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第㊙の2の中話 トリックオアトリート!

「トリックオアトリート!!」

現在ルピーと共にグラフ街に来ている俺は本日何度目かの宣言を行う

俺達に話しかけられた冒険者は目を見開いて俺達を一瞥する

『ああ、ハロウィン・・・そんな季節か』

冒険者は納得したようにアイテムストレージを操作して難しい顔をする

難しい顔をするのは当然、この世界にお菓子なんて物は過去のバレンタインイベント産アイテムしか基本的にない
しかもそれはモテル男のみに許されたアイテムにして大事な物に保管されるであろうアイテムだ

「あれれ~?おっかしいな~?」

俺の発言を受けてルピーがメモを取り出す

[お菓子が無いなら食べ物でも良いです]

しかしルピーの援護射撃も虚しく両手を広げる男
この世界で食料を常備している人間は少ない、つまりイタズラし放題!
ルピーには悪いが今回もイタズラのほうが選ばれたようだ

「じゃあじゃあ!イタズラ!ですね!」

俺は最大限子供っぽくイタズラ宣言をするとアイテムストレージを漁りながらニヤリと笑みを浮かべる

『え!?ほんとにするの!?』

男が驚愕に目を見開いて頬を紅潮させ・・・なんで赤くなってんだ?
俺は急にモジモジしだした男から後ずさりながらも、アイテムストレージから年齢増加飴を男の口に放り込む

すると男はみるみる白髪の老人に姿を変えていく

『な、なんじゃこりゃあ!?』

驚く男を確認した俺が上空を見ると、コウモリの数字が一つ少なくなっている
あと78回・・・なんやかんやで順調にイタズラが成功している
最初は気恥ずかしさもあったが慣れたものだ

しかし隣のハングリー娘は気に入らないご様子
先程から何度も俺の肩を揺すって・・・やめろ!ルピーの力だと装備が破ける!

「さっきからなんなんだルピー?」

やっと反応した俺にルピーが頬を膨らませている

「あれ?なんでカボチャマスク外してるんだ?」

これでは俺一人浮かれたバカではないか
ルピーは俺の非難の目も気にせずにメモを取り出す

[あそこでソワソワしてる人は良いんですか?]

ルピーの視線の先には先程から俺達の前をウロウロしている、現グラフ王
正直関わりたく無い人ベストスリーなんだが・・・
明らかにこっち見て咳払いしたりしてるし・・・仕方ない

「トリックオアトリート」

観念した俺は国王にイタズラ宣言をする

「うむ!トリックオアトリートとな?確かお菓子を渡さねばイタズラされるという異国の風習であったな!」

国王はウンウン頷くと渋いニヤケ顔をする
なんだその表情?

「残念な事に余の国には菓子なる物は存在しない!故に余はイタズラを所望する!!!」

後半声を荒げる国王にドン引きしながら俺はルピーの後ろに隠れる

「ルピーさんルピーさん、この人やっぱ関わっちゃいけない人だ、無視しよう」

ルピーはお菓子を持っていないなら興味もないようで
俺の意見をすんなり承諾する

後ろで国王が捨てられた子犬のような目をしているが
悪戯カウンターが減ってるからまぁ良いだろう

しかし俺達の前に更なる変態が立ち塞がる

「あらぁ?陛下に対してその態度はなぃんじゃなぃかしらぁん?」

顔を孔雀のような羽で出来たマスクで覆い隠し
一見してただの優男に見えるが、全身を隠す長いロープから見える筋肉が、圧倒的な存在感を醸し出している

男はクネクネと体を捻りながら俺達の前で屈み込む

「アタシが社会のルールを教えてあ♡げ♡る♡」

男の甘ったるい声に全身の毛が逆立つような感覚を覚える

ヤバイ事になった
先の王が関わりたくない人ならこの人は関わっちゃいけない人だ、間違いない

俺が逃げ道を探していると意外にも近くにいた親切な冒険者グループが俺達の前に躍り出る

『ちょぉっとまったぁぁぁ!』
『アズちゃんは俺達のアイドル!』
『私達の目が黒い内は変態には触れさせないんだから!』
『イエスロリコン!ノータッチ!』

変態は唐突な冒険者の出現に驚き後ずさるが、すぐに目をギラつかせる

『な、なんだ!俺達は冒険者!お前なんて怖くないぞ!』
『そうよそうよ!私達は子供達の未来の為に引く事は出来ないの!』
『イエスショタコン!ノータッチ!』

おーおー、なかなか頼もしい冒険者グループのようだ
ここは助言の一つでもくれてやったほうが良いだろう
俺はルピーが変態を視界に入れないよう立ち回りながら助言を一つ

「気をつけろ!そいつはバイだ!見境無く襲ってくる!」

俺の叫びに冒険者グループの体が強張る
ルピーがメモでバイって何ですか?と聞いてくるが、子供のピュアハートを汚す事は出来ない
メモを無視した俺は、ルピーの手を掴み一目散に走り出す

