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第七十四章 最強の盾と矛

「やれやれとんだ損失ですよ〜」

グランが笑顔のまま両手を挙げて
困った困ったと呟いている

「・・・その割に嬉しそうですね?」
「とぉんでもない!王子として!死んだ兵士達に合わせる顔がない!」

グランは片手で顔を覆い隠すとカタカタ震えだす
・・・もしかして本気で悲しんでる・・・?

心配になりグランの顔を覗き込もうとすると
グランが顔を覆ったまま腹を抱えて笑いだす

「まったく馬鹿な人達ですよね〜?」
「・・・それが!本音か!」

杖を取り出しグランに向ける

「おや〜?私とやる気ですか〜?」

グランが手をこちらに向ける

「グラビティ!」

グランの暗唱と共に風を自分にぶつけて範囲から弾け飛ぶ
弾け飛んだ勢いに任せて杖に跨ると、バーナーを着火してグランの背後に急接近する

「ファイヤー!!!!」

グランが慌てた様子でこちらを振り向き手をかざす
この距離なら暗唱は間に合わない!
色々準備をしてきたがこれならここで決めれる!
グランの顔が目の前まで迫った所で地面に叩きつけられる

「あれ?」
「おお!危ない危ない!」

グランは驚いたような顔をすると地面に貼り付けられている俺の前にしゃがみ込む

「私は別に暗唱しなくても魔法は使えるんですよ〜?」
「・・・!」

肺の中の空気が足りず声にならない
だが意図は伝わったようだ

「雰囲気ですよ〜雰囲気!RPGで暗唱は付き物でしょう?」

グランはまるで子供をあやすような笑顔で語りかけると俺の杖を手に取り槍投げのように投げる

「ぐぁぁぁぉ!!!!」

杖は姉の方に回り込んでいたグレイの肩に突き刺さる

「陽動のつもりだったんですか〜?これはこれは稚拙な」

グレイは肩に杖が刺さりながらも、這いずりながら姉に近寄る
グランはそんなグレイの顔を踏むと口角を吊り上げる

「おんやぁ〜?随分と高いHPですね〜?」

グランが再び足を上げると何度もグレイを踏みつける
数回数十回蹴られHPを大きく削れる

「ほんとにタフなお方だ~」

グランはグレイの喉元を持つと、グレイの心臓を貫く
即死はしなかったもののグレイのHPがどんどん白くなっていく

「これで終わりですねぇ~?」

腕を引き抜こうとしたグランの動きが止まる

否、止められた

グレイは体を貫かれた状態のままグランの腕を掴むと俺を睨み大声で叫ぶ

「いっけえええええ!!!」

その瞬間姿を消していたトウヤが姉を抱えて俺の方に走る

「なんだと!?」

驚愕の表情を浮かべるグランにグレイがしがみつく

「グレイ・・・!」

グレイは無言で片手の親指を立てると
さっさと行けとばかりに手を振るう

俺は歯をくいしばり出口に向かって走り出す

            ◇

走り去るアズとトウヤと見て笑みを浮かべる 

「時間稼ぎのつもりですか~?そのHPで?さっさと死んでください」

目の前の人物がつまらなそうな物を見るような目をしている
確かにこのままいけば俺は数秒もたないだろうな
サトミさんを助けるまでに攻撃を食らい過ぎた
もう残りのHPは1割もない
だが・・・何か一つぐらいやり遂げないとな!
俺はグランの腕を更に強くつかむ

グランは嫌そうな顔をして・・・もう片方の手で俺の首をはねとばす
最後に見たグランの顔・・・驚愕の表情を見てゆっくりになった俺はドヤ顔をする
HPが0になった俺の体は炎を巻き上げながら再生していく

「不死鳥の羽・・・そんなレアアイテムよく持っていましたねぇ・・・」

元の位置に戻ってきた首を鳴らす

「カジノで負ける前に交換しててな!HPが0になった時一度だけHPを全回復するアイテムだぜ!」

HPがインフレしてる俺にはもってこいのチートアイテムだ!
余程気に障ったのか、グランは舌打ちをすると再びもう片方の手を振り上げる
しかしいつまでたっても振り下ろされる事はない

「流石はグレイ君・・・はぁはぁ・・・」

ランズロットが荒い息遣いでグランのもう片方の手を拘束しているのだ
ここに来てグランの顔が怒りに染まる

「っちぃ!めんどくさいやつらですね!まとめて吹き飛ばしてあげますよ!」

グランが両手を拘束された状態のまま呪文を唱えると、グランを中心に大爆発が起こる
辺りは砂ぼこりが立ちこもり前も見えなくなる

「あらら?やりすぎちゃいましたかね~?」

グランの嘲笑するような笑いが辺りに響き砂ぼこりが晴れる

「おや?グレイ君、何かあったかな?」
「いいやランズロット、ちょっと爆発しただけだ」

グランの笑い声が止まり無表情にこちらを睨む

「結構本気だったんですがね~」

ランズロットがこちらを見る

「私はこう見えて冒険者最大の防御力を誇るんですよ」

俺もランズロットを見る

「俺は自慢じゃないがHPの多さで他のプレイヤーに負けた事はないな」

ランズロットは豪快に笑うと一つの提案をしてくる

「では・・・防御とHP、どちらが最強の壁になるか・・・勝負しましょう」
「のぞむところだ!」

                                       ◇

PT欄のグレイのゲージが真っ白になったのを確認
あのグレイでも止められないのか・・・!

