最強転生者は無限の魔力で世界を征服することにしました ~勘違い魔王による魔物の国再興記~

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その58 魔王さま、南の国へ旅立つ

 




 魔王城、会議室にて。
 円卓に沿って並べられた椅子に座るのは、僕、グリム、ニーズヘッグ、ザガン、フォラス、ヴィトニル、そしてエイシャの7人だ。
 エイシャは風呂に入ったので見つかった時よりは遥かに綺麗になっている。
 表情も心なしか柔らかい。

「さて、それじゃあ尋問を始めようか」
「はい魔王様、何なりとお申し付けください」

 今のエイシャの言葉を聞いて、フォラスを除いた全員が違和感を覚えたはずだ。
 もちろん僕だってまだ慣れない。

「あの口調、やっぱり演技だったんだな」

 ヴィトニルがぼやいた。
 僕もブレインリライターを使った直後、口調が変わった時には驚いた……と言うか、安心した。
 あの口調でキャラ作ってなかったら、それはそれで、ねえ?

「ご明察ですヴィトニル様。親しみやすいキャラクターの方が情報を集めやすいと判断した結果、生まれたのがあの口調です」
「ずれてるな!」

 ザガンの容赦ない突っ込みが入る。
 確かに、本気で親しみやすいキャラと思ってあの口調を採用したんなら、エイシャはかなりずれたセンスの持ち主だ。

「ザガンちゃん突っ込みが容赦ないねー、えらいえらい」
「えへへー、褒められた」

 そんなザガンの頭を撫でて褒めるミセリア。
 仲いいのは結構だけど、歪んだ教育だけはやめてほしい。

「脱線はこれぐらいにしておきましょう。魔王さま、彼女から帝国の話を聞き出すんですよね?」
「これだけ従順なのだ、聞き出さずとも勝手に話してくれるのではないか、のうエイシャよ」
「はい、今や私は魔王様に忠誠を誓った身ですので。私が知る限り全ての情報をお話し致します」

 従順もここまで行くと人形めいていて不気味だが、話を聞く分には都合がいい。
 僕たちが質問をするよりも早く、エイシャは帝国に関する僕たちが知りたがっている情報をつらつらと語りだした。

「おそらくみなさまが最も知りたがっている情報は、帝国の目的でしょう。帝国――つまり皇帝ディクトゥーラの目的は、破壊神サルヴァの復活です」

 サルヴァは国名として、その頭に破壊神が付くのは初耳だ。
 つまりサルヴァ帝国は、破壊神の名前が由来ってことなのか?

「サルヴァ帝国は破壊神サルヴァの上に作られているのです」
「上に?」
「はい、破壊神サルヴァは帝国の地下深くに埋まっていました。そして現在はすでに発掘済みです」
「発掘できるかみさま、なのか?」
「巨大な金属の体を持つ、からくり仕掛けの神なのです」

 つまり、ロボットってこと?
 明らかにロストテクノロジーじゃないか。
 そんな物が埋まってたってことはやっぱり、この世界には過去、現在よりも遥かに発展した文明が存在してたってことなんだろう。

「で、そいつを目覚めさせてどうするつもりなんだよ」
「いずれサルヴァを目覚めさせ、この世から帝国以外の全ての文明を消し去ろうとしています」

 こりゃまた極端な思想だ。
 自分たち以外を消すことで世界征服を成し遂げるつもりか。
 そんなの、ただただ虚しいだけだろうに。

「それは無理だ、こっちには魔王サマがいるんだからな」
「確かに魔王様は素晴らしい力をお持ちです。しかし破壊神サルヴァはその力を遥かに上回るでしょう。なぜなら、サルヴァが目覚めたその瞬間に、世界はその殆どを失うと言われているのですから」
「誇張しすぎだろ」
「いえ、記録が残っているのです。帝国は『創生歴書』と呼ばれる古文書の完全な解読に成功しました。その本のとあるページに、サルヴァの破滅から生き延びた人間の証言が記述してありました」
「後半の記述か。口語混じりで複雑だから後回しにしてたけど、帝国がそこまで解読を済ませてるとは」

