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最強転生者は無限の魔力で世界を征服することにしました ~勘違い魔王による魔物の国再興記~

kiki

その29 魔王さま、商談を行う

 




 味よし、香りよし、値段もそこそこ、栄養価が高く病気にも効く――そんな万能果実の情報がパークス全体に広がるまで、そう長い時間はかからなかった。
 僕が細工をする必要もなく、初日以降、ネクトルの売上は順調に右肩上がりを続け、今では午前中で完売してしまうほどの大人気商品だ。

 今日もネクトルを完売させた僕は、魔王城に戻り満足げにほくそ笑んでいた。
 油断して失敗しないようにと心がけてはいるけれど、これだけ順調なのだし、たまには調子に乗ったっていいはずだ。

「ふぅー、今日もすごい数のお客さんでしたね」
「尻を触ろうとする馬鹿野郎が居るから大変だったよ、何度その手を食いちぎってやろうかと思ったことか。
 ったく、男の尻なんて触って何が楽しいんだか」

 ヴィトニルは「ぐるる」とうなりながら怒りを露わにしている。
 男の尻、ねえ。
 グリムから渡された下着にも慣れてきたみたいだし、そろそろ諦めてもいい頃だと思うんだけど。

「しかし、そろそろあの狭い路地では無理が出てきているのではないか?」
「そうなんだよね、僕も同じことを考えて役所に交渉には行ってるんだけど、なかなか上手い具合に進まないっていうか……コネが足りないっていうか」
「コネ、ですか。
 純粋に客が多いからいい場所をくれ、ではダメなんですか?」
「ダメなんだよ、あいつらコネと賄賂でしか動かないから」
「腐ってんな」

 金を渡してもいいんだけど、あいつらに賄賂を渡すのは何かしゃくだな。
 正攻法で、もっと沢山のネクトルを売れるようにしたいんだけど。

「やっぱあの話、聞いてみるかな……」
「あの話とは何のことだ?」
「とある青果問屋から話が来ててね、うちと手を組まないかって」
「せいかどんや、ってなんだ?」

 ヴィトニルが首を傾げる。
 そっか、人間の世界に馴染みがないとわからないか。
 すでにディアボリカでもケットシーたちが似たようなことやってるんだけどね。

「エイレネ共和国全土の果実を取り扱ってるお店に対して、生産者から買い取った果実を売る仲介業者のことだよ。
 手数料は取られるけど、僕たちがわざわざ全国を回らなくとも商品が色んな場所で売られるようになるってこと」
「よくわかんねえけど、儲かるならやった方がいいんじゃねえの?」

 よくわかんないなら説明しなくても良かった気がする。

「うん、確かにそうなんだけどね。
 ただし、青果問屋と密な関係を築けば、相手も僕たちのことを探ってくるだろうし、販売してる商品が魔物が作ったものだってバレてしまう可能性も高くなる」
「これだけネクトルが売れてるんですから、いっそバラしちゃえばいいんじゃないですか?」

 グリムの言うとおり、僕もできるならそうしたいんだけど。

「まだ早いよ。
 もっと後戻りできなくなるぐらい色んな商品が浸透してからじゃないと」

 今はまだネクトルだけ、いくら流行の兆候が見えてるって言っても浸透したとはいいにくい。
 それに果実って食事のメインじゃないからね、日常的に食卓に並ぶようになって初めて魔物と名乗るべきだと思ってる。
 リスクを取るか、効率を取るか。
 僕が頭を悩ませていると――

「まおーさま!」

 バタンと勢い良く扉を開き、ザガンが玉座の間へと入ってきた。
 勢い良く駆けてくるザガンを、僕は玉座から立ち上がって受け止める。

「おっと」

 彼女はぼふん、と胸に頭を埋めると、気持ちよさそうに頬ずりした。
 少し高めの体温のおかげで、抱きつかれてるこっちも気持ちがいい。

「こうやってだきつくのも久しぶりだな」
「そうだっけ?」
「うん、3日ぶりぐらいだ、寂しかったぞ!」

 前は毎日抱きつかれてたからなぁ。
 しかし……なんだろう、このザガンを見た時に覚えた違和感は。
 ボリュームが足りないっていうか、頭のあたりに違和感があるっていうか。
 なんだっけ、何かのパーツが無いような。

「マオさま、ザガンの頭が……」
「頭?」

 グリムに指摘されて今一度彼女の頭を凝視すると……無かった。デーモンの象徴であるアレが。

「あれ? ザガン、角はどうしたの?」
「けした!」
「消したの!?
 いやいや、あれってデーモンとしての象徴っていうか、大事な物だし!」
「あれがあったからわたしは人間の町に連れていってもらえなかったんだろ? だからばしゅーんってけした!」
「ええぇぇ……」

 戸惑う僕をよそに、ザガンは「ふんす」と鼻息を荒くしてなにやら自慢げだ。
 そこまでして連れて行って欲しかっただなんて、もっと早くに言ってくれれば僕も色々と対策を講じられたかもしれないのに。
 思わずザガンに謝りそうになった所で、フォラスが部屋に入ってきた。

「こらザガン、説明を端折りすぎだ。
 魔王君が困っているだろう」

 学校の先生をしているせいか、以前より叱り方が手慣れているような。

「ちゃんと説明したぞ?
 魔法でばしゅーんとけしたって」
「消したんじゃない、一時的に見えなくしているだけだ」
「あ、そうなんだ……」

 すっごい安心した。
 そうだよね、いくらザガンでも自慢の角をいきなり消したり切り落としたりするはずなんてないよね、まったく心臓に悪いな。
 僕のために消したとか言われたら、罪悪感で眠れなくなる所だったよ。

