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第六十九章 グラン王子

「ああ、青葉さん今日もありがとう」

病室を出たところでドクターが眼鏡を直しながら話しかけてくる
この人は俺の診察をしてくれたドクター兼姉の担当医だ

「姉がいつ眼を覚ますかわかりませんからね!」

辛気臭い顔で話しかけてくるドクターに笑みを浮かべる
BGOでは俺の昔馴染みらしいが正直心当たりが無い
こんな人当りが良くて真面目な人いないんだよなぁ・・・

そんなドクターが今日は俺を見て困ったような顔を浮かべている

「どうしたんですか?何かあれば聞きますよ?」

姉の容態の事だろうか?何を言われても良いように心の準備をする
そんな俺を見てドクターは「いや・・・」だの「しかし・・・」だの言った後
覚悟を決めたのか真剣な表情で俺の顔を見る

「これは君に話そうか悩んだんだが」

ドクターの前置きに自然と喉が鳴る
もしかして容態が悪化したのか?何か問題が起きたのか?
嫌な思想を振り払うようにドクターの瞳を見つめる
俺の覚悟を見て取ったのかドクターは俺からテレビに視線を変える
テレビではBGOのCMが流れている
世界初のVRオンラインゲーム
歴代最強の人気を誇り、俺がドハマりしているゲームだ
CMでは金髪のイケメン、グラフ王国の王子グランがドラゴンと戦っている様子が流れている

「ゲーム内でサトミさんを見かけたという人が現れた」

・・・・は?
あまりの意味不明な言葉にカバンを落としそうになる

「どう・・・いう・・・?」
「そのままの意味だよ、場所はグラフ城の中、しかも情報は複数寄せられている」

そう言ってスマホに一枚の写真・・・スクリーンショットを映して見せてくる
そこにはグラフ国王と王子のグラン・・・そして姉のサトミが映っている

「これはとあるイベントの記念に冒険者達が撮ったスクショだが」

ドクターは改めてスマホの人物を確認して・・・

「私の観察によると・・・これはサトミさんだと判断した」

スクショの中の人物はいつもの活気のある表情は見られないが・・・間違いなくサトミ姉だ
驚きの情報に心臓がドクンドクンと脈打つ

「俺・・・用事が出来ました・・・」
「学校には私から連絡をいれておこう、長期休暇の申請はいるかい?」
「よろしくお願いします!」

別れの挨拶もほどほどに急ぎ足で病院を出ると人目の無いところに移動する
目を凝らして周りを確認すると緑色の発光体、風精霊を確認する
愛でるように優しく風精霊に触れると体に風が纏わりついてくる

「正直情報の出どころは意味がわからない・・・」

けど!と強く言葉に出すと全力で飛翔する

「もう待つだけの生活なんて嫌だ!」

飛翔して家に帰った俺は急ぎBGOを起動する
視界が白く染まり見慣れた木漏れ日荘の天井を映し出す
寝ていたベッドから起き上がり指をぐーぱーしながら感覚を確かめる

「うん!感度バツグン!」

ゲームに馴染んできたのか
最初ゲームを始めた時より断然元の体に近い感覚になった

「さてと・・・行くか」

木漏れ日荘をでた所でクラウスさんが歩み寄って来る

「やあアズ君、食材の件・・・何かあったのかい?」

心配そうにこちらの顔を覗き込むクラウスさん
特段顔に出していたつもりはないが・・・

「ええ!ちょっと城に用事が出来まして!」

クラウスさんの前から逃げるように立ち去り飛翔して城門の前に降り立つ

「そういえば・・・グラフ城初めて行くな・・・」

そんな思いと共に城門を見上げる
そこには中世ヨーロッパでよく見る集中式城郭がそびえたっていた

「間近で見ると圧倒されるな・・・」

あまりの城の大きさに足を止めていると
近くで「まてよ・・・お前を知ってるぞ」とか衛兵が独り言を言いだす
覚悟を決めて城門をくぐろうとした所で衛兵に止められる

「スタップ!スタァァァァップ!」
「なんだなんだ!?」

突然の大声に怯み声の主を睨む

「ここはグラフ城!貴様は通る資格はない!」
「なんで通れないんだよ!」
「入場するにはそれなりの条件が必要だ!」

無理矢理入ろうとする俺を衛兵が取り押さえる
海賊船の経験もある、このまま地下牢からのスタートでも俺は構わんのだぞ?