 フォラスは悔しさをにじませている。
 いくらデーモンの知識が膨大だろうと、やはり数の暴力には敵わないか。
 そんなフォラスの様子に気付くこと無く、エイシャは話を進める。

「記述は次の通りです。”からくり仕掛けの神が目覚め、ソールの星のごとき光が夜闇を割くと、世界はは荒野と化していた”」

 光――そのロボットはビームのような物を発射して、地表を焼き尽くし、一瞬にして文明を破壊し尽くした、ってことか。
 それこそが、僕が想定していた文明のリセットボタンに違いない。
 やっぱり存在してたんだ、人の欲望の成れの果てが。
 そして僕の予想が正しければ、破壊神復活の条件は――

「もしかしてさ、破壊神サルヴァの動力って闇のアーティファクトなの?」
「さすがですね魔王様、その通りです。闇のアーティファクトが与える無限のエネルギーによってサルヴァは目を覚まします」

 やっぱりそうだ。
 でも、サルヴァ帝国はすでに闇のアーティファクトを手に入れているはず、その割にまだ破壊神は目覚めていない。

「破壊神が目覚めるのには他にも条件が?」
「帝国まで滅びてしまえば元も子もありません、そこで帝国は先にサルヴァを操るための装置を開発し、その後に復活させることに決めました」
「その装置っていうのは、もう完成してるんですか?」
「未完成のはずです。だからこそ、闇のアーティファクトを手に入れても、サルヴァを目覚めさせていないのですから」

 つまりまだ猶予はあると。
 ただし、のんびりしている時間はない。

「かと言って、装置が完成する前に闇のアーティファクトを奪うのは難しいかもしれません」
「それはマオ様であっても難しいことなのか?」
「闇のアーティファクトの力を使った障壁で、帝国の心臓部、皇帝の居るキャストルム城は守られていますから。あらゆる防壁を砕く矛を持ち、あらゆる攻撃を防ぐ盾を持つと技術者が豪語していたのを覚えています」
「それでもまおーさまなら行けるとおもうぞ!」
「無理だよ」
「どうしてだ?」
「……わかるんだ、なんとなく」

 それがなぜなのか、理由までは説明できない。
 けれど間違いなく、僕には闇のアーティファクトが作り出す防壁を突破できない確信があった。
 例え次元を切り裂いても、それを防ぐほどの防壁が存在している。
 帝国の技術力とアーティファクトの力があれば不可能じゃない。

「珍しいね、魔王君が弱気だなんて」
「……かもね」

 弱気になったわけじゃない。
 けど、僕にとってはそれが当然のことのように思えてならない。
 なぜだろう、まだ防壁を見たことも無いはずなのに。

「だったらどうするの、マオ。帝国が好き放題やってるのを見てるだけってわけにもいかないと思うけど」
「んー……そうだなぁ」

 ミセリアの意見はもっともだ。
 けど、迫りくる危機、世界が滅びるかもしれないという時に、僕の脳裏に浮かんだのは――

「……あ、あれ?」
「どうしたのだ、マオ様」
「いや、なんか……」

 ――南の国へ行かなければという意識だった。
 具体的には、海に面する小国マルへ。
 自分の脳が全く言うことを聞かない、考えたいことと異なる答えを導き出すというあべこべな状態に、僕は困惑していた。
 それはまるで、このタイミングに必ず思い出すよう仕組まれていたかのように。
 全く無関係の国じゃない、帝国と隣接している国ではあるし、マルの首相とは近々会談することになっている……けど、僕があちらに向かうんじゃない、あちらがマオフロンティアにやってくるんだ。
 なのに僕は、どうしてあの国に行かなければ、なんて考えているのか。

