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第六十八章 大迷宮九十九

迷宮都市 最難関ダンジョン
大迷宮 九十九

全99階層からなるダンジョン
最速クリアタイムは45時間
一回でもこの迷宮の攻略を始めると、中断は出来るが他の迷宮に入ればリセットされ
かつ中断すると1日1回しか入れない迷宮の法則に引っかかるという難儀な迷宮だ

ちなみにアイテムの持ち込みも出来ないうえに
アイテムを持ち出せるのはダンジョンクリアのみ
失敗したら第一層からやり直しだ
そんな超高難易度ダンジョン、ここの最下層にはとあるレアアイテムが眠っているという事で注目を浴びている

<時の砂>
<このアイテムを使用すると、基礎ステータスとスキルがリセットされる>

BGOではキャラを複数作る事や、デリート等が出来ない為
初期の情報が無かった時に作った人達が死ぬほど欲しているのだ

          ◇

今回は時の砂目当てに一人で来たのだが・・・

「なんでグレイがここにいるんだ?」

グレイは馬鹿かこいつといった風な目でこちらを見つめる
まずは目を潰してやろうか?

「そんなの金稼ぎに決まってるだろ?」

何言ってんだこいつ・・・
グレイは口でちっちっちと言いながら指を振る

「いいか?ここの最奥のアイテムの相場は5000Rだ!これは狙わない手はない!」

確かに相当な値段だが・・・それはクリア出来たらの話だろう?
まぁ引きこもりのグレイがやる気を出してるみたいだし

「折角だし最初のほうの階層は一緒に行くか」

第一階層への扉を開くと辺り一面に草原が広がる
そこには多くの冒険者がいるのだが・・・
目の前の摩訶不思議な光景に頭を抱える

「なぁグレイ?あの人達何やってんだろうな?」
「俺に聞くなよ・・・」

そこにはひたすら全力疾走している冒険者や筋トレをしている冒険者、瞑想している冒険者等
皆一様に何かに没頭している

話を聞こうと俺は近くで筋トレしている人に近づく

「あの・・・何してるんですか?」
「ん?もしかして君は初めてかい?それなら・・・」

筋トレおじさんが説明を始めようとした所で一人の青年が慌ててこちらに走り寄って来る

「モンスターが出たぞー!!」

草原でこのBGO最弱のモンスターと言えば一匹
そう、ブルーラットだ

青い鬣をなびかせるブルーラットから距離をとりながら何か武器になるものが無いかを探す
そんな中何も考えずブルーラットに突進していくグレイ

「いくらレベルが下がっても!初期ステータスで鉄壁の守りを誇る俺にダメージなどあだだだだ!」

たった一回突進を食らっただけであのグレイのHPが半分削れている
そんな馬鹿な!?
よくよくグレイのHPを見ると数字が初期値になっている
まさかこのダンジョン・・・

「レベルだけじゃなくて初期ステータスまでリセットされる!?」
「そういう事だよ、だから皆初期ステータスを考えて色々行動しているのさ」

俺の後ろを歩きながら説明してくれるおじさん
ありがたいが今はそれどころではない!
瀕死に近いグレイに急ぎ近くにあった薬草を擦り込む

「わ・・・悪いなアズ・・・ありがばばばば!」

グレイが毒状態に陥る
まさかこのダンジョン・・・

「アイテムの見た目もランダム!?」
「そういう事、見る人によって見た目が違うんだ、ちなみにアイテムの識別は自分で試すか敵に投げるか・・・だね!」

おじさんの説明に納得して
見た目薬草の毒草をブルーラットに投げつけて殴る
粒子になって消えていくグレイとブルーラットを見てこのダンジョンの難しさを改めて実感するのであった

        ◇   

北海道道東にあるとある病院
眼鏡をかけた医師がフラフラと壁によりかかる

「大丈夫ですか?ドクター?」
「ああ・・・大丈夫だよ」

そう言いつつもドクターの足取りはおぼつかない

『仕事熱心な人よね!』
『でも・・・それが心配なのよね・・・』

後ろではナース達が色めきだっている
医師は苦笑いをしながら診察室の椅子に座る

東京から北海道に出張できているサトミの主治医
彼は慣れない土地での仕事に疲弊・・・しているわけではなく
毎日仕事の後にBGOで徹夜をしているからフラフラなのだ

そんな彼の目的はただ一つ
問題のスクリーンショットの人物の確認だ
とあるクランクエストの一つにグラフ城からの依頼があり・・・
そのクエストのクリアでは王に謁見できるのだ
そして目的の人物はこの王との謁見で必ず出現する
医師はスクリーンショットを見ながら溜息を吐く

「今日でやっとクエストが終わる・・・」

果たしてその人物が本人だったとして私は平常心を保てるだろうか
帰った後のBGOの事を考えていると病室から出てきた青年にぶつかりそうになる

「おっと!ごめんよ!」
「っち!どこ見て歩いてやがる!」

青年は唾を吐きだすとそのまま出口のほうに向かう

「・・・今の子・・・どこかで見た事があるな」

決して良いイメージではなかったのは確かだ
そんな人間が見舞いに・・・?
興味本位で病室に入ると、これまた見た事のある青年が一人テレビを眺めている

「君?ちょっと良いかい?」

青年は話しかけられると、虚ろな目でこちらを眺め
またテレビを眺める
その目に生気は無く、まるで生きながらにして死んでいるようだ

私の見立てでは・・・精神的な物ですね・・・
テレビで流れているBGOのCMで我に返った医師は表情を引き締める

「失礼しました・・・ゆっくり休まれてくださ・・・」
「ああああぁっぁぁぁぁっぁぁ!!!!!!」

突如目の前の学生が叫び声をあげる

「!?どうされました!大丈夫です!」

手を握り目を見据えて真剣に話しかける
ナースコールを押して青年のカルテを持ってくるよう指示を飛ばす
学生の視線の先には金髪のイケメンがドラゴンと対峙する姿

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

カルテを急ぎ読んだ医師は
とても大きな注射針で鎮静剤を注入する
少しずつ静まっていく学生、だが強力な作用を持つこの鎮静剤
副作用で顎が外れる程の痛みを生じるのが傷だ
だが今出来るのはこのぐらいの事だった
医師は後の事を主治医に任せ帰宅する

「あの子の事も気になるが・・・今私がすべきは・・・」

医師はヘッドギアを被り最期のクエストに向かうのであった

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