「方法なんてどうでもいい。
 これでわたしも一緒に連れて行ってもらえるはずだ!」
「人手が足りてないからこちらとしても助かるんだけど……ディアボリカでの用事は大丈夫なの?」

 ザガンは普段から、フェアリーたちと一緒に料理の研究をしたり、アラックと一緒に修行したりと精力的に活動している。

「話はつけてきた。
 まおーさまのためならって、みんな喜んで送り出してくれたぞ」

 話口調から幼い印象を受けてしまうザガンだけど、その辺はしっかりしてるんだよね、心配するだけ無駄だったか。
 こうしてザガンが、新たにネクトル販売に参加することになったのだった。





 翌日の午後、今日もネクトルを完売させ、みんなで商店の撤収作業を終えた僕は、とある屋敷を訪れていた。
 例の青果問屋の主が所有している屋敷だ。
 約束の時間までに完売できるか心配だったんだけど、ザガンが加入してくれたおかげで、いつもより早く客をさばくことができた。
 おかげで余裕を持って交渉に臨むことが出来る。

 門を通り抜け、本物のメイドに案内されながら屋敷のとある部屋へと通された僕は、そこで”彼”と初めて顔を合わせた。
 ヘルマー・マーキュルス、年齢は……確か、24歳。
 五年前に没した父から、若干19歳にしてマーキュルス商会を受け継いだ、若き敏腕経営者だ。
 僕がまだ子供だったことに驚いたのか、彼はドアを開けた瞬間は意外そうな顔をしていたけれど、すぐに笑顔を作り僕に向き合った。

「お会い出来て光栄です、マオさん」
「こちらこそ、声をかけて頂きありがとうございます、ヘルマーさん」

 互いに笑みを浮かべながら(もちろん裏はあるが)、両手で硬く手を握り合う。
 マーキュルス商会は青果に限らず様々な商品を取り扱っており、エイレネ共和国において第二位・・・の規模を誇る卸問屋だ。

「意外でしたよ、ダメ元で声をかけてみたつもりでしたが、まさかうちの誘いに乗ってくれるとは」
「ユリシーズ商会に持っていかれると思っていたんですね」
「情けない話ではありますが、あちらの方が条件は良いはずですからね。
 ですから……ああ、いや、やっぱりこの話はやめておきましょう。
 せっかくの商談の場だ、暗くなるような話はしたくない」
「同感です」

 その後、ネクトルの取引の話はトントン拍子に進んでいった。
 商談なんて初めてだったから、どれだけ不利な条件が突きつけられるかとビクビクしていたのだけれど、ヘルマーの口から語られたのは驚くほどの良条件だった。
 この値段なら断る理由はない。
 何か裏があるのではないかと疑ってはみたものの、今の所は嘘をついている様子もないし、部屋の外でも妙な動きをしている様子はない、契約書にも妙な文言は書かれていないようだ。

「心配せずとも何も企んでいませんよ。
 私はね、あなたとの取引をユリシーズ商会を抜き去るための千載一遇の好機だと考えているんです」

 注意深く契約書に目を通す僕を見て、ヘルマーはそんなことを言い始めた。
 ユリシーズ商会は、エイレネ共和国最古にして最大の卸問屋。
 政治家とも強い繋がりを持っていて、コネと金さえあれば何だってできるこの国において、大きな影響力を持つ会社の一つだ。

「ユリシーズ商会の手が及ばない新たな取引先を新規開拓すること、ここ数年の私はそれに心血を注いできました。
 政治家の後ろ盾が無い私たちではどうあがいてもユリシーズ商会には敵わない、このジリ貧の状況を変えるためにはそれしかない、と」
「だからこんな良い条件を?」
「ええ、むしろ吹っかけられるのではと心配していたのは私の方ですよ、相手は出処もわからない正体不明の果実を売る商人なのですから」

 苦笑いを浮かべるヘルマー。
 そんな相手でも、取引を持ちかけたくなるほどの魅力がネクトルにはあった。
 とは言え、僕もいつまでもネクトルが魔物が作った果実であることを、駆け引きが得意であろう彼相手に隠し通せるとは思っていない。
 最悪のパターンは、信頼関係を築く前にヘルマーに僕たちの正体がバレてしまうパターンだ。
 この場合、十中八九彼は僕たちに不信感を抱くはず。
 最善のパターンは、ネクトルだけでなく様々な商品がエイレネ共和国に馴染んだ上で、僕が任意のタイミングでその事実を明かすことだけど――果たしてヘルマーが、それまで都合よく気づかずにいてくれるものだろうか。
 無理だ、敏腕経営者なんて呼ばれてる人間が気づかないわけがない。
 仮に魔物が作っていることには気づかなかったとしても、僕たちへの不信感は必ず生まれてしまう。

「出処、知りたいですか?」
「それはもちろん、教えていただけるのなら」

 ならばどうしたらいいのか。
 実は、ここに来る前にセンスアップの魔法を使って聴力を強化し、ヘルマーに関する様々な情報を集めておいた。
 彼は生粋の商人だった。
 父も商人で、小さい頃からそのための教育を施されてきたのだ。
 だから、彼が最も重視するものは、”利益”。
 権力でもなく、コネでもなく、倫理でもなく、無意味な正義感でもなく、いかに自分が利益を得ることができるのか、それを中心にして物事を考えている。
 ネクトルの取引に関して良い条件を提示してきたのも、おそらくは最終的にそれが自分の利益になると確信しているからだ。
 つまり、僕がヘルマーに利益をもたらす存在である限り、彼は僕を裏切らないということ。
 だから――

「魔物ですよ、ネクトルは魔物が作った果実なんです」

 ――僕は彼に、全てを話すことにした。
 後で気付かれるのが嫌なら、先に言ってしまえばいいという、単純な理屈で。





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