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第七十九章 時の砂

木漏れ日荘の自室
鏡の前でくるりと回転する

「うん!バッチリだ!」

本日のグラフ舞踏会の衣装に身を包んだ俺は、身だしなみチェックを終えて一階に降りる

一階では今日参加するメンバーが各々楽しそうに談笑している
これから舞踏会ということもありお洒落な服やドレスを着て来ている
ちなみにグレイはリアルで何かあったらしく今日はログインしていない
その事を伝えに来たグレイが心底悔しそうにしていたので

「ざまぁw」

と言ったら取っ組み合いになったのは良い思い出
普段木漏れ日荘に引きこもっているんだ
たまにはリアルで忙しい思いをしても良いだろう
グレイの事を考えながら談笑しているメンバーに声をかける

「さぁ!皆んな!行こうぜ!」

       ◇

舞踏会の会場である城まで来た俺達は扉の向こうに消えていく人を見ながら疑問を浮かべる
というのも消えていくというのは文字通り、ワープするような感じなのだ
単純にフィールドを移動しただけかもしれないが・・・

前回ここに来た時にそんなギミックは無かったはずだ
一応門番に確認を取る事にするか

「ああ、今回のイベントは人が多いからね、それぞれ別のルームに飛んでいるんだよ」

つまり同じルームになれる可能性は低いわけか
まぁ俺達は特に身内で参加したいわけではないし問題ないな

そのまま城に入場と同時に視界が暗転する
目を開けると別次元
ルームの中はまさに舞踏会場といった所だろうか?
豪華絢爛な装飾が並び、貴族達が笑いながら談笑し、最高級の食事を食べている

そんな様子をポカンと見つめる冒険者達+俺
ちなみに俺の知り合いは今の所誰もいない
俺がキョロキョロしていると周りの冒険者達が口早に感想を述べる

『す・・・すげぇ!これぞ舞踏会!』
『ステキ!』
『想像通りの光景だ!』

そんな様子を見た一部の貴族達がいやらしい顔を浮かべながらこちらに向かって笑い出す

『は!流石野蛮な猿共だな!』
『おお!汚らわしい!』
『国王陛下も何故このような催し物を開いたのか』

これぞまさに貴族といった感じの台詞に感動する俺
だがその言葉を聞いてムッとなった冒険者達は貴族から少し離れた位置で食事を始める

「おいおい・・・絶対この催し物失敗だろう」

そう思いながら冒険者組で食事をする
立食パーティーというやつか?しかしうまいな!うちのハングリー娘は今頃狂喜乱舞している事だろう
豪華な食事にこれまた感動していると
音楽が流れだし貴族達が優雅にダンスを始める

その動きはこの前木漏れ日荘で見たグレイのダンスとは比べ物にならないもので・・・

「へぇ・・・綺麗なもんだ・・・」

気づけばポツリと呟いていた
周りを見てみれば他の冒険者も似たような感想なのか
一曲目が終わる頃には冒険者達はダンスに見惚れて・・・

『まぁ!舞踏会なのに踊れないゴブリン共がいるわ!』

貴族達が冒険者達を煽る言葉で我に返る
流石に我慢の限界だったのか一部の冒険者の目がすわり、剣に手をかけている
おいおいおい!
俺は慌てて周りを見渡して打開策を探す

「・・・!いた!」

二曲目が始まる前、冒険者達が剣を抜く前に俺は冒険者グループから抜け・・・ピンク髪の女性の前に跪く

「姫様、一曲付き合って頂けませんか?」
「あら・・・?もしかしてアズ君?」

一瞬誰かわからなかったようだが俺とわかったピンク髪の女性
ラヴィーネ姫が首を縦に振るう

俺はラヴィーネの手を取り舞台の中央に陣取る
ダンスは・・・苦手だな・・・
しかしこのままでは暴動が起きる・・・やるしかない!

そうして始まる二曲目の演奏
姫が踊るという事で貴族達は遠慮しているのか前に出てこない
練習で少しは上手くなったが・・・やはり難しい!
そんな俺の心を読んだかのようにラヴィーネがささやく

「大丈夫、私に合わせて」

演奏が終わると同時に冒険者グループから拍手が溢れる
その様子に貴族達は悔しそうな顔を浮かべる

『ふん!なかには踊れる猿もいるみたいね!』
「あら?一国の姫が猿とダンスを踊ったとでも?」

嫌味を発した貴族が顔を青くして跪く
そんな様子を尻目に俺は冒険者を見る
冒険者達は互いに頷きあい・・・三曲目が始まると前に出て踊り出す

『はん!猿真似で・・・な!?』
『ほほぅ・・・』
『うむ!美しい!』

冒険者達は元々身体能力は高い
つまりお手本となる物を見ればフーキ程ではないが大抵の冒険者は踊れるのだ
しかも今回真似ているのは日本独自の踊りを加えた独自のダンス
真似できない冒険者はほぼいないだろう
俺は後ずさる貴族達を見ながらホッピージュースを手にテラスに向かう

夜風に当たりながらホッピージュースを飲み干すと大きく溜息を吐く

「慣れない事をするものじゃないな」

ピコン!

ん?誰かからメールがきた?
ステータスウィンドウを開き時間を確認するともう23時だ

「こんな時間に・・・フーキあたりか?」

もしかしたらフーキの会場でも何かトラブルが起きたのかもしれない
失笑しながらメールを確認して絶句する

<差出人 ドクター>

・・・ドクター?
まさか現実の姉さんに何か異常が!?
急ぎメールを開封して中身を確して

<夜分にすまない、緊急事態だ
<君のお姉さんが攫われた
<至急病院に来てくれ

予想以上の内容に思考が停止する

「どうやら馬場が動きだしたらしいのう・・・」

目の前には目元までフードで隠した女冒険者

「馬場・・・グランが!?どういう事ですか!?」
「言葉通りの意味じゃ・・・現実で馬場がお主の姉をさらったのじゃろうな」

・・・は?
女冒険者は絶句する俺を見てからから笑う

「ところで私はこのアイテムをお主に届けに来たんじゃが・・・」

女冒険者が青い砂を取り出す
よくよく観察すると時の砂と名称が出てくる

「これって大迷宮九十九の・・・?クリアしたんですか?」

女冒険者が不敵な笑みを浮かべる

「私はかの三賢者の一人じゃぞ?あの程度お茶の子さいさいじゃわい」

まじかー賢者すごいなー憧れちゃうなー
急展開に目を白黒させる俺の顔を賢者が覗き込む

「今これを使えば飴とは違い永続的に元の姿に戻れるぞい?」
「な!?」

賢者は俺の顔をなぞるように手で触れると「ただし」と前置きをいれる

「戻れるのは今だけ、現実での力も元に戻るがのう」

賢者の言葉に失笑する
ゲームはゲーム、現実は現実だ
俺はリアルで無双したいわけではなく、純粋にゲーマーとしてゲームを楽しみたいだけだ

「そんなの・・・決まってます!」

俺が時の砂を地面に投げつけると賢者は笑みを浮かべる

「姉さんを助ける為なら!俺はゲーマーをやめるぞ!ジョジョ---!!!」

賢者に俺の答えを伝え
ステータスウィンドウを開き、急ぎゲームからログアウトするのであった

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