチャージするような音が聞こえた。
砲身の中が紫色に怪しげに光り、魔力が膨大な量に膨らんでいく。
「何だあの巨大な大砲は」
「……ニーズヘッグ、離れちゃだめだよ」
そう言って手を握る。
僕の真剣な表情を見て、まともに受けてはならないものだと気づいたのか、ニーズヘッグも僕の手を強く握り返した。
あの魔力の量、闇のアーティファクトを利用しているのかもしれない。
つまり帝国は、アーティファクトから生じる熱量を魔力に変換する術を持っているということだ。
どれだけ変換効率が悪かろうと、元となるエネルギーが無限なら問題はない。
チャージ音が止まる。
数秒間の、不気味な静寂。
そして次の瞬間――カッ、と僕の視界は閃光で埋め尽くされた。
「テレポートッ!」
発射の瞬間、僕とニーズヘッグは射線上からカストラの真上へと転移する。
直後、僕たちが居た場所を闇色の帯が貫いた。
キュィイン……ドォォォンッ!
地表に到達したビームは、着弾点に存在する物質を一瞬にして蒸発させた。
ズドドドドドドドドドドッ!
そのまま砲門は下から上へと向きを変え、大地を薙ぎ払っていく。
その射程距離は、無限のエネルギーを持っているだけあって無限と言ってもいいほど長い。
ビームは帝国領内のみならず、壁の外までも、大陸を両断するかのように巨大な溝を刻み込んで破壊していった。
幸い、僕たちの背後には人が住む国は存在していない。
けれど、もしこれがマオフロンティアやエイレネに向いていたら、被害は甚大になっていたはずだ。
「サルヴァはこんな兵器を持っていながら、今までどこにも戦争を仕掛けなかったのか!?」
「あくまで本命は破壊神ってことだろうね。アーティファクトも、この兵器も、しょせんは破壊神を目覚めさせるための時間稼ぎに過ぎないんじゃないかな」
「そこまでして守る価値があるとは。破壊神とはどこまで恐ろしい存在なのだ」
僕が思うに、さっきの兵器はサルヴァの技術だけで作れるものじゃない。
たぶん、破壊神サルヴァの持つ兵器を模した物なんじゃないだろうか。
あくまで劣化コピー。
だから一度放つと砲身が赤熱してしまって、冷却が終わるまで連射は出来ない。
ただどうしても気になるのは、火と光のアーティファクト、そして今の兵器にしても、時間稼ぎが露骨すぎるってことだ。
サルヴァ帝国は、壁に囲まれ、謎に包まれ、内外の行き来を著しく制限することで、情報統制を徹底してきた。
けれど、それがエイシャがディアボリカに侵入したことで崩れてしまった。
動きさえしなければ、そもそも破壊神サルヴァの情報が外に漏れることは無かったのに。
なぜ破壊神が目覚める直前になって、堂々と動き始めたのか。
僕にはどうも、誰かが僕を呼び寄せているように思えてならない。
「どうするマオ様、次の一撃はマオフロンティアを狙ってくるかもしれんぞ」
「だったらその前に破壊したらいい」
「闇のアーティファクトの力で守られておるのではないのか?」
「それがどうも――守られてるのは城だけっぽいんだよね」
僕は自らの目に魔力の可視化の魔法をかける。
するとやはり、バリアが守っているのはカストラ城のみ。
他の部分は生身のまま、風のアーティファクトで浮いているだけの状態だ。
つまり、あの途轍もない威力を持った砲台も、バリアで守られていない城下町の部分に付属しているに過ぎない。
「ふむ、ブレスで様子を見てみるか」
そう言って、ニーズヘッグが手のひらから光線を放つ。
シュイイィィンッ!
ブレスは首都カストラの西端に命中、さらにそのまま南に動かすと、あっさりと、ケーキカットでもするように浮き上がった島は切り取られてしまった。
そして切り離された部分は、ドオォォン……と風のアーティファクトの力を失い大地へと堕ちていく。
もちろん、周辺に居た兵士たちも一緒に。
面識も無い相手に死なれても困るから、落ちていく兵士たちだけは重力を操って地面に叩きつけられないように細工をしておいた。
ニーズヘッグは困惑した表情で僕を見た。
言いたいことはよくわかる。
「さすがに脆すぎではないか……?」
「浮かせたせいで余計に脆くなってるし、何のためにこんなことしたんだか。まあ、こっちにとっては都合がいいんだけどさ」
僕も彼女を真似て、光線を光の剣のように扱いカストラの東端を切断する。
「レイブレード!」
ザンッ! ……ドオォォオンッ!