「何かあるなら言えよ、気になってしかたないだろ」
「うん……急に、マルの風景が頭に浮かんだんだ」
「リゾート地で有名なあのマルか?」
「そう、あのマル」
「まさかマオさま、能力が成長して未来予知の力まで手に入れたのでは!? つまり、マルに何らかの危機が迫ってるということに……!」
「まおーさますごいな!」
「いやいや、違うから。そんなはっきりした物じゃなく――」
「だが魔王君が違和感を覚えるほど、急に頭に浮かんできたんだろう? 無意味とは思えないな」

 フォラスに言われると、本当にそんな気がしてくる。
 学院の時、時間の巻き戻しなんて使った影響なのかな。
 それとももっと別の何かが、僕に干渉してきているのか。

「どうせマオなら数時間で行き来できるんだし、行っちゃえばいいんじゃない?」
「だな、迷ってる暇があるなら動いた方がいいんじゃねえの。どうせ帝国にはそう簡単に入り込めやしないんだから」
「いいのかな、本当にただの思いつきなんだけど」
「何も無ければそれでいい、リゾートでも楽しんで来たらいいじゃないか」
「留守の間はわたしたちがここをまもるからな!」

 いつの間にか、すっかり送り出される流れになってしまった。
 まあ、みんながそう言ってくれるなら……いいのかな。
 本来ならマルの政府に話を通しておくべきなんだけど、元々交渉はこっち有利で進んでるし、多少の無理は利くはず。
 リゾートはさておき、この感覚の謎を解くためにも、行って損は無さそうだ。

「うん……わかった、じゃあ行ってくるよ」

 あと問題は――エイシャの処断か。
 今や彼女は、この国に絶対の忠誠を誓っている。
 裏切る心配は無いし、かといって殺すほどの恨みも無い。
 爆弾は僕が処理したし、結局犠牲者は誰も出なかったわけだしね。

「ところで、エイシャにはこれからマオフロンティアの国民として、この国のために働いてもらうことになるわけだけど」
「はっ、兵としてこの国に命を捧げる覚悟です」
「いや、そういうのいいから。自分の命を大切にして、まあ普通に幸せに生きていきなよ」
「普通に、幸せに、ですか」

 エイシャは困った顔をした。
 そんな生き方は知らない、とでも言うように。

「仕事は斡旋する。演技が得意なら最近立ち上げた劇団でもいいし、意外と接客も行けそうかな」
「与えられた仕事は必ず全うしてみせます」
「その意気なら何だって大丈夫か。とにかく、人手が足りなさそうな所を紹介するから、そこに馴染めるよう努力してくれればいい」
「了解しました!」

 軍人めいた返事を聞いて、馴染めるか心配だけど……本人にやる気があるならどうとでもなるか。
 しかし、帝国の兵ってみんなこうなのかな。
 人並みの幸せも知らず、帝国のために全てを捧げて生きていく。
 いや、それこそがきっと彼女たちにとっての幸せなんだろうけど――要はただの価値観の違いだ、そんな彼女たちに対して哀れだと思うのは、失礼かもしれない。
 ただ……強引にとはいえ、エイシャを帝国への崇拝から解放出来たことに、僕はある種の達成感を覚えていた。





 僕はその日のうちに準備を済ませ、翌朝にマルへ発った。
 強引に水着を持たされたので、荷物は微妙に増えてしまったけど。

「あの……本当に良かったんですか?」
「元々マルとの交渉はグリムが担当してたからわけだし、居てくれたほうが話がスムーズに進んで助かるからね」

 結局、旅にはグリムが同行することになった。
 グリムより僕の方が遥かに飛行速度が早いので、彼女の体は僕の腕の上に収まっている。
 危険に巻き込む可能性はあるけれど、さっき言った通り、マルとの交渉は彼女が担当していたということもあるし、それに何より――以前から水着を着たがってたからね。

「私だけ、っていうのが申し訳ないですね」
「いいんじゃない? 最近、あんまりグリムと2人きりになれてなかったし」
「気にしてくれてたんですか」
「そりゃそうだよ、一番付き合い長いんだから」
「マオさま……」

 微妙にいい雰囲気になりながら、僕たちは南のリゾート地へと向かう。
 マルに近づく度に強まる悪寒を、どうにか誤魔化しながら。





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