険しい顔をする俺を見てトウヤが叫ぶ

「アズさんは先に行ってください!」

トウヤから投げるように渡された姉を担ぐ

「・・・頼む!」

俺はトウヤを置いて赤い絨毯の上を走る

「逃がしませんよ〜?」

グランの声が城内に響き
後方で金属がぶつかる音がする

「ほんの一瞬ですが・・・僕の相手をしてもらいます!」
「邪魔な方ですね〜?」

一瞬の静寂の内爆発音が響き、後方の金属音が消える
PTを組んでいたトウヤのHPが全て白くなっている

「まさかあのトウヤが一瞬でやられるなんて・・・!」

俺は走りながら前方を睨む
いつの間に回り込んだのかグランが笑みを浮かべ立っている

「残念ですがここまでみたいですね〜?」

俺はそんなグランを・・・無視して真っすぐ走りだす
グランは訝しみながら手を振りかざし
宙を舞う自分の両腕に驚愕の表情を浮かべる

「あら?アズ君は私の獲物よ?」
[帰ったら、お腹いっぱいご飯です!]

グランの腕を斬ったルピーとAKIHO、最強の剣と最狂の剣がそのまま戦闘態勢に入る

「二人共!任せた!」

グランの腕が再生していくのを確認
二人か同時に斬りかかるのを最後に俺は更に走る

豪華絢爛な扉が遠目に確認できる

「あの扉さえ通れば!」

出口が見えた所でまたしてもグランの声が響く

「いい加減面倒ですね!」

重力に押し潰されそうになる
背後を振り向くと
HPは半分まで削れ、今まで笑みを浮かべていたグランの顔には怒りが見える
そんな様子を見た俺の後ろの人物が笑いながらグランを煽る

「へ!ざまぁねぇな!その顔が見たかったんだ!」
「・・・趣味が悪い・・・」

立てなくなっている俺を海王が引き上げ、姉毎城の出口に放り投げる
赤髪がツーハンドソードを上空に投げて影を出現させる

「まさかおめぇと共闘する事になるとはなぁ!」
「・・・今回・・・だけだ」

海王は赤髪を睨みながら呟くと扉を閉めながらこちらを振り向く

「・・・行け」

倒れた拍子に落とした姉を担ぎガクガクの足を引きずりながら城から脱出する事に成功する

城の中庭まできた俺は姉をおろして息を整える

「ここまでくれば・・・!」
「ここまでくれば・・・なんですか〜?」

目の前に立つグラン
口元は相変わらず笑顔だが、その目には鋭さがある
 
「どこまで行っても逃げれない・・・!」

このクエストには、救出としか書かれていない
結局どこにまで逃げても意味がない
グランが凄惨な笑みを浮かべるのを見て
しかし俺は不敵な笑みを浮かべる

「だから!ここでお前を倒す!」

グランが鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする

「今だ・・・全軍!王子に矢を放て!」
「おぅよ!行くぞお前ら!」

城内広場の真ん中に立っていたフィンさんの掛け声に
屋根の上に登っていた大量の小鳥の会のメンバーがボウガンを放つ
だが死に戻りしたのかステータス衰退異常が付いている
このままじゃ大したダメージは!

「死兵供よ!冥府の王に打ち勝ち、勝利の咆哮を捧げよ!」

再度フィンさんの掛け声
小鳥の会メンバーの状態異常が消える
なにあれ?そんな事も出来るの?

グランは降ってくる矢の雨に打たれると
怒りに任せて自分中心に爆発を巻き起こす

「邪魔なゴミ共がぁぁぉ!!!!」

そこには不気味な笑みを浮かべていたグランはもういなかった
グランが何か呪文を唱えると竜巻が発生

小鳥の会が吹き飛ばされるのを見ながら
グランがフィンさんに腕を振り下ろす

しかしグランの手刀は格闘家に止められる

「フーキ!」
「また貴様かぁぁぁ!」

俺の歓喜の声とグランの怒りの声が混ざる
フーキはグランの手刀を捌きながら後方に飛び退く
追撃を掛けようとしたグランは後ろからシミターで斬りつけられる

「エンド・・・シャドウ・・・!」
「再び合間見えたな!我が宿敵!」

グランのHPはもはや後わずか
それを確認したフーキは笑みを浮かべる

「冒険者としてはルピーちゃんクラスにはなれないけど!PVPでわいらに勝てると思うなよ!」

後ろで頷くエンドシャドウがシミターを振るう
勝負は拮抗している

ここに来て安心感でヘタリ込む俺に、目元までフードで隠した女冒険者が近づいてくる

「よくやったのう」

明らかに歳下っぽい子に褒められて苦笑いを浮かべる

「ここからは私に任せると良いぞい」

そう言うと彼女は姉の額に手をやると何やら唱える
虚ろな目をしていた姉の目に光が灯る

「あれ〜?私なんでこんな所で寝てるの〜?」
「ねぇさん!ねぇさん!」
「わわ!?どうしたのひろ!?大丈夫!おねぇちゃんはここにいるよ!?」

そんな俺達のやりとりを見ていたグランのHPが真っ白に染まる

「おのれ・・・おのれおのれおのれ!」

粒子となって消えて行くグラン
だがBGOをやっていればまたいつ襲ってくるかわからない・・・

「大丈夫じゃぞい?」

顔に出てたのか女冒険者が俺を覗き込みながら続けて話す

「少なくともやつがゲーム内で再び襲ってくることはないぞい」

そんな根拠もない台詞に・・・なぜか安心感を覚えて
極限の緊張状態から解放された俺は、
視界が暗転するのであった

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