本音を言えない私にダサ眼鏡の彼氏ができました

みりん

2 神崎くんとLINE

 翌日、学校に行くと、レイカ達がニヤニヤした顔で待っていた。

「で? ダサ眼鏡とはどうなった? 何か進展あったでしょ?」

「ちょっと! 教室でその話はまずいよ。神崎くんに聞こえちゃう」

 私が慌てて止めるけど、レイカはお構いなしだ。

「大丈夫だって。教室うるさいし、ダサ眼鏡の席まで遠いから聞こえないって。で? どうなのよ。早く報告して」

 確かに、私の席は一番前なのに対して、神崎くんの席は一番後ろの席だから、少し距離があるかもしれない。けど、そんなの気休めでしかないんじゃ……。と思ったけど、レイカの目力が強くて言い出せない。私は小声で答えた。

「でも、昨日の今日で何もなかったよ?」

「はあ!? 何もない訳ないじゃん。LINEぐらいしたでしょ!? なんて来た?」

「LINEもメールもしてない。だって、アドレス知らないから……」

 恐る恐る答えると、レイカ達は目を見開いた。

「なんで!? 付き合ってるのにLINEのアカウントもメアドも交換してないの!? 昨日告白した時にふつう交換するでしょ」

「だって、神崎くん告白OKした後すぐどっか行っちゃったんだもん」

 焦って言い訳すると、レイカはイライラしたように私を睨んできた。

「ナナ、わざとやってるんじゃないでしょうね。言っとくけど、わざと嫌われるように仕向けて別れたりしても、夏休みになってなかったら別の罰ゲーム考えるからね」

「た、例えば?」

「そうね。とりあえず、援交で10万稼ぐとか?」

 え゛!

 レイカの言葉に私は凍りつく。援助交際なんて、絶対に無理! 無理無理無理無理! 無理!
固まる私を見て、レイカは溜息をついた。

「まあいいわ。とにかく、分かったら今日中にLINE教えてもらうこと。いいわね」

「う、うん。わかった」

 私が頷いた時、チャイムが鳴った。同時に担任がやって来た。朝のホームルームの時間だ。レイカ達は慌てて自分の席に帰って行った。

 私も慌てて席につき、こっそりと溜息をついた。

 援助交際なんて絶対無理。知らないおっさんとなんて考えただけで鳥肌が立つよ。それに比べたら、神崎くんの方が若い分まだマシだ。

 それにしても、LINE知らないこと、すぐバレちゃった。昨日夜気づいた時、このまま気付かれず、仲も深まらずやり過ごせたらって期待したんだけどなあ。

 けど、結果レイカ達にすぐバレた。そう甘くはないか。まあいいや。LINEなんてテキトーにしてたらそう進展なんてしないよね。

 私は中学で付き合った歴代の彼氏達とのLINEのやり取りを思い出す。うん。しょうもないことしか言って来なかった。例えば、「今何してる?」とか。「今飯食ってる」とか。「おやすみ」とか。「好きだよ」とか。いつも義務感で返信してたけど、私本当はLINEとか面倒くさいんだよね。

 でも、テキトーにハートマークつけて返信したら機嫌とれるし、機嫌が良いと缶ジュース奢ってくれたり、UFOキャッチャーのぬいぐるみ取ってくれたりするから、お得だ。

 うん。大丈夫。女の子と違って男子は単純だから、テキトーに返信してもきっと誤魔化せる。クラスでぼっちになるのを避けるためだもん。頑張ろう。

 私は点呼をとり終え、去っていく担任の背中をぼうっと見送りながら、密かに決意した。

゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜

 晩ご飯を食べ終わったら、もう19時だった。

 昼休みに、気合を入れて神崎くんにLINEを聞いたら、あっさり教えてくれた。その後すぐどっか行っちゃって全然話はできなかったけど、そんなの好都合だ。
そういえばスマフォを確認していないけど、あれから時間も経ったことだし、そろそろ何かメッセージが届いてる頃だよね。

 私は2階に上がると自室のドアを閉めた。お母さんやお兄ちゃんに彼氏とのLINEを見られるなんて死んでも嫌だからね。

 学校カバンからスマフォを取り出し、画面を確認する。あ、LINE来てる。LINEの緑色のマークをタップする。開いた画面を見て、私は驚いた。

 神崎くんじゃない!

 これ、レイカ達とのグループLINEだ。

「土曜3時渋谷でカラオケ! 皆予定空けといて!」とレイカ。

「りょー」とミサミサ。

「OK!」とヤエ。

 慌てて私も返事を返す。「わかったー! 楽しみ♡」

 すると、数秒で既読が3になって、レイカから「これ持ってく☆300円用意して」というメッセージと共にお菓子の写真が送られて来た。ポテチとポッキーと果汁グミ等、各種取り揃えられている。

 さすがレイカ。行動力が違う。土曜楽しみだな。

 けど、神崎くんとの仲がうまくいかないと、一歩間違えばぼっちの仲間入りしちゃうのは目に見えてる。

 それだけは避けなきゃなのに、神崎くんからの連絡がないなんて。困る。これは、非常にヤバい状況なのでは?