魔法の名前がどこかで聞いたことあるようなネーミングなのはさておき。
これまたあっさりとカストラは両断され、その一部が巨大な岩となって大地に降り注いだ。
ニーズヘッグと僕は最初こそ困惑していたものの、次第に楽しくなってきてしまって、2人で顔を合わせてにやりと笑った。
僕たちは、調子に乗って次々と浮島を切断していく。
ニーズヘッグは両手からブレスを放ち、僕も負けじと拡散する光線をぶっ放し。
どちらが多くの町を墜落させられるか、競い合うように破壊し尽くした結果――ほんの5分ほどで、カストラの姿は跡形もなくなってしまった。
最後に残ったものは、バリアで守られたカストラ城と、その下にぶら下がる破壊神サルヴァのみ。
一緒に闇のアーティファクトも落ちたりはしてないよね?
……うん、大丈夫。それらしき反応は地表には無い。
城のバリアもまだ残ってるし、砲台へのエネルギー供給は城の内部から行われてたんだろう。
「エイレネの方がよっぽど手ごわかったのう」
「あっちだって最初から破壊するつもりならあっさり終わってたと思うよ」
戦争や破壊は、楽な方法だから。
たまにやる分にはストレス解消になるけど、基本的にはつまらないやり方だ。
ましてや自分たち以外の世界を滅ぼそうなんて。
そんなやり方、今日日子供だって考えやしない。
「せめて風のアーティファクトを使う人間でも出てきてくれれば、少しは歯ごたえもあったかもしれんのにな」
「城を浮かせた時点で出てこないとは思ってたよ」
「なぜだ?」
「アーティファクトを奪われたら城が堕ちちゃうから」
「なるほど、それもそうか。自分たちで浮かせたくせに、城が堕ちて皇帝が死ぬなどとマヌケなことこの上ないからな」
だったらなんで城を浮かせたんだって話になるんだけど。
なんだろう、演出ってやつなのかな?
暇つぶしっていうか、ロマンの追求っていうか。
効率度外視な部分が目につくんだよね。
国をここまでボロボロにした男なんだし、自分に酔っていても不思議ではない。
そんなナルシストの娯楽に付き合ってやる義理はないし、とことん丁寧に台無しにしてやらないとね。
……そう、台無しに。
僕たちはカストラ城の入り口へと近づいていく。
窓から侵入するという案もあったけれど、さすがにバリアに阻まれてそれはできなかった。
入り口には固く閉ざされた大きな門がある。
一流の職人の手による細かな彫刻が施され、高そうな宝石が至る所に散りばめられている。
そんな扉をニーズヘッグと一緒に足裏で蹴飛ばした。
ったく、成金趣味が過ぎる、あんな扉を作るぐらいなら、国民にお腹いっぱい食わせてやれっての。
少し苛立ちながら、挨拶もなしに城に踏み入る。
エントランスには、ずらりとローブを纏った魔法師たちがすでに詠唱を済ませた状態で並んでいた。
挨拶なしなのはお互い様のようで。
「リフレクションバリア」
僕は魔法を反射する障壁を、魔法師たちの目の前に生成した。
それに気付かず、ほぼ同時に僕たちに向かって魔法を放つ魔法師たち。
おそらく、彼らは全員一流の魔法師だ。
つまり、放たれるのは少なくとも上級以上の魔法だろう。
本来は、人間1人に対して使うような魔法じゃない、威力が高すぎるからだ。
それがもし自分に返ってきたら――なんて、考えたことはないんだろうな。
「ぎゃあああああぁぁぁぁあっ!」
自らが放った炎に身を焼かれ、1人の魔法師が絶叫した。
その後、輪唱するように他の魔法師たちも次々と身を焼かれ、凍てつき、切り裂かれ、貫かれていく。
残ったものは、かくも無残な魔法師たちの成れの果てだけで。
「ヒーリング」
けどまだ息は残っている。
僕は慈悲を与え、そして一瞬で傷が癒え困惑する彼らに告げた。
「また同じことを繰り返したら今度こそ殺す。それが嫌なら降伏しなよ、悪いようにはしないからさ」
魔法師たちから返答は無かった。
代わりに両手を上げ、降伏をアピールする。
死を恐れない人間とは、往々にして死の淵に追い込まれたことが無いものだ。
そういう人間は、実際に死にそうになって初めて死の恐怖を知る。
彼らがそうだった。
一度死にかけて、もう二度とあんな目には会いたくないと後悔して、だからもう抵抗できない。
「……この先、私の出番はあるのかのう」
一瞬で決着がついてしまったことに、ニーズヘッグは不満げだ。
「無理やりついてくるって言ったのはニーズヘッグじゃないか」
「それはそうだが……」
「ほら、早く行くよ」
僕は彼女の手を引いて、魔法師たちに見送られながら城の上を目指した。
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