俺の発言に汗を流しながら男に対峙していた冒険者グループは

『あらぁ?貴方達、良い体してるじゃなぁい?』

じゅるりという音と共に、ローブを脱ぎ出す変態を見て逃げの態勢に入る

『あれ!?あいつから目を外せないぞ!?』
『ちょ!?なんで!?』
『ノーマッチョ!?ノーマッチョ!?』

焦る冒険者達の声を背後に俺とルピーは群衆に逃げ込む

国王直属の6大貴族、そいつらは冒険者並みのスペックとチート地味た国宝アイテムを持っている
やつの能力はヘイトの強制固定、発動条件は肌の5割を外部に晒す事

『『『なんでこいつ全裸になってんの!?』』』

ちなみに全裸になる必要は一切無い

『夢の世界に3名様ご案内よぉん!ドリームダンス!!』
『な!そんな動オロロロロ』
『うっぷ、気持ち悪い・・・』
『ノーストリップ!?ノーストリップ!?』

視界を外せない空間で編み出されるナイトメアダンスは対象者のSAN値を直葬するのだ
俺は背後の冒険者達に心からの礼を込めて走り抜ける

ここまで来れば追ってこないだろう
危険が去ったのを確認した俺が息を整える

『うわ!なんだい!?あぁハロウィンか』

突如鳴り響いた声の方向を確認すると、ルピーが男にメモを見せている
ルピーは早速ハロウィンを再開しだしている
しかし・・・
俺は上空を漂うコウモリを確認する

「まだ75か・・・」

これ今日中に終わるかな?
溜息を吐いている俺の体が唐突に宙を舞う

「のわ!?なんだなんだ!?」

慌てて下を見ると長身細見の男が俺を持ち上げている

「ワーハッハッハ!どうしたアズよ!死霊の様な腐った顔をして!」
「ヴァンプ!?」

リッチーもそうだがなんでこいつら当たり前のように人間の街にくんの?

「しかし・・・これはチャンスか・・・?」

この呪いの装備を解くもう一つの方法を思い出した俺は、ヴァンプが俺を地面におろすと同時にイタズラ宣言を行う

「トリックオアトリート!」

ヴァンプは俺の発言に首を傾ける

「ワーハッハッハ!なんだそれは?」
「これは俺達の行事の一つで、お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ!って意味なんですよ」

ヴァンプは納得したように首を縦に降ると懐から何かを取り出そうとする

「ちょぉっとまったぁぁぁ!」

俺は急いでヴァンプの腕にしがみつく

「む?菓子が必要なのではなかったのか?」

まさかこいつ持っているのか!?
いや、しかしこのチャンスを棒に降るわけにはいかない

「ヴァンプ、お菓子無い、いいね?」
「む?いや、持って「持ってない、いいね?」

ヴァンプは俺の言葉の意味を理解したらしく顎に手をやって考え込む

「ふむ?我は菓子を持っていない、ならばイタズラになるわけだな?」
「そういう事です!」

これでようやくこのドレスかれおさらば出来るだろう

「さて・・・ヴァンプにはどんなイタズラをしようかのわぁぁ!?」

ヴァンプへのイタズラを考えていると誰かに勢いよく後ろに引っ張られる

「なんだなんだ!?」

俺が慌てて振り向くと、そこには大太刀を構えて険しい顔をするルピー
何でこの子いきなり臨戦態勢なの?

「ワーハッハッハ!なかなかやるでわないか!」
「いや、今のは別にイタ・・・」

笑い声につられて前を向いた俺は絶句する
俺がいたであろう地面が抉れ、水路でも通っていたのか水が吹き出している

「・・・ヴァンプさん?一体何事ですか?」
「悪魔種にとってイタズラとは命よりも大事な物であるからな!」
「・・・つまり?」
「我にイタズラをするというのであれば命をかけてもらう!」

ヴァンプはウンウン頷くと再び拳を構える

<システムログ>
<緊急クエスト:荒ぶる悪魔の王が発生しました>

俺は目の前に現れたウィンドウを閉じてヴァンプを見る
ヴァンプの目は爛々と輝き牙を剥き出しにしている

「ルピー!逃げるぞ!やつの目は本気だ!?」

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