 私はベッドに座って、スマフォを握り締めた。

 どうしよう。って困ってる場合じゃないよね。神崎くんから連絡がないなら、私から連絡すれば良いだけのこと。今まではいっつも、こういう時は彼氏の方から連絡くれてたんだけど、今回は私が告白した側なんだから、私から連絡しないとダメだったってだけのことだよ。焦っちゃダメ。

 私は神崎くんとのLINEのページを開き、数秒考えた。

 ええっと、でも、初めてのLINEなんて誰が考えても一緒だよね?

「神崎くん、初LINEです! これから、よろしくね♡」

 うん。こんなもんかな。あんまり長文でも重いし引かれちゃうよね。えいっ。私は送信ボタンを押した。ついでにハート持ったキティちゃんのスタンプも押しちゃえ。これでよし。あとは待つだけだよね。

 今19時過ぎだから、どうせすぐ返事来るだろうけど、待ってるの暇だから、先にお風呂入っちゃお。私はそう決めると、スマフォを机の上に放置してさっさと部屋を後にした。

゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜

 お風呂上がりに今年から美容師の専門学校に通ってるお兄ちゃんに練習がてら髪乾かしてもらってる時に見たテレビが面白すぎたから、ついリビングに長居してしまった。

 もう22時だ。宿題も終わってるし、後は寝るだけ。

 ――て、神崎くんのこと忘れてた。LINE来てるかな。

 私は意を決すると、机の上のスマフォを手にとった。画面を開く。げ。どうしよう。返信来てない! なんで!?

 前の彼氏だったら、「うわ~ナナちゃんからハートマーク来たー! スッゲー嬉しい! ナナちゃんLINEでも可愛いなんて、俺幸せ! これからヨロシク(≧∇≦)/♡♡♡」みたいな、超喜びの返事が速攻で返って来たのに!

 LINE送ってから3時間も放置してた私も私だけど、まさか返事をくれないなんて思ってなかった。どうしよう。返事が来なかったなんて、レイカ達に報告出来ないよ。なんて言われるか。馬鹿にされるだけならまだしも、気に障ったら何されるか分かったもんじゃないよね。

 どうしよう。でも、返事も返って来てないのに、もう一度LINE送るなんてナシだよね。待つしかない? でも返事が来なかったら……!?

 その時、ピロロン、と間抜けな音が鳴って、LINEが一件届いた。

 画面の上の方の新着通知に、「神崎ダイチ:こちらこそよろ―」と一瞬表示される。神崎くんだ! 慌ててLINEを開き、全文を表示する。

「こちらこそよろしく」

 これだけ!? 絵文字もなし? シンプル! 神崎くんアイコンも初期設定ののっぺらぼうのままだもんな。硬派なのかな。ほんとに、今まで付き合ってきた人とは全然タイプが違うみたい。でも、どうしよう。これだけだと会話の糸口がない。なんて返事返せば良いんだろう?

 うーん。

 下手にラブラブなメール送って、仲が進展しちゃっても面倒だしなあ。じゃあ無難に……「明日学校で会えるの楽しみにしてるね♡」こんなもんかな? えい。すぐに返事したから、今度は返信も早いと思うけど、これで、おやすみまで言えれば初日だし、もう夜遅いし、十分レイカ達にも報告出来るよね?

 私はベッドに横になって、お兄ちゃんから借りたジャンプを読みながら神崎くんの返信を待つことにした。

 毎週ワンピと銀魂は絶対読むって決めてるんだよね。でも読み終わっちゃった。じゃあ、ハイキュー読むかあ。僕のヒーローアカデミアも面白かったはず。あれ、まだ返信来ないや。じゃあ、斉木楠雄のΨ難と火ノ丸相撲と約束のネバーランド……も読んじゃったから、ええい、変な絵のお侍さんのヤツも読んじゃえ!

 って、気づいたらジャンプ全部読破しちゃった! もう日付変わっちゃうよ。それなのに、まだ返事来ない……。なんでえ!?

 私はスマフォを睨みつけるけど、ウンともスンとも言わない。

 あ、しかも、既読ついてる! 既読スルー!? 彼氏にそんなことされたの、初めてだ。ひどい! 神崎くん、ナナのこと嫌いな訳!? ……落ち着こう。冷静になろう。とりあえず、告白OKしてくれたんだから、嫌われてるってことは無いはず。

 明日、笑顔でおはようって言って、既読スルーの件について聞いてみよう。それで、とにかく今日はもう寝よう。明日起きれなくなる。

 私は、モヤモヤしたまま眠りについた。

゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜

「おはよう! 神崎くん」

 教室の自分の席で本を読んでいた神崎くんに笑顔で声をかける。すると、神崎くんは気付いて顔を上げた。

「おはよう」

 相変わらず、ダサ眼鏡と前髪のせいで表情はよく分からないけど、昨日と変わった様子はないかなあ。

 私はちょっとわざとらしく、傷ついた表情をしてみせた。

「昨日私のLINE、既読スルーした? ショックだったー。お返事書く途中で寝ちゃったの?」

 ちらりと表情をうかがう。やっぱり、神崎くんはノーリアクションだ。いつもだったら、超慌てて謝って来るはずなのに!

「いや。そういう訳じゃない」

「……」

「……」

 じゃあ、どういう訳だったのよ!? 神崎くん、何考えてるか謎! くっそう。なんか悔しい。

「じゃあ、ナナお返事待ってるね♡」

 秘技ぶりっ子で笑顔を作り、私は自分の席に戻った。

 けど、すぐに返信が来るはずもなく、私はお昼休みの報告会でレイカ達に思い切り笑われてしまうのでした。

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