衛兵は指を三本立てて俺に条件を提示してくる

グラフ城に入る為の条件は三つ
1つ目はクエストによる入場
2つ目はグラフ城の勢力に入る事
そして3つ目は・・・

「なら、私の顔に免じていれては貰えないかい?」

怪訝な顔で俺の後ろを見た衛兵がすぐさま跪く

「クラウスさん!?」

俺は3つ目の・・・有力者の伝手での入場に成功した

          ◇

クラウスさんと並び赤い絨毯の上をしばらく歩いていくと玉座が見えてくる

「ここからは私は一緒に行くことはできない、頑張りたまえ」

クラウスさんに礼を言って玉座に向かって歩き出す
そこにはなぜか玉座に足を組んで座るグランさん、その横に虚ろな目で控える姉の姿があった

「姉さん!」

姉に歩み寄ろうとした所を王国近衛兵に止められる
止める王国近衛兵を睨むと、次々と兵士達が声をあげる

『こちらはグラン王子の妃にあらせられるぞ!』
『無礼者!控えよ!』

わーわー騒ぐ兵士達の声を半分に・・・
姉さんが・・・王子の妃・・・?
混乱している俺の耳にパチパチと手を叩く音が聞こえてくる

「はいはーい!皆さんお静かに」

馬場さん・・・もといグランさんが笑みを浮かべながら兵士達を鎮めていた

「馬場さ・・・グランさん・・・その人は俺の姉・・・ですよね?」
「ええ?ああ!そうでしたね!」

グランさんは少しの疑問の後に俺の発言を肯定する

「姉はどうしたんですか?」

グランさんは手を顎に当てておおげさに悩むようなしぐさをする

「んー・・・この子は私の実験に必要でしてね・・・少し・・・借りてるだけですよ~?」

実験というグランの言葉に杖を取り出す
周りの王国近衛兵達も抜刀するが気にしない
本能がささやいている、こいつは敵だと

「実験?何の事ですか?」
「そこまで貴方に教える義理はありませんね~」

グランは手をひらひらさせ俺を見下ろしている

「そうですか・・・では・・・姉を返してもらいます!※※※※!」

俺の周りを炎が渦巻き炎の魔人が出現する

「わわ!?なんて狂暴そうな魔物だ!?」

驚いて目を見開くグランを無視してアイテムストレージを開く
アルを肩に乗せると王国近衛兵に炎の魔人を突撃させて姉の所まで瞬時に移動する
姉の手を掴もうとして・・・グランに手を掴まれる

「な!?」

グランはアルが斬りかかるのを片手で掴むと遥か後方に俺と共に投げる
俺とアルは地面をバウンドしながら

「グラビティ!」

グランの呪文により地面に張り付けられる
重力魔法ってやつか!?
体を動かそうにも指一本動かない

「炎の魔人は!?」

俺の視線の先には王国近衛兵三人に拘束されている炎の魔人の姿
グラン一人でもこの強さなのに炎の魔人をたった三人で拘束する兵士だと!?
戦力差は歴然、ここは一度撤退するしかないか!

「っく!姉さん!姉さん!今度は皆で助けに来るから!待ってて!」

俺の声に無表情な顔を向ける姉
姉さんに!そんな顔は!似合わない!
こうした元凶であろうグランを睨むと飄々とした態度で首を傾げている

「それは困りますね~」

グランが何かを考えるように手元を操作するとイベント告知が流れ出す

<イベントクエスト、グラフの姫を守れが発生します>

「こうしてしまえば冒険者は貴方の敵になってしまいますね~?」

グランが凄惨な笑みを浮かべる
イベント告知に目を丸くして言葉も出なくなる
悔しさに唇が裂けて血が流れる
グランの呪文の効果が切れ、フラフラと立ち上がる
今やるしかない・・・!
再度杖を握りしめ突撃しようとした所で玉座の間に女性の声が響く

『やれやれじゃな』

グランの笑い声が止まり目の前に新たなクエストが現れる

<イベントクエスト、グラフの姫を奪還せよが発生しました>

「え?」
「なんだと!?」

再び現れたもう一つのイベントにポカンとする
今度はグランも驚いているようだが・・・?

「馬鹿な!?アリスやラヴィーネにこんな芸当出来るはずが・・・まさか!」

何か思いついたのかグランは先ほどまでの笑みを消して険しい顔を浮かべる

『そのまさかじゃよ、お主に出来ることが私に出来ないわけないじゃろう?』

声の主を探し周りを見回すが誰もいない

「ええい!何をしている!そこのガキを捕らえろ!」

焦っているのか口調が別人となったグランの指示で王国近衛兵が俺に詰め寄ってくる
王国近衛兵は三人で炎の魔人に匹敵する
一対一でも無理ゲーレベル

「でも」

口元を拭い杖を握りしめる
今は逃げるしかない

だが新たな可能性が出て来た

「姉さん!絶対助けに来るから!」

風を操り誰よりも早く入り口に飛翔する
しかしまわりこまれた!
目の前には王国近衛兵が立ったいる

「な!?」

誰よりも早く動いた筈だぞ!?
驚きながらも風の向きを変えて横を通り過ぎようとする

しかしまわりこまれた!

「なら!上に!」

しかしまわりこまれた!
天井の燭台に王国近衛兵が槍を持って待ち構えている

「うおおおおおおお!」

ギリギリの所で槍を避けるが掠っただけでHPが半分減り地面に叩き落される
落ちた衝撃で肺の中の空気を吐き出す
急ぎ新しい空気を吸い込み
口の中に広がる血の味に顔を顰める

「ゲームだってのに・・・リアル追求し過ぎだろう」

まるで本当に瀕死の重傷を負ったような痛みが全身を駆け巡る
痛みで動きが止まった俺に影が差す
王国近衛兵が目の前で剣を振り上げている
今からくる痛み・・・そして死に戻りを覚悟して目を閉じる

「・・・?」

いつまでも痛みが来ない事を不思議に思い眼を開ける
そこには目を抑えて苦しそうに呻く王国近衛兵達

「一体何が!?」
「我が血縁!こっちだ!」
「太郎兄!?」

襟を引っ張られ玉座の間の壁に吸い込まれる
しばらく引き摺られて行くと部屋の中に連れ込まれる
追ってが来てないかを確認すると後ろを振り向く

そこにはクラン†断罪者†のメンバーとフーキ、それにピンク髪の姫・・・

「えっと今村さん」
「今村はやめろ!今はラヴィーネ姫だ!」

ラヴィーネ姫が手を組んで立